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人形シリーズ  作者: 古月 うい
三部 壊れた人形

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38/88

夢見幾世、仙人

「こっちだ」


手を引かれて私たちは夢見幾世に降り立った。


「その服では目立つ。これを着ろ」


ぽいと投げられたのは今まで見たことがない形。上半分は着物のようで、下は袴というには少し違う。上から羽衣を羽織って行こうとすると止められた。


「この世界の人たちは多少なりとも力を持っておる。そんなものを着て歩いてみろ。たちまち目の色を変えて剥ぎ取られるぞ」


治安悪めなのかな?


これを剥ぎ取られるわけには行かないのでおばあさまの差し出した薄衣を羽織る。


力を持つ人たちが沢山いる世界。他とは違い、夢浮橋によって執政界から隔絶された世界。


皆が夢を見る世界。夢見幾世。


孤姫たち曰く、もともとこの島と隣の国との貿易の拠点で文化がごちゃ混ぜ。


「ここなら飛んでも良い。すこーし見られて終わりだ。わたくしは疲れた。汐凪、ここから指示する方向へ飛んでくれ」


早速おばあさまにこき使われて、言われるがままに飛んだ。


「移動している間に伝えておこうかな。


ここは人の数が多く、階級が明確に分かれておる。上流になるにつれて服は清のようなものになり、中級は今の汐凪のような服で下級になると浴衣に似たものになる。


そして、歴史だがここは後で教えるとしよう。


見えたぞ」


正面を向くと、とても大きな屋敷が見えてきた。


崖をくり抜いて作ったのか山に沿って建っている。全体的に黒く、木の色と黒色しかない。人々もみんな黒い衣だ。


「降りるぞ」


指し示されたバルコニーのようなところに降り立つ。


この瞬間、裾がひらひらしてかっこよくて好きなんだよな。


「雪子はいる?」


「雪仙人ですか?あちらの離れの方に」


飛んできた人に驚きもしていない。どんな能力があるのだろう。そして雪子って誰。


案内された離れはやけに立派だった。祀るような感じ。


「雪子、利音、いる?」


「あ、汐執政官。いらっしゃるならご連絡くださればよかったのに」


出てきたのは異様に長い髪を引きずる人と、鬟をさらに複雑にしたような髪型の人。


「そちらの方は?」


「わたくしの孫の汐凪と、その仲間の早良だ。」


おばあさまに話をふられたので、慌てて頭を下げる。


「執政官第六位、汐凪と申します。人間に置き換えれば汐の孫です」


「同じく第七位、早良と申します」


その人たちはご丁寧にどうもと言ってくれた。


「私は雪の子と書いて雪子。時操りの能力を持つ、仙人と呼ばれているわ。今は汐の業務の補佐をしています」


「利音です。勝利の音でりおんと。能力は読心を。雪子とは違い仙人ではありませんが。汐の補佐をしています」


髪が長い方が雪子で、変な髪なのが利音、と。


「私の漢字は早い良いです」


「私は汐と、凪。どう説明すればいいのかわからないけれど。」


とりあえず自己紹介が終わって、利音がお茶を淹れに行った。


「お久しぶりですね汐執政官。三十年ぶりでしょうか?」


「あなたにとっては些細なことであろう?」


雪子と利音は執政官に敬語を使っていない。知らないのかな。


「汐凪、不敬だと思った?それは1番の傲慢だよ」


おばあさまにはお見通しらしい。


雪子にも笑われている。


「私たちはそれぞれ仕組みは違いますが半分不死身のようなものなので。かれこれ五百年は生きていますよ。

だからこそ、雪子は仙人と呼ばれます」


ちょうどお茶を運んできた利音に説明された。


いや、そう思ったのは半分あなたのせいだよ?あなたは敬語じゃんか。


「ならなぜ利音は敬語なのですか?」


「場面によって使い分けるのが苦手で統一しているだけです」


確かに楽そう。私がそれをしたらきっと早良から大目玉を喰らうのだろうな。


「汐凪たちはどのような要件で?」


「ここ百年ほど執政官がこちらに出入りできなくなっていたとされているので見にきたと言ったところ。

汐は消息不明だったの」


あり得ないという顔をされた。でしょうねぇ。こんなあっさりしてて、こんなところがとは思っても見なかったし。


「解決したからもう帰ってもいいのだけれど、せっかくだからしばらくいてもいい?」


「もちろん。この離れの一室を貸しますよ」


ありがたや。


結局その日のうちに服を着替えさせられた。今度は灰色の羽織だ。


「ここにいるなら最低限常識をわきまえてもらいます。まず、家から。」


先生化した利音によって外出禁止令が出され、勉強だ。


「ここには京家、風家、水家、華家があります。昔は桜家や利家もあったのですが、すべて京家の下になってしまいました。

私は元々利家の出身ですね。唯一の旧代の生き残りです。

それぞれの家が色を持ち、黒、白、水色、紫は普通の人が羽織に使うことができない色です。

今は京家の庇護下なので黒を着てください。

女性が自立しやすいと、汐執政官から言われました。白拍子や官吏、京家などによって進出ができます。」


色には気をつけろ、と。基本はそれだけだった。


「この地には巫女はいますか?」


一応挨拶しておきたい。この地の巫女にもあっておきたい。


「巫女ですか……京家の姫、姫巫女、桜守、どなたでしょうか」


多い。それに相当する役割はたくさんあるのだな。どれかが何もわからないが……


「ああ、いないぞ」


「おばあさま?!」


巫女がいないって、どういうこと?


「そういう取引だ。いずれ知るときが来るだろう。その時には手遅れだろうがな。」


よくわからない。おばあさまが一緒に出掛けてくれることになったが、雪子に苦い顔をされた。


「汐執政官もあまりこちらに出てこられていないのに案内とか無理」


そう言われたので、おとなしく4人で行くことにした。


「あなたたちの立場はきっと複雑になる。

天上大御神が信仰されていて、信仰神霊姫と同一視されている。執政官は今までわたくしだけだった。」


だから拒絶されるということか。


「ここには来られなくなるかもなのでしょう?なら、その前に見ておきたい。おばあさまが気にすることはないよ?」


おばあさまとよばれて、おばあさまは苦い顔をした。


「なら、夕方には屋敷に戻ろう。多分桜守のところには行けると思うから、そこに行こうか。」


雪子の鶴の一声で桜守のところに向かうことになった。


「早くない?この道」


「整備されて、乗り物も進化して都まで2時間で行けるようになりましたから。京家は神祇官の管理どころですから、連絡が必要だったのです。昔は中央京家があったようですが燃えてしまって」


なんだか不穏。どんな地なのよ……


「まあ、桜守の屋敷がそろそろ見えてくるから、暗い話はやめて。ほら、あそこに夜見桜が」


「よみざくら?」


指示された方を向くと、正面には立派な桜が重そうな花をつけていた。あれ、今って桜の季節だっけ。

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