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人形シリーズ  作者: 古月 うい
三部 壊れた人形

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妖怪の里、弐

「妖怪たちの格ってどうなっているの?」


泊に聞いたが困惑されるだけだった。


二人で悩んでいると、霧氷が教えてくれた。


「まず、神格を与えられた鬼姫、雪姫、狐姫。


次に高位妖怪である、天狗とか河童とか。ここに三姫直属の部下たちが入る。

中位妖怪として、攻撃力の高くない妖怪たち。座敷童とかがそう。大体の妖怪がここ。


下位妖怪は、最近になって外の世界で化学とかによって証明された結果信じる人が少なくなった妖怪たち。かまいたちとかね。

あと、地域でしか信仰されていないから力を持たない妖怪もここ。

下位妖怪は気性が荒いことがあるから気をつけて」


結構しっかり秩序があるのか。ならある程度は安心だ。


「さっき、野孤って狐姫がおっしゃっていたけれど、それは?」


「ああ、九尾の狐たちって結構数が多いの。

まず、天狐。これは狐姫だけ。


次に九尾の狐。尻尾が増えるほど強くなって、九本のあとは減ると強くなる。


その次に仙狐(せんこ)。修行を積んで、高位妖怪狐の仲間入りを果たした新入りだね。


その下に空狐(くうこ)と気狐。長生きした妖怪狐。仙狐になるには試験を突破しないといけないの。


で、最後が野孤。そこらへんにいる狐だね。いたずらっ子だよ」


多くない…?しっかり妖怪について学んでこればよかった。


伝承程度に捉えていたら、実在したとは。でも神がいるし、いてもおかしくはないのか……


「孤姫は、九尾の狐だと書いてあったように思いますが」


「修行したのよ。神格を与えられたのに九尾でいたくない〜って。今度狐姿見せて貰おうか?」


狐姿、見てみたいかもしれない…


「鬼姫は、怖い見た目かと思っておりましたが、美しい人でしたね」


「それは、神格を与えられたときにもとの姿では嫌だって言って、初代天上大御神に新たな姿を頂いたの。」


天上大御神、万能すぎない?だからこその最高神なのか。


「他にどのような妖怪がいるの?」


「そうだねー。

天狗とか?大天狗、鴉天狗、山伏天狗とか色々いるよ。

お面の下は美人って説がある。

あとは、海外の精霊たちがこっちにやってきて信仰を獲得したものたち。もとを辿ると九尾の狐もそれにあたる。」


「かいがい?」


初めて聞く言葉だ。


どこなのかな。


「聞かなかったことにしておいて」


霧氷が慌てている。顔から血の気が引いていて、それほどに“かいがい”については深刻なのだろう。


深くは詮索しないでおこう。


「あとは、出てこられていなかったけれど雪女にも神格持ちの雪姫がいるよ。ここ百年消息不明なの。」


百年。それは、おばあさまが失踪した時期と重なる。


「正確には何年ぐらい前から?」


「百三十年かな。汐とは少し時期がずれているよ。こっちの方がすこし前。」


考えていることが丸わかりだったようだ。


「雪女にも色々いてね。

小さな雪女はいたずら好きで体が透けている。

白い服の雪女は力が強くて息が白い。この息を吐かれると凍って死ぬよ。

水色の雪女は暖かくなると溶けて消える。


雪女は割と秩序がないよ。雪姫がいた頃はある程度まとまっていたのだけれど、最近は白と小さなのが暴走しているから、制御が効かないらしい。」


なぜ霧氷がこんなに詳しいのか。謎だ。


「そういえば、命引きの結界って結構柔らかいんだね。

ぐにゃんって曲がって、真ん中に何か板がある感じ。」


清はきょとんと首を傾げた。


「普通、命引きの結界は硬くて決して解けない物なのだけれど……」


確実にそんなしろものではなかった。どこに違いがあるのだろう。


「まあ、今日は休みましょう。どの部屋を使う?」



「早良……」


汐凪と早良は同じ部屋になった。部屋の定員が二人で、早良と汐凪、清と霧氷、一人で広々と泊がそれぞれ使うことになった。


「なに?」


羽衣をひっかけずに普段とは違ってゆったりと髪を括った早良は絵になる美しさだ。


燭台の光だけでは部屋は暗い。外には月も星もない。虫の声すらしない。


「江は、何を考えているのかな」


なぜ、命引きの結界を使ったのか。江は目的を見失っていたのではなかったか。


「どうして?」


「江は前、どうして執政界に、執政官として存在するかと聞いた時に沈黙したことがあった。

だからてっきり執政界に思い入れはないのかと思っていたのだけれど、今回江は命を張ったじゃない。」


なぜ、意義のないところにかけるのか。

普通なら、思い入れのあるところなのではないか。


早良はじっくり考えて言葉を転がすようにゆっくり話した。


「かけたのは場所ではなく、人にかもしれない。

そもそも江の心なんてわからないのだから、ここで何を言っても無駄」


「人って、誰?」


「人が命をかけるとしたらそれは愛でしようね」


早良はよくわからないことを言うものだ。

愛に命をかけられるのだろうか。


「たとえば私が誘拐されたら、汐凪は助けに来るでしょう?」


それはあたりまえ。早良を失うなんて考えられない。


「でも、私は確実に汐凪より早くに死ぬ」


「早良、私は今が大切なの。今早良と共にいられるだけで満足なの。そんなこと言わないで」


早良はくすっと笑った。そして、燭台の灯りを消して布団に潜り込んだ。


暗い部屋で、隣に早良が寝ている。よくよく考えてみれば早良と隣で寝るのはいつ以来だろう。


「早良。」


「何」


「清はどうしてここに来たのだと思う?」


早良は答えない。


早良は不確かなことは言わない。憶測は、きちんと今の情報で十分に判断できるものしか言わない。判断できるないものはできないとはっきりと言う。

そんな早良が黙った。


ここに、血縁者がいるとは思えない。あの結界の気配はここにはない。


なのになぜ、清は私たちをここに連れてきたのだろう。こうなると清の出身地だというのも怪しい。


眠くなってきた。今日はもう寝よう


「私たちのため」


遠くなる意識のかけらで、そう聞こえた。

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