執政官たち
「神界に行った執政官は三代ぶりらしいわよ」
神界でのことを話すと、江が教えてくれた。
「にしても本当に久しぶりね。成人以来一度も帰ってこなかったのではない?」
「確かにそうだね。あ、見回りについての報告しておくね。夢見幾世にはいれはしたのだけれどすぐに神界に行ってしまったから見回りはできていないの。」
仕事を放棄してしまった……神界での出来事に夢中で全く頭が回っていなかったな。気を付けないと。
「え、入れたの?」
「早良の結界で、ですけれど。」
江はおろおろしている。
「執政官は新場の誕生以来夢見幾世中に入ることができなくなっているのです。」
後ろから現れた清が補足してくれた。私たちとしては比較的スムーズに入れた方なのだけれど、どうして無理なのだろうか。
「今は沃たちがいて、多分近いうちに執政官の会議があるからその議題にあげるね」
沃、今もいるのか。ほとんどいない割には私のいるときにはずっといる気がする。
「とりあえず一時見回りは中止ね。泊が式を飛ばしているから大きな問題は起きないはずよ」
清は相変わらず青い顔をしていた。
「それでは会議を始める前に自己紹介をさせていただきます。」
霧氷は髪が短くなって襟足ぐらいの長さにそろえられていた。服もひらひらした白黒の動きやすそうなものになっている。
「神界より長の教育係として派遣されました、霧氷と申します。以後お見知りおきを」
どう見ても霧氷って8歳ぐらいにしか見えないのだよね……沃はあでやかに笑っている。
私は執政官第一位代理ではあるが実務的な第一位は沃に放り投げている。沃がこなすのが正当だから。
「どうしてここに来たの?困ってはいないわよ」
「長の教育のためです。今更ですけれどこちらにもいろいろ事情がありまして。」
二人が笑っているのが怖い……
「それでは会議を始めましょう。江から議題があると伺いましたので、江から」
あ、夢見幾世のことか。早良のことだな。
「夢見幾世に入ることのできる執政官が現れました。第七位早良です。」
沃は一層笑みを深めた。
「これについては第六位汐凪、その補佐祐と結にも確認が取れております」
沃の唇が動いた。「おもしろい」、と。
「早良を夢見幾世監視人に推薦いたします」
江からはそれで終わったあとは貿易の報告とか見回りの結果報告とかで、ほとんど沃がしていた。
「汐凪」
「沃様。」
ひとりで歩いているところを引き留められた。相変わらず美しい人だな。
後ろには泊が控えている。いつも一緒にいる二人だ。
沃は私の耳もとに顔を近づけてきた。
「神々にお会いしたと聞きましたわ。さすが姉さまの孫ね。
でも……
己の力を過信してはだめよ。」
それだけ言い残して去っていった。よくわからない人たちだ。
「汐凪、何かあったのですか?」
「なにも。行きましょう。」
後ろから泊が見ていたことには、気がつかなかった。
「ねえ江、おばあさまってどういう人だったの?」
「何かあったの?」
さすがに沃のことは言えないよな……
「みんなが私のことを姉さまの孫、っていうから」
ああ、と江がこちらを向いた。
「気にしているの?」
「気になる。私、おばあさまとは派生直後しかあったことがないの。派生してすぐ新場の誕生があったから」
それ以降おばあさまの消息は途絶えている。
「年齢的にそうなるのね。たしかあの誕生は百五十年ほど前の話よね?」
あ、口を滑らせて年齢がばれてしまった。
「となると序列が……」
「江、何があったの?」
江は首を振ったが怪しい。
どうしたというのだろう。序列は確か年齢順だ。そして入れ替わっている可能性があるのは……
「泊?」
江は笑っただけだった。そうしていると本当に清に似ている。
「成人序列なら問題はないわ。汐姉さまだったよね?聞きたいなら沃のところに行ったら?
私たちは汐里と年がそう変わらないわけだから。」
「汐里と面識があるのですか?」
どちらも言ってこなかったから気が付かなかった。でもそういえば汐里は執政界のことを知っていた。
生活していた期間があったと考えてもいいだろう。
「小さい頃よ。私たちはあなたのお母さまとは会ったことがないのだけれどね」
ここでも派生と年齢がややこしい。とりあえず今の序列だけ覚えておけばいいか。
「沃様にお会いなさるのですか?」
後ろから声が聞こえて驚いた。聞き覚えがないが、ここにいる人たちで聞き覚えがないということは泊だろう。
「泊、あなた一人で出歩けたのね」
江が泊にものすごく失礼なことを言っている。
「江姉さま、さすがに失礼です」
あれ、この二人に交流があったのか。しかも意外と仲がよさげ。
「それで、汐凪。沃様にお会いなさるのですか?」
「別に大々的な用事ではないの。おばあさま、汐の話を聞きたくて」
泊は了承してくれた。
「どうしていつも沃様とともにいるの?」
泊はない表情を冷たくさせた。
「それ以外に行き場などありませんでしたから」
「泊から聞いたわ。姉さまのことを知りたいのね」
「わざわざお時間をとっていただきありがとう存じます。」
相変わらず妖艶な人だ。今気が付いたけれど、この人だけ執政官の中でくせ毛なのか。少しくるくるしている。
「まったく、そんな口調はやめてよ。姉さまそっくりの顔でそんなこと言われるとこたえるわ。
……あなたは特別。この世界において、そしてそれを授けた神にとっても」
それ、とさしたのは冬火の簪。
「これは大遠野国の巫女からいただいたものです」
けれど沃は笑う。妖艶に、たおやかに、美しく。
「期待はしているわ。けれど気を付けて。何かを守るには失うものがある。姉さまは立場を失った。
姉さまが何を守ろうとしたのか、よく考えなさい。」
みんなからすると100年も150年も大差ないんですよね……
長生きって怖い




