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人形シリーズ  作者: 古月 うい
三部 壊れた人形

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妖怪の里、四 付喪神

その夜、なかなか寝付けなかったので外に出た。


「どうしようかしら」


このあと、何をするべきなのか。目的がなく宙ぶらりんの状態が怖いなんて初めてだ。


いまは江の血縁を探さないと。


「お久しぶり、と言うのが正しいのかしら?汐凪。」


聞き覚えのある声が聞こえて驚いて振り返るとそこには月夜に照らされた千姫がいた。


「千姫…」


千姫はにこっと笑って簪を差し出した。


「少しいじらせてもらったわ」


手を触れると、煙のようにちいさな女の人が出てきた。


「わ、」


「付喪神。あなたの役に立つわ。」


神ってこんな簡単に作れるものなのだろうか。


「付喪神は九十九神。だいたい百年使われた道具に宿る神。

時神には、物の時間を早めることなどお安い御用よ。」


それだけ言って、千姫は消えた。


残されたのは付喪神と私。


「えっと、あなたの名前は?」


女の人は首を傾げるだけだった。


「ない」


高く澄んだよく通る声。


ないのか…


「付けようか?」


その人はこくこく頷いた。


「じゃあ、珠の簪だから、珠守(すま)でどう?」


その人、珠守はニコッと笑った。


珠守はすぐに消えて、元の簪になった。




「戻ってきたの」


朝に早良に言われた時は何のことかと思った。


すぐに簪だと気がついて慌てて頷いた。


「ああ、うん」


その日、朝ごはんを食べていると鬼姫がやってきた。


「皆さまおそろいですね。


外に出られるようになりました。どうなさりますか?」


私たちは顔を見合わせた。


「わたくしたちの目的は江の血縁を探すことです。それに関する情報をいただけますか?」


いきなり帰れと言われてもね。心の中で清に拍手を送る。


「わかりました。では酒呑童子(しゅてんどうじ)が呼びにきますので、それまでお待ちください」


誰、酒呑童子。


鬼姫はさっさと下がって、代わりに茨木童子が入ってきた。


「茨木童子、酒呑童子はどなたかわかる?」


「はい。上司です。」


簡潔。わかるならいいか。


呼ばれるまでは部屋で過ごすことになり、のんびり早良と話すことにした。


次第に飽きてあやとりをして遊んだ。意外と飽きない。


「汐凪、その簪は?」


「戻ってきたの。」


清はスッと手を伸ばして飾りをひと撫ですると、そうと笑った。


「何か?」


「いいえ。わたしがどう判断するかと思っただけよ」


何を言っているのか。清が判断するなら、そんな他人事みたいにならないのに。


酒呑童子からの呼び出しは昼食後だった。


「お待たせしてしまってごめんなさいね。


一時、江に思いびとがいたのは知っている?」


何その新情報。清以外は驚いた顔をしている。


「説明、お願いします。執政界の外の人の見解も聞きたいので」


清、ありがとう。


「江は想い人と付き合い、逢瀬を重ねました。

けれど、それに怒った長により想い人は処刑されたのです。」


簡潔。けれど、どうして長は殺したのだろう。そこまでする必要はない。


「それは、いつ頃ですか?」


「百十年ほど前に」


その十年後におばあさまが執政界を出た、つまりまだ汐里は生まれていないし、おかあさまもいない。


仲間になることはなかった、つまり早くに死ぬのに、慌てて殺す必要はなかったのでは?


「その江の想い人の血縁が、江の血縁になります。

執政官の血縁は、自分で設定できますしね。」


そんな仕組みなのか。てっきり清が血縁かと思っていた。


「その人物は、わかっていますか?」


「移儚夜と大遠野国に親族がいるらしいです。

江の想い人の名は、行商人の(しょう)と。店の名前は木犀と。」


そこまでわかれば、百年ほど前の人物なら探れそうだ。


「十分です。お世話になりました」


狐姫はにっこりと笑った。


「それが妖怪の里の役目ですから」




「おかえり。どうだったの?」


沃様が出迎えてくれた。後ろには結が佑を抱えて立っている。


「上々です。大遠野国か移儚夜に、行商人の宵の親族がいると。それが江の血縁だと。」


「そう。とりあえず、上がって」


空間に入って、一息つく。やはり妖怪の里は疲れるところだったのか。


ここも知らない場所なはずなのに、不思議だな。


「で、何があったの?」


さながら尋問だ。今、事実上執政界のトップにいる沃様だから、それが通用する。


清はところどころ、簪がなくなったことや観光のことなどは伏せつつ報告した。


「そう。妖怪の里ね……」


「ご存知なのですか?」


「ええ、四界のどこにも属さない地ですから」


ふーん。


「どうします?探しますか?」


「はやいほうがいいから、伝手がある人に向かわせましょうか。

汐凪たちは移儚夜へ。あたくしと泊が大遠野国に行きます。

清と霧氷はここに残って。それでいいかしら?」


さくさくと分担を決め、出発は二日後になった。体を休めろということか。


その日一日は寝通し、翌日朝日より早くに早良に起こされた。


「なに?」


「汐凪、寝ぼけていないで鍛錬しよう。長が場所を作ってくださいました」


そんなわけで普段の服の上から袴を履いて襷掛けにして弓を並んで射った。


懐かしいな。


昔、早水に散々やらされた。私は武器を投げられるから要らないと言っても、基本を知らなければ意味がないとやらされたのだ。


だから、今でもその感覚は残っている。


「二人とも、一旦休憩しなさい。もう日が高くなっているよ」


長に言われるまで、夢中で気が付かなかった。


「長。おはようございます」


「おはよう。朝ごはんできているよ。早くおいで」


全員で朝ごはんを食べに食堂に向かった。


「こうして食べるのは初めてね」


長が声を立てて笑うと霧氷の視線が飛んでいった。


「確かにそうね。」


沃様はニコッと妖艶に笑っている。


清は無表情だ。


「ごちそうさま」


結は早々に箸を置き、去っていった。きちんと食べられている。


「結、もう少しいたら?」


結は一瞬振り返って、また行ってしまった。


まったく。きっと執政官ではないことを気にしているのだ。そういうところのある子だ。


「江が迷惑をかけるわね」


「貴重な体験です」


長に言われていたたまれなくなって早良と共に今度は普段の服のまま竹刀で剣術だ。


早良は無駄がない動きをする。それがとても綺麗だ。


私はクルクル回りながらそれを避けて、竹刀で防ぎつつ早良を消耗させる作戦だ。


あー、飛んで避けたい!


でもこの場は能力禁止だ。早水の決めたルールで、実力勝負、らしい。


ともかくひたすら避け続け、頭を下げた時にそのまま早良の竹刀を飛ばす。


やっぱり飛ばない。もう、強くなったなぁ。


でも、腕を振り上げるなんて、この体制では致命傷。


早良の喉元にそのまま竹刀を突き付ける。


これで勝負あり。




「では、行ってきます」


「気をつけて。」


清に見送られて、私たちは移儚夜に向かった。

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