表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形シリーズ  作者: 古月 うい
一部 人形の一族
2/49

人形遊び、前編之下

それからは梨絵と私、早良と結と佑という組で行動することになった。


梨絵は色々嗅ぎ回っているらしい。


けれどどこまで真相に辿り着けるかどうか…


私の見た目は18で止まっている。早良も似たようなものだけれど、20は超えている。


私を狙う人も多いので常に危険は付きまとう。ゆえに引っ越しも早い。


私が未成年のため部屋の契約とかはいつも早良にまかせっきりだ。


「こう何度も引っ越すとこんらんします。」


結から文句を言われたがどうしようもない。


「出かけてくるから、大人しくしててね」


そう言い残して私は夜の街に出かける。引っ越す場所はすべてここから比較的近いところ。あの人たちある程度監視下に置かないと。




「こんばんは。いい夜ですね」


現れたのは茶色の瞳を持つ女だった。顔はヴェールで隠れていてわからない。




「佑…」


もう二度と佑は戻らない。私のした選択は、禁忌であり絶望。


手に力を込めると人形がかちゃりと音を立てる。


「結、この人形を見ていてくれる?」


結は首を傾げながらも頷いた。


それを、後ろから見つめる人影があった。




「梨絵、買い出しに行こうよ。」


そう梨絵を連れ出して比較的夜になった街を二人で歩く。


「汐凪、どうして私を殺さないの?」


私はそれには心底驚いた。まさかそんなことを考えているなんて。


「どうして?」


「秘密を知ってしまった私は、邪魔でしょ?」


梨絵はただ笑う。


ふと、この子は私のためにここにきたのではないかと思った。この地には、移儚夜(うつりはかなよ)には私たちを狙う人たちがいる。


そして、この子その人たちが投じてきた戦機であれば…


やはりここは苦手だ。少し見ない間に全てが変わっていく。それが移儚夜だ。


「そんなことするわけないじゃない。あなたが私に害をなして仲間にせざるおえない状況を作った、のなら別だけれど。そうじゃないでしょう?今はただ孤児が共に行動しているだけ。」


起きなかったことに、起きるかもしれないことに罰を与えるのは執政官の末端として許せることではない。


梨絵は、とても寂しそう。でも、それを救えるのは私ではない。


「ありがとう」


ふと、目の前を黒い人が横切った。


「あれは…」


そして、いきなり何かを投げてきた。慌てて羽を出して上に上がる。


「敵襲よ。」


すぐに持っていた剣とか毒矢とかを浮かべる。


そして振りかぶってそれを投げつけようとしたとき、梨絵が動いた。


二つ括りが揺れる。普段結ばれていたリボンの先には剣がついていて、それを使って敵の首を絞める。


「待ちなさい」


私は声をかける。


「あなた一人で襲ってきたのではないでしょう。仲間がいるはず。今は逃しなさい」


一人叩いたところで意味はない。次々やってくる。


ならばまとめて叩くまで。


「梨絵、手を離して」


梨絵はスッと手を緩めてペタンと座り込む。その隙に黒い人は逃げていった。


「どう?汐凪。私、役に立った?」


梨絵はそれしか言わなかった。




「そんなことがあったのですね。引っ越しますか?」


「んー、今度は廃墟に移ろうと思ってる。」


廃墟といっても綺麗なところだけれど。


一番人にバレることなく長く過ごせるから。いい加減引っ越し続きでうんざりしている。


「ああ、あそこ。」


「知ってるのですか?」


早良は知ってる。というか、梨絵以外知っている。


「あなたたちの幼い頃の住居よ」


佑、結兄妹の。



「…みおぼえがないです」


もしかしたら佑なら覚えていたかもだが、生憎だ。


「結って今いくつ?」


「16です。」


もうそんな歳なのか。もっと小さいと思っていたのに。


時の流れは無常だな。



「私はあなたの秘密を知っています。

協力しなければ晒しますよ」


あの子が、何もできなさそうに笑っていたあの子がそう脅してきて、私は協力することになった。


きらりとひかる見たことのない形の剣を突きつけられて。




「仲間、わかったよ」


梨絵が突然そんなこと言い出した。


「あら、そう。誰?」


「結」


もちろん私も理由ないものを信じないし、梨絵もそれを理解していた。


「早良が教えてくれたの。」


早良…そうか。そういうことか。


後ろには勝ち誇った笑みをした早良が立っていた。


「それが正解かどうかはもうすぐわかるわ。」


そう。否応なしに、近いうちに。




その日、組織の元にまた例の女が現れた。長寿にさせられてしまった女の母親。白い布を纏って汐見と名乗ったその女は、いくつかの情報を渡して消えた。




「汐凪!外に敵が!」


とうとうきたか。早良の声に全員が戦闘体制に入る。


「結は人形を守っておいて」


梨絵、私と早良の組で行動する。


「あーあー、人数が多い多い。」


そうぼやきながら早良が複数人に分裂する。


早良の一つ目の力、分身。これは元々早良が持っていた力。


「全く、こちらの手持ち武器は限られているのよ。」


そう言いつつ私は空中に浮かせた無数の武器を放つ。


梨絵はひたすらに頑張っている。ある意味滑稽だ。


「早良、ごめん力を返して」


そう声をかけると一人の早良がこちらにやってきた。


「手を。」


握った手から温かい力が返ってくる。


「ありがとう。戻って」


その早良はさっさと戦場に戻った。


私は手の先から無数の蝶を出す。分裂していく感覚はない。蝶はきれい。


そしてそれらがひらひらと舞って光っている。


鱗粉を撒き散らし、あたりの敵を眠らせていく。


早良が一つになっていく。


「これ、そのまま持っていればいいのに」


「そうはいかないのよ」


そんな話をしていると、奥から梨絵と佑が戻ってきた。


「まさか…その力…」


「今更気がついたの?そう。早良が私の仲間。」


なぜ気がつかなかったのか。逆に聞きたい。


「あははは!」


梨絵がいきなり笑い出した。


「私は瞳になるために育てられた!それが役割だったんだよ。親のいない私に残る道は娼婦しかなかった!なのに、なんで…」


「ごめんなさい」


私は梨絵を抱きしめる。


でも、あなたは生きて返すわけにはいかないの。


梨絵の首の後ろにごく細い針を刺した。


梨絵の手がだらんとなる。


これまで、何人の死を見ただろう。


梨絵を横たえながらそんなことを考えていた。


悲しいとは、思わなかった。


視界の端を何かが動いた。そちらに視線を向けると、窓のカーテンが一つ閉まっていた。


「早良…誰かがいるわ」


「結でしょう。」


さあ、あなたは気が付けるかしら?

ーーーーーーー記憶喪失の少女ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「目が覚めたか」


目を開けると老人の顔が目に入った。


知らないところ。ここはどこだろう。今までは……あれ、どこにいたのだろう。思い出せない。


起きようとすると、節だらけの手で制された。


「あんたは五日も眠ってたんだ。そう急に起き上がるな。」

そう言われて大人しくベッドに寝転がった。


「ここは」


「わしの小屋だよ。ここで猟をして暮らしておるのだ。」


小屋…


「あんたは一人で山道の入り口近くに倒れておったのだ。それを、海原がみつけたのだよ。」


海原?


その疑問を察したようにその人は笛を吹いた。


すると、今まで擬態していた鷹がその人の腕に留まった。


「こいつだよ。猟のともだ。」


大きな鷹。こちらを見てくる目が少しこわい。


「あんた、名はなんという?」


そう言われた時、頭の中が真っ白になった。


「なまえ…」


私の名前は、なんだっけ。確かに覚えているのに、頭に靄がかかったように思い出せない。


「もしや、おぼえていないのか?」


私は頷いた。


「どこから来たのだ?」


覚えていない。


「歳はいくつだ?」


覚えていない。


「親は?」


覚えていない。


何も、覚えていない。何を思い出そうとしても靄がかかってしまう。


「そうか…」


その人はしばらく悩んでから、提案してくれた。


「無理に思い出すこともない。ここでのんびり過ごしていけ。まあ、わしの寿命がある限りは一緒に過ごしてやる」


「あなたは、だれ?」


その人はシワだらけの赤い顔をにこりとさせて笑った。


「わしは西行。これでも35だ。」


平均寿命なら、あと十年で死んでしまう。




私の記憶喪失の仕方は結構特殊だった。


常識はある。教養も覚えている。


けれど、私に関することは全て思い出そうとすると靄がかかった。


「なに、記憶喪失の場合でも日常のことは覚えておる。多くの場合は喋り方や歩き方を忘れることはなかろう?それとおなじだ。」 


まずはじめに、西行は私に名をくれた。


「栞だ。しおりとは、本に挟むものだが、元々は山で迷わないようにする道標なのだよ。」


西行はいろいろなことを教えてくれた。


獲物の取り方、山での過ごし方、危険への対処の仕方など、もっぱら山で暮らすための知識だった。


西行は銃を使って獲物を取っていた。


餌を仕掛け、じっと待ち、撃つ。たったそれだけだったが、私は初めのうちは的に当たりすらしなかった。


初めて獲物を捌いた時は肉をたくさん駄目にした。さっきまで生きていた温かさの残る動物にナイフを入れて内臓を引き摺り出す。


それが怖くて、結局西行と変わってもらった。


「なに、いつも食べとる肉もわしがこうして捌いたものだ。食べるためには誰かが捌かなならんのだ。わしは、あんたにならできると思ったんだがな」


挑発に乗って、結局その日の二匹目の獲物は私がすべて捌いた。


西行は動物の内臓を自然に戻していた。


「なんでそんなことするの?」


私が聞くと、銃の手入れをしながら教えてくれた。


「わしらは内臓を食べん。だが、鳥は食べる。そんなふうに、いらないものを渡しているものをもらうのが、自然なのだよ。」


皮はしたの街の人達に売った。


他にも燻製にしたり串焼きにしたりして下に売りに行き、どうしても買わなければならないものはそうして売って得たお金で賄った。




私は三年が経つ頃にはすっかり山に慣れて、獲物をとって捌いて食べられるようになっていた。


「飛ぶ鳥を四発中三つ当てるのは、熟練でも難しい。しおりは筋がいいな」


そう褒められて嬉しかった。


髪は伸びて、一つに紐で括るようになっていた。




四年目の終わりに差し掛かった頃に、異変が起きた。


私は熱を出した。しかも高い熱がいつまで経っても下がらない。


病院に行くにも遠く、そもそもそんなにお金は持っていない。


苦しかった。でも、なぜか死には慣れていた。動物の死ではなく、死と隣り合わせの、この状況に初めての感覚はなかった。


「私が命をかけたから、あなたは時間をくれたのね」


あのとき弱い毒だったのは、あなたの優しさね?


ありがとう。私はそのおかげで幸せに過ごせた。ありがとう。


残していって、ごめんなさい、西行。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ