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人形シリーズ  作者: 古月 うい
二部 手の届かない地 神界編

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25/88

傀儡人形

ーーーーーーーーーーーーーー長ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あなたは哀れだね」


久々に見た夢に浸っていると、霧氷が目の前にいた。


「夢?」


「夢だよ。わたくしの力は夢見より強い夢境。他にもあるけれどね。あなたの夢を見させてもらった。

人として育てられて、長として祭り上げられて、汐がいなくなって。

でも、それがなあに?」


この子は、どうしてこんなところにいるのか。

確実に、私より高位なのに。


「そんな状況でも賢王になる人はいる。そうならなかったのはただの怠惰。

清を汐の身代わりにしていいわけではないわ。」


「それが悪いことなのぐらい、わかっている」


でもやめられなかった。


気がついた時にはもう遅かった。清はもう戻れないぐらい汐をやっていた。


江も成人していた。

江には、しっかりとした成人の儀をやってあげたかった。


人の上に立つのは苦手だけれど、上に立つ人の補佐としてはこれ以上ない子。執政官として理想的な考えをする子だから。


気が付いた時には、何もかも壊れてたあとだった。


「わかっていてよかったー。

とでもいうと思った?残念ね。気がついているのになぜやめなかったの?あなたはできる人のはずよ。それぐらいの器量はある。」


この子の容赦のなさは、どこか優しい。致命的なまでにこの子はやさしい。


「それでも、やり直しの機会をくれたのでしょう」


あなたが、ここに来たのはそのためだって言っていた。


「ええ。長の概念から説明します。

なぜ長がその代の執政官の中で最も弱い力を持つのかも……」


「見回りに同行したいとおっしゃるのですか?」


沃は一番よく外に出るから出たいと言ってみると、とても驚かれた。


「そうですね…わたくしはどちらかというと商人のようなことをしておりますので、外交官のようなことをなさりたいなら汐凪に頼むと良いかと思います。」


「なら、汐凪に言ってくれる?」


「できかねます」


笑顔で断られた。沃は綺麗だからこういう時は迫力がある。


「なぜ?」


「わたくしは汐凪に嫌われておりますから」


沃は悲しそうに笑った。


「どうしてそう思うの?」


「なんとなくです。少なくとも好感を抱かれてはおりませんよ。」


沃は無闇に力を使うような人ではない。完全なる勘だろう。


「そう。ありがとう。沃も、汐がいなくなってから最高位の業務をこなしてくれて、感謝しています」


「もったいないお言葉です。」


そう、沃はほんとうに頑張っている。


こんな私のために、たくさん。逃げ出さず、執政界と外とのつながりを保ち続けてくれていた。


そんなことをしてくれていたのに、私は最高位に格上げすることはできない。順位の入れ替わりは許されていない。


私が報いれるのは、これぐらい。



「よくできました。」


「わたしも三百年ぐらい生きているのだから、子供扱いしないで」


霧氷はころころ笑う。周りに光の粒子がありそう。

姿ではなく、振る舞いが美しい。


「わたくしにしてみれば百年も二百年もまだまだ子供。

それより、汐凪のところに行こう。わたくしも汐凪と一緒に行きたいと思っていたのよ」


そういえば汐凪と来たのだったな、霧氷。



「足でまどいです。」


悲しい。確かに戦闘能力は皆無だけれど、さすがに清にはっきり言われるとは思っていなかった。


「長、諦めてくださいませ。流石に四人守るのは無理でございます。」


佑と結と私と霧氷。確かに人数が人数だ。


「二手に分かれる案はない?」


「いやだ。早良と一緒がいい」


ここで友情物語を始められても困るのだけれど…


「わかったわ。でも、いかないと困るの。

長としての仕事で外回りが必須だから。」


「それな、各国に執政界の長の見回りと触れ回っておけばよろしいのでは?」


大掛かりなのも違うと聞いた。


「清達に頼まれるのはどうでしょうか。

清は長の側仕えですし、江は遊軍ですし二人とも戦闘経験こそないですけれど強いですよ。」


その手があったか。



「わたくしたちは外に出たことが無いに等しいので、お役に立てませんよ?」


清は外に出したことなかったな。汐凪の時ぐらいか。


ずっと汐の身代わりで、外を知らない。汐の身代わりをしていたのに、汐の業務は何もさせていない。


こんなんで、ただ押し付けただけだ。


「出るという経験は必要ですし、この際ですから一緒に行きましょう。

わたくしも手伝います」


霧氷以上に頼りになる言葉はない。さすが私の教育係。


「わかりました、行きましょう。汐凪に何が必要かどうか聞いてからになるので、五日ほどお待ちください」


結局汐凪たちになるのか。


「それまでに教育を続けます。

正直ここまで知らないとは思っていなかったから。」


そうでしょうね……


私もこんなに長のしきたりがあるなんて思っていなかった。知るたびに何も知らないと突きつけられてしまう。


だから学ばないと。何かあった時に知らなかったでは済まされない。


「よろしくお願いします、先生」



ーーーーーーーーーーーーーーーー江ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「長、だいぶ自由になってきたね。霧氷のおかげかな」


清は荷物を詰めたまま振り向かない。外を見ると式神が飛んでいる。


「あれはただの傀儡。長が長らしくなったわけではない。」


「どういうこと?」


清は手を止めてこちらを振り向いた。


「あれは霧氷様のいいなりになっているだけ。本当に長らしくなったとはいいがたい。傀儡のままの自由は傀儡でしかない。」


なるほどな。確かにずっと霧氷がいた。


「あのまま霧氷とともにいたなら、長はいつまでも傀儡のままよ。」


「巫女としての予言?」


清は少し悩んでから首を振った。


「ただの勘」


それにしては予言めいたものだった。

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