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人形シリーズ  作者: 古月 うい
三部 壊れた人形

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33/88

行商人

「ずっとここにいる気がする」


「まあ、家ですしね」


移儚夜の家に着いてから四人でお茶を飲む。


「あの、わたしたちの実家は、商人です。

三代前までは行商人の鶺鴒(せきれい)というところでした。今は店を構えています。」


三代前、か。


その頃に結界の行き来が制限されたのだろう。だからこそ行商人は成立しなくなった。


そして、同時期におばあさまが失踪。どうも関連がありそうなのだよな……


「なら、そこに行きましょうか」


結と佑の実家に。




「ここ、のはずなのですが……」


目の前には賑やかな食事どころ。罷り間違っても商店ではない。


「すみません、鶺鴒という商店をご存知でしょうか」


早良が早速近くの商店に入って手招きしてきた。


仕事が早い。


「ああ、二十年ほど前に移転したと聞いております。

今はもっと奥の方にあるはずです。」


服屋で聞くと、女将さんが教えてくれた。


「ありがとうございます。」


せっかくなので一つ縮緬の袋を買った。


「あなたたちは、良家の令嬢ですよね?なぜここに?」


「あ、えっと」


令嬢ではないと思うが、言っては詰んでしまう。


「私たちは旅人なのです。教えていただいたお礼に演奏いたしましょうか?」


そんなわけで、なぜか店先で唄うことになった。 


「過ぎるもの 変わりゆく人 ただ今から 記憶へと 曖昧な ただの記憶へ

我らは人 我らは旅人 思い出に 残ることなく 過ぎゆく身

進むべき 道すらわからず なくしたまま 歩くことすら 幸せへと」


三べん唄い、交代する。唄うだけで楽器のおかげで手の皮が厚くなる。


ただ無心に早良の歌声を追う。それが心地よい。


久々に旅人らしいことをした気がする。


いつもなんだかんだでやっていなかったから。


「ありがとう。きれいだったよ」


おかみさんに褒められて、小さな飾りをもらった。



「ここね」


派手過ぎず地味すぎずちょうどよい塩梅の商品が並んだ良い店だった。


ここが二人の育ったところ……


「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」


「行商人の犀に百年ほど前にいた(しょう)の血縁を探しております。何かご存じないですか?」


その人はまだ若く、首をかしげてから少しお待ちください遠くへ入っていった。


「どう?久々に来てみて」


「全然違います。でも、少し懐かしいです。」


結をここから引きはがしたのは、間違いなく私だ。


おろおろしながら顔を見ると、悲しそうな、懐かしいような泣きそうな顔をしていた。


「どうかなさいましたか?」


奥から、先ほどの人に伴われて老人が出てきた。


「いえ、何も。お初にお目にかかります、汐凪と申します」


「早良です」


「結です」


「ご丁寧にどうも。赤嶺(せきれい)の先代、陽と申します」


老人に案内されて店の奥のいわゆる応接間に入れていただいた。


お茶は茶色くて、初めて見るものだった。


「ほうじ茶というものでございます。かつて行商人の犀だったころに異国のお茶を教えていただいたのが始まりだと言われております」


焦げたような香りが鼻を抜けていく、おいしいお茶だった。ほんのり甘い。

添えられたお菓子が塩漬けの桜添えなのもとってもおいしい。


「宵について、でしたかな」


「はい。宵の血縁をご存じないですか?」


「私は元孤児の先々代の養子なので、詳しいことはわかりませぬ。」


養子なのか。先々代というと、祐と結の親世代の可能性が高い。


祐と結の失踪で跡取りを確保する必要が出てきて、選ばれたのが孤児のこの人というわけか。


「では、行商人であった家で今もなお物語が残っていそうなところはありますか?」


「それなら、行商人犀が分家した木犀でしょうな。紹介しましょう。」


「ここだね」


教えられたところは、仕事ができるという雰囲気を醸し出す人のやっている怪しい店だった。


「失礼致します」


やはり二人の方が身軽だ。相手に気を遣わなくて済むからだろうか。


「いらっしゃいませ。何か御用ですか?」


「はい。行商人の犀というところにいた宵の血縁を探しているのです。」


早良が淡々と交渉している横で、先ほどの隠居について考える。名前は陽だったか。


なぜここを紹介しておきながらついてこなかったのか。佑と結を残させた理由は?


佑と結に危害を加えるような雰囲気ではなかった。そうだったら置いてきていない。


けれど行動が謎すぎる。


「それなら知ってますよ。というより、あの陽氏の先代、月氏の子供達がややこしくてですね。


おそらくその二人のどちらかが血縁だったのでは。その二人が最後になるでしょうね。分家もなければ、絶えてますし。」


その人が語ったのはこうだった。


まず、宵は子を残していないが、実の姉の娘の子供、つまり宵の又姪が夜。


その世代の一つ前、鶺鴒は月氏が一人娘である南風(はえ)と結婚し、息子が生まれた。


それが祐。


南風は早くに亡くなった。月氏はしばらく再婚はせずにすごしていたが、祐が十になるころに若い娘と再婚した・


それが夜。夜は、小さな女の子、結を連れていた。


その女の子について聞かれた時、月氏は「娘のようなもの。血縁はしっかりしている」と答えたそうだ。


その佑と結が十二の頃、失踪した。


今度は月氏も嫁は迎えず、孤児の陽氏を養子にして跡取りにした。



あの結界の解除に肉体はおそらく必須だ。なのに佑しかいないとなると……


「結と佑の関係はどうなるのでしょうか」


「義理の兄妹になりますが、月氏の血縁はしっかりしているとはどういうことか、ですね。

さらに流れた噂によると、結が生まれた前年あたりに佑が二週間ほどいなくなったと」


もう、わからないよ。噂を信じると結の父は佑になるけれど、どう考えても年齢が合わない。


「ありがとうございます。

他に何かわかれば、これを外に投げてください。来ますから」


鳥の置物を置いて、店に戻った。


「結…どうしたの?」


なぜか、衣装の質が数段上がっている。


「陽おじいさまが、くれたのです。断った方がよかったですか?」


嬉しそう。すっごく結が嬉しそう。孫感あるよな、結って。


「いいえ。お礼は言いなさいよ」


「言いました!」


怪しい……


「お気になさらず。好きでやっていることですので。今着られているものは差し上げますよ」


陽氏…


早良がペコペコしているので合わせて頭を下げる。


「何か情報は集まりましたか?」


「ええ、だいぶ。あとは裏付けを取るだけです」


結を早々に引っ張って家に猛ダッシュで帰る。


「汐凪、どうかしたのですか?」


「佑!答えなさい。時神と接触したことはある?」


佑は答えない。けれど目を逸らしている。


「あるのね。結に聞かれたくないのなら、工夫するけれど」


おそらく、佑が命をかけてまで守ろうとする秘密だ。


「で、どうなの?」

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