人形の手の届かない地
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わたくしがここにきて、もう何年経っただろう。
考えるまでもない。百年だ。
その間色々な仕事を置き去りにしてしまっている。近いうちに怒られてしましそうだ。
「なら帰ればいいじゃない」
遠くから“私”の声がする。でもわたくしは帰ることができない。
「ならさっさと起きてくださいませ」
「それはまだ無理」
だから、いつまで経ってもこのままなのよ…
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「さて、次は夢見幾世だね」
「行ったことないです」
私たち全員初めて行く土地。早速結界を張って移動しようとしたができない。
繋がっている夢浮橋に行こうとして弾かれる。
「どういうこと?」
今までこんなことなかった。なぜ入れないのか。何度やっても同じだった。
「やってみます。」
早良が結界を張って移動すると、すんなりと入れはしたが、夢見幾世に行こうとしたのに夢浮橋に出てしまった。
「こんなことなかったのに」
訝しみつつ、目の前の橋を渡った。まるで雲を踏んでいるような、不思議な歩き心地。
歩いていると、急に私たちのところの板がなくなった。
「早良!」
飛ぼうとしても飛べない。抵抗のしようはなく、そのまま落下していった。
目を開けると、泉の目の前だった。澄んだ泉。早良たちは全員周りにいる。
ふと、泉に目を向けると人が泉に立っていた。
「初めまして、執政官殿。信仰神にして夢見幾世領主、霊姫と申します。百年ほど連絡の途絶えているあの子の代わりにあなたを神界に連れて行きます」
美しい人だ。白い髪、ほんのり水色の何枚も重ねる豪華な衣。それだけで、この人が神なのだと納得してしまうほど美しかった。
「…凪…」
ハッとして振り返ると、結が頭を押さえてうずくまっていた。
「これは……」
知っている。確かに習った。
「しゃがんでくださいませ」
早良はしゃがんだ結の周りに結界を張る。普段とは違い、四角い何かが周りをまわっている。早良の得意とする浄化の結界だ。
神気に充てられたのだろう。
「その子、連れて行く?わたくしはただの一上級神で、たった一人でこうなっているけれど」
霊姫が聞いてくる。確かに、たった一人でこれなので神界に行ってしまったら結が壊れてしまう。
「祐、結をお願い。その結界があれば執政界に帰れるから、江に神界に行ったと伝えて」
祐は確かにうなずいた。
「行きましょうか」
私は霊姫に手を引かれて、神界へと導かれた。
神界ー神々の住まう地。天空にあるとされる、天上大御神を頂点とする世界。
瞳一族の掟で、神には従わなくてはならないというものがある。そして、~姫が敬称のため様をつけなくてもいいということ、神が白いこと、天上大御神を頂点としていること。
これぐらいが瞳一族の教育で叩き込まれたものだ。
いくつもの扉が並んだ廊下を3人で歩く。
すれ違う人々は女性しかいない。
「女性しかいらっしゃらないのですか?」
「そうではないわよ。ここは女島なの。さすがに1人だけでは司れないわ。広すぎる。男女2柱で一つのものを司るのよ」
広すぎる?世界は10年で回れるほどしかない。なのに、司れないものなのだろうか。
「ああ、知らないのね。まあいいわ。こっちよ」
そこは雲玉楼と書かれた札の下がった部屋だった。
「雲玉楼よ。入って。」
中は、ちいさな部屋だった。集会用のような感じだ。きれいに整えられていて、真ん中に座卓がある。
座卓には2人の女性が座っていた。
ひとりは黒と翠の混ざった着物の上に黄色の羽織を羽織っていてまるで蛍のようだが、白い髪が蛍でないとしめしていた。強そうな人だ。
もう一人は紫と薄紅の服で白い帯を締めた白髪の人だった。いくつか時計のような模様がある。
「さ、自己紹介して。」
霊姫がこちらを向いてきたので、慌てて頭を下げる。
「執政官第六位及び第一位代理、汐凪といいます。」
「執政官第七位早良と申します。」
二人は笑って手招きしてきたので、おとなしく座った。
「私は戦神にして大遠野国領主、蛍姫といいます。」
蛍のようだと思っていたら、本当に蛍姫だったのか。
「わたくしは移儚夜領主にして英知の神と時神を兼任しております、千姫と申します」
この三人はそれぞれの世の領主なのだな。
「さあ、どうぞ」
霊姫がお茶を差し出してきて、千姫がお菓子を差し出す。
差し出されて飲まないわけにはいかないのでありがたくいただく。
なんだか雲を食べているようだ。味はあるのに、何も残らない。
「さあ、どこから話そうかしらね。そうね……監視の仕組みからにしましょうか。
世界はそれぞれ長がいます。大遠野国では巫女長が、執政界では長、夢見幾世では国王が、移儚夜は今はある人物に委託している。そして、執政界の長は他三界の監視をしている。これはわかるわね?」
何人か知らない役職が現れたが、とりあえずは納得だ。ある人物って誰だろう……あれ、夢浮橋は?
「執政界の長は、神界の長、つまり天上大御神に監視されている。その役割は代々、雪姫に任されていた。けれど雪姫はもう100年、報告を怠っているの。」
誰だろう、雪姫……もうわたしの頭の中は疑問しかない。
「知らない人物はそういう役割と無視していい。」
にこっと笑ってくる千姫。心の中でも読めるのかと疑う。
「こっちには先代烏姫の残した遠視の鏡があるから問題はないのだけれど。」
「霊姫、少しは説明をして」
千姫、辛辣。蛍姫はぼんやりと宙を見つめている。
「あなたには、わたくしたちの事情に巻き込んで申し訳ないと思っているわ。」
でもこうするしかない、と。




