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人形シリーズ  作者: 古月 うい
三部 壊れた人形

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31/88

妖怪の里、参、簪

「んー、これからどうする?私たちでは情報収集あんまりできないよね?」


「そうだね…茨木童子殿、なにかありますか?」


茨木童子は少し目を開けて首を傾けてから奥に引っ込んでいった。


そして、いくつかの紙を持って鬼姫と共にやってきた。


「茨木童子は世襲の名で、神名と同じ扱いなので敬称は必要ありませんよ。

こちらが、この里にある商店や付けられた観光地の一部です。どこかいってみたいところはありますか?」


山の中の花畑、肉饅頭屋さん、おもちゃ屋さん、飴作りができる飴屋さん、簪作り体験などたくさんだ。


里の地図と見比べながら肉饅頭屋さんと簪とに行くことにした。


明日は劇場に行って鍋料理屋さんに行きたいな。


「わかりました。茨木童子をつけますね。くれぐれもお気をつけて」


茨木童子は本当に無口だ。というより、まったく喋らない。首を振るか黙るか仕草で返事をする。


「ここに、お金はありますか?」


「あるにはある。ただ、基本みんな使っていないよ。生活に必要な物資は長が配給しているから」


なんという楽な仕組みなのだろう。


その代わり、妖怪たちは門番をやったり山で獲物を狩ったら3分の二を納めなければならなかったりするらしい。


お金の心配をするなんて、早良らしい。


そもそもお金を使っているのは移儚夜だけだ。


それだけ移儚夜が長かったからだろう。


「いきましょうか。念の為、羽衣と護身武器系は持っていきなさいよ」


清に睨まれるがそもそも護身武器を持ち歩かなければ何のための護身武器なのだろう。


私はそこら辺のものを浮かせて投げつけられるし、相手を浮かせられるからほぼ使わないけれど。


「私、護身武器持ってない」


霧氷がちよいちょいと羽衣を引っ張ってきて不安げに言った。


「持っていた方がいいかもしれないね。どれがいい?鉄扇?クナイ?針型手裏剣?」


どれも微妙な顔をされた。結局クナイになった。一番手軽で霧氷が扱える重さだったからだ。


クナイを持った濡羽色の断髪の小さな女の子。


それだけで絵になる可愛さだ。クナイは袖に仕舞わせた。


「使わないことが一番なのだけれどね」


それでも、あるのとないのとでは大違い。


「じゃあ、饅頭屋さんに行こうか」



肉饅頭屋さんは、一店のメニューにいろいろな種類が書いてあった。


蒸したもの、焼いたもの、汁が多いもの、少ないもの、皮の甘いもの、肉の多めなもの。


霧氷は汁が多くて焼いた小さなものを六つ注文した。

泊は皮がふわっとした大きめのものを一つ。

私と早良は甘めと辛めを一つづつで半分こに。

清は小さめなものの中身を色々と頼んだ。


さらに羹、スープや炒め物などを色々頼んだ。



「どうやって食べるのかな、これ」


霧氷はやってきた肉饅頭に目をぱちぱちさせている。


今まで知っている肉饅頭よりも小さくて皮が薄い。

手で掴んで食べられるようなものでもない。


清とオロオロしていると、茨木童子が教えてくれた。


茨木童子は桃饅頭らしい。こちらにまで甘い匂いが漂ってくる。


「ここは、人?が多いけれど有名な店なの?」


「そうですね。ここに来れば何でも食べられますし。

休日の楽しみのような店でしょうか」


安定の美味しさというやつだろう。大店なのだな。


「汐凪、これおいしい」


霧氷は気に入ったらしくぱくぱく食べてしまった。


清は大蒜にんにくに驚いている。

それでどうやって今まで生活してきたのか。謎だ。


泊は色々手を伸ばしていた。泊の側だけよく炒め物が減っている。


「これ美味しいですよ。食べてみてください」


「では、こちらの皿に入れてくださいませんか?」


泊は同じく敬語の早良と気が合うようだ。二人で和気藹々と会話をしている。


私はそれに何だか複雑になって早良の羽衣を引っ張った。


「どうかなさいましたか?」


「別に」


清と霧氷がニヤニヤしながらこちらをみている。

何を話されているのだろう。


一口羹を啜ってみて程よく出汁がきいていて塩味もちょうどよく飽きない味なのに驚いた。


私としては辛めの肉饅頭が気に入った。



肉饅頭をそれぞれひとつづつ持って帰ることにした。


正確には、鬼姫の屋敷に届けてもらうことにした。


そこまでしてもらっては悪いと言ったのだが、茨木童子はさっさと手続きしてしまった。


「では、銀細工店に行きましょうか」


どんな妖怪が銀細工をやっているのか、楽しみだ。


「どんな妖怪がいるのですか?」


茨木童子は少し笑った。


「妖怪は昔からの幽霊が変じることもあります。

そうしたものはまず名を持たない、種族もないただの妖怪として何年か里で過ごした後、正式に妖怪になるのです。

銀細工士もその類です」


ほう?


「茨木童子はどうなのですか?」


「わたくしは先代がどこかから拾ってきた鬼です。出生は存じません」


先代茨木童子がいるのか。個人名ではないのか。驚きだ。……そういえば前世襲だと言っていたな。


「簪作りに向かいましょう」


すっかり観光している清は楽しそうだ。


「ここは、清の故郷なの?」


どうもそうは思えない。

故郷を観光とかするものなのだろうか。


「……ええ、わたくしの故郷よ」


どうかしたのだろうか。


そう思っていると、鳥が羽ばた音とともに、くまとめていた髪の重さがなくなった。


髪がほどけたのだ。


上を向くと鳥が簪をくわえていた。


そして、そのままどこかへ飛んで行ってしまう。


「待っ……」


早良が何か言うより先に私は跳んで追いかける。

あれを奪われてなるものか。


「早良、止められる?」


「不可能なことを求めないでください」


早良が下で失礼なことを言っている。まったく。


鳥を追っていくと、割と近い山に入っていった。


「千姫、お久しぶりです」


千姫はにっこりと笑った。


「いきなり来てしまってごめんなさい。この簪、借りてもいいかしら?」


借りてもいいかと聞くわりにすでに手に持っている。


神界では幼い印象が強かったのだけれど、やはり神だな。


「返してくださいよ」


千姫はにこりと笑って、簪をひと振りして消えて行った。


しばらくして、早良が現れた。


「汐凪、見つかりましたか?」


「いいえ。仕方ないか。ほかの人はどこに?」


「銀細工師のもとに。行きましょう。」


早良は何も聞かない。それが苦しい。早良は私にいつも一線をおいている。


「遅かったね。」


「間に合ったの。ここにどうぞ。」


慌てて座って作業を始める。まだ柄を選ぶところだった。きっとのばしていたのだろう。その優しさがうれしい。


「これ、できますか?」


私がさしたのは菊の立体的な花の見本。

難しそうだけれど……


「できるよ。時間はかかるけれどね」


金細工師は初老の男性かと思っていたら、若い女性だった。


「なら、これで」


早良は流水の形の簪を、霧氷は実用的な簪を、清はいろいろと相談して形を決めた。


「では始めましょうか」



簪は後日の受け取りになる。楽しみだと思いつつ屋敷に戻った。

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