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人形シリーズ  作者: 古月 うい
二部 手の届かない地 神界編

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26/88

番外編 人形たちの吐露

ーーーーーーーーーーーーーー江ーーーーーーーーーーーーーー

清は昔から落ち着き払っていて、年の割に成熟しすぎていた。


ほとんど同時期に派生して、双子のように育ったのに、彼女は違った。


いつも達観していて、それでいてもろかった。だから私は彼女とともに過ごした。


あの頃は楽しかった。姉さまもいて、沃様もいて、妹のような汐里もいて。たまに長が遊びに来て、平和で、憂いはなく何事もなく二人で成人するのだと思っていた。


「姉さま、見回りに行かれるのですか?」


「まあそうだな。くれぐれも体に気を付けるのだぞ」


それは見回りには不似合いな別れの挨拶だった。それでも私たちは何も言わず姉さまを送り出した。



「清、清はいる?」


数日していつものように清と遊んでいると、沃様がやってきた。


「はい」


「長がお呼びです。」


清だけが、長のもとに連れていかれた。


「沃様、私も連れて行ってください」


「だめだ」


取り付く島もない。けれど、その時は清がうらやましかった。


「なぜですか」


沃様は美しく瞳を細めた。きらりと輝く紫の瞳。


「あなたは長にとって()()()()からよ」



それからしばらくして、私は成人した。


清も姉さまも長もいないままでの成人式は、私の重要性をよくあらわしたものだった。


誰からも祝われず、成人式は終わった。


長から渡されるはずの羽織がただ部屋に置かれているのを見たとき、私の中に対抗心のようなものが明確に芽生えた。


絶対に、長に必要とされるようになる、そして成人式を後悔させてやる、と。



清は長に必要とされて、立派な衣装で成人した。


その服は姉さまに似ていて、改めて清は姉さまに似ていると認識させられた。


「清、ほらこれを着て」


清の成人の衣装を着せて、羽織を羽織らせる。


その姿は美しくて、本当にほれぼれしてしまったが、ふとしたときに姉さまが立っているように感じて気味悪かった。


「……江、脱いで」


「え?」


清に羽織を剥がされ、清の羽織を着せられる。


「こっちの方が似合っている」


私の肩に薄青の羽織をかけながらそう笑った清は、きれいだった。


「長になんて言われるか……」


「関係ない。長はわたくしを身代わりの人形にしたいだけ。」


その羽織は、私からしてみれば長からもらった物以上の価値があった気がする。



「はじめまして」


最後の五人衆、泊が派生した。


教育を担当することになったのは清だが、清には長との時間があったので実質私が泊の教育をした。


すごい子だった。白い瞳のその身に余る大きな力の危険性を理解していて賢い子だった。


けれど大切にしていた泊も奪われる。


「江、泊を渡しなさい」


「沃様……」


曰く、清が任された役を放棄するなら最高位である沃様が引き取るべきだと。


長は反対せず、泊は沃のもとで光を失った。



私は清の成人と泊の派生、成人のときは裏方の仕事、つまり段取りや環境、衣装を整えるなどのすべてをこなした。


けれど裏方。それに気が付く人はいない。


二人の成人が終わって、見回りの役になろうと長に申請した。


しかし、むげに却下された。


「見回りは汐の役目であるぞ。そなた、汐の役割を奪うつもりか。そんなに汐が気に入らないのか」


「滅相もございません。私はただ……」


「言い訳は聞きたくない。そのようなことを口走るな!」


私は引き下がるしかなかった。



私は何をしようとしていたのか。私一人いなくても、世界は回る。何もしていなくてもいいのに、なぜここにいるのか。


そう思っていた矢先、汐の孫の成人の神託が長に下った。


「汐の孫、汐凪の教育をしろ。五か月後に成人に足るだけにしろ。仲間は知らぬ。」


ただ空いているのが私だっただけ。それでも、私は必要とされたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー清ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねえ姫様、ちょっとわたしの身代わりになってくれない?」


()()一番初めの記憶はそれだ。


「何を言っているの」


「んーとね、わたしが生まれたら確実に厄介なことになるの。わたしにはそれだけの能力がある。あ、自慢ではないよ?

わたしは生まれるわけにはいかないの。だから、荒波立てずに身代わりになって。時期が来れば姫様を解放するから」


”私”がわたくしに話しかけるところ。それが初め。それ以降数回を除いて”私”は清の中で眠ったままだ。



正体を明かしたのは江だけ。


あの子なら明かしてもいいという安心感があった。なぜかは知らない。あの子の瞳がそうさせたのかもしれない。


「清、遊ぼう?」


どう言い訳しても派生直後にはありえないほど達観したわたくしを江は唯一子供として扱った。

失礼だという人もいるかもしれない。けれど、わたくしにとっては安心できる要素だった。



「姉さま、帰ってくるの?」


「清様……はい、いずれ必ず」


姉さまはわたくしの正体に感づいているようだったが、何も言わなかった。

言わないまま帰ってこなくなった。



「そなたは汐そっくり。ぜひ側にいて」


それ以降、わたくしは長に縛り付けられた。


「汐はそんなことしなかった」


「汐ならもっと完璧だった」


わたくしは清でない。当たり前じゃないかと思っていたが、おとなしく姉さまを演じた。


「ああ、汐にそっくり。これなら成人もまじかだね」


隣にはとっくに成人した江がいるのに、長はそんなことを言った。



「成人してもいいぞ」


ようやく許可が出たのはもう江の成人から何年もたった後だった。


「ありがとうございます。」


頭を下げながらなんで許可されなくてはならないのだと思ったのは内緒だ。



「さ、これを着て」


江が世話をしてくれたが、その表情がひどく悲しそうに見えた。


だから、わたくしは江の衣を剥いでわたくしの衣を着せた。


誰からも祝福されなかった江。せめて、わたくしだけでも寄り添っていたい。


それが間違ったことであっても、江だけは失いたくない。


ーーーーーーーーーー泊ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「沃様の従者」


「無表情な側仕え」


「個性がない」


みんなそういう。


全くその通りだ。みんなに対して拍手を送ろう。


あたしは執政官第五位、泊。でもほとんど沃様の側仕え。


まったくつまらない人生。でもそれしかなかった。


「泊、行きますよ」


「はい、沃様」


本当に幼いころは、あたしは江に育てられた。


けれど、汐を失った沃様が慰めにとあたしを引き取り、従者としての教育を施した。


おかげで執政界の外に出られるのだから感謝しよう。


ほかの執政官はほとんど中だけで一生を終える。


どんどん中が腐敗していく。外に出ていてもそれを感じる。どんどん逃れられなくなると。


沃様は比較的まともな人だ。誰がまともでないかは迷うが、沃はまともだ。


けれど外部から意見できる人はいずれ必要。いつ来るかわからなくても、その日を待ち続けえるしかない。


それがきっとあたしの存在理由。


だからあたしは外に出る。いつか、あたしが必要とされる時まで。

第二部完結です。予定より早くなりました

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