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人形シリーズ  作者: 古月 うい
三部 壊れた人形

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34/88

祐と結

ーーーーーーー祐ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まだ、僕が幼い幼い頃。二桁にならない歳の頃だった。


「こんにちは。」


目の前に、白髪のとてつもない美人がやってきた。驚いて腰を抜かして見上げると、その人はゆったりと笑った。


どこか恐ろしい、逆らうことのできない笑みだった。


「驚かないで。あなたにはすこし、協力してもらいたいの。いいかしら?」


小さな頭で必死に考えて頷いて、その人について行った。


「私は四姫(しひめ)。この世を司る八百万の神のひと柱、時神よ。簡単に言うと、時間の神様。」


四姫は、僕をひたすらに甘やかした。


物には不足しないし、食事もおいしいし、何か欲しいと言ったらすぐにそれが現れた。


「あなたに一つ頼みたいの。その代わり、一つ願いを叶えるわ。」


「なら、お母様をかえしてください。」


その頃、ちょうどお母様がいなくなってすぐで、家や店が暗くなるのが嫌だった。


「ごめんなさい、それはできないの。私の能力は、時を戻すことはできない。

流れ行く時には、人も物も逆らうことができないの。何事も、例外なく」


「ならやらない」


何を言っているのか、理解できなかった。ただ、もう帰りたかった。


「あなたは商人の子供よね?なら、今日までのここでの生活にいくらかかったか、わかる?

その分だけでも、お返ししてもらわないと。」


のような問答を何度も繰り広げ、結局折れた。


さすがに、姿を大人に作り変えられては折れるしかなかった。


「これから、あなたには夜という女性の元に向かってもらいます。

そして、その女性と子作りなさい」


いきなり何を言い出すのかこの女神と殴りそうになったのを何とかとどめた。


「なぜ」


「今は言えないわ。けれど、いつかわかる時が来るでしょう。そのために、あながやるべきことよ」


そうしてポンと押されて、あれよあれよと言う間に夜は妊娠した。


商家の紋章だけ渡して、四姫によって元に戻された。


「こちらの都合に巻き込んでしまってごめんなさい。いつか、あなたが望んだ時に一つ願いをかなえるわ。」


それからどうやって帰ったのかは覚えていない。


この出来事を父に話すと、決して話さないようにきつく言われた。


そして夜とその子を引き取ると約束してくれた。


何も問い詰めず、ただ淡々と後処理をした。



やがて、夜が僕の母としてやってきた。


娘は女の子で、小さくてかわいかった。

そのころは名前がなかったので、父の配慮で実の父である僕が結と名付けた。


人と人を、神とを結ぶような存在。僕のあの記憶を裏付けるたった一人の娘。


成長を見るのがうれしかった。はたから見ればただの兄妹でも、僕の情はそれ以上だった。


結が5歳のころ、結が一時いなくなって、必死で探したことがあった。


僕は結が普段行っていたところをくまなく探した。それでも見つからず、あきらめかけた時に一人の女の人が目の前に現れた。


「あの子を探していらっしゃるのですよね?どうぞこちらへ」


その人は、早良(さわら)と名乗った。道中ぶつぶつと文句を垂れていて、正直信用ならなくて怖かった。


黒すぎるほどに黒い髪と、淡い茶色の瞳。服は動きやすさに重点を置いていて、とてもかっこよかった。


「こちらです」


指示したのは、ボロボロながら小綺麗な家だった。おそらく空き家の。


その前に、結と女の人の二人が遊んでいた。


女の人は優しそうに笑っていて、目が夕日のような橙色だった。髪は長くてまとめもせず乱雑に広がって、日を受けてつやつやしていた。前髪はがたがたで、それが人間離れした美しさを際立たせていた。


「結!」


慌てて駆け寄ると、結は驚いてにっこりと笑った。


「お兄ちゃん。いらっしゃい」


「どこ行っていたんだ!何日も何日も……」


つかんだ結の髪は柔らかくて暖かくて、それだけで安心した。


「早良、ありがとう」


「よかったですね」


二人がにこやかに会話しているのをにらみつけると、橙色の瞳の人がこちらに気が付いて笑った。


「ご心配をおかけしました。わたくしは汐凪と申します。結がこちら側に迷い込んできたので、相手をしておりました」


優しそうな人だ。けれど油断はできない。何も説明をしていないのだから。


「汐凪、もう少し優しく説明出来ないのですか。」


「だって、この子たちが今知るべきではないでしょう?」


完全に置いてけぼりにされている。汐凪はそのころからマイペースで気ままで優しかった。


「結を助けてくれてありがとうございます。」


「いいのよ。それじゃあ、帰る?」


迷いなくうなずくと、目をつぶってと言われた。


言われた通りに目をつぶると、そこはすでに見知った通りだった。



きっと僕が初めて見とれた女性が四姫で、知りたいと思ったのが汐凪だった。


けれど、再びあったころには汐凪は僕には気が付かなかった。それでいいと思っていたのに、炎に包まれて望んだのは、汐凪のことだった。


今はこの姿だから、それを伝えることもままならない。でもそれでいいと思っている。


いつまでも見守れるのだから。


ーーーーーーーーー汐凪ーーーーーーーーーーーーーーーー

「親子なのね」


祐はじっとしている。それはそうだろう。


「結が江の血縁で確定ね。さっさと戻りましょうか」

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