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人形シリーズ  作者: 古月 うい
一部 人形の一族

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移儚夜

汐里(しおさと)!久しぶり」


「お!成人したのか。お疲れ様。見回りかい?」


汐里は変らず小屋に”人払いの結界”を張っていたが、私が内側から開けて早良(さわら)を招き入れた。


「早良も第7位になったんだよ。」


汐里は目を見開いて、柔らかく笑った。


「頑張れ。この地は実質統治しているから、こっちの見回りは任せるといい。」


快く引き受けてくれたので、昔の家に戻ることになった。


「久しぶりですね!」


「本当に。江が目隠しの結界を張ってくれていたみたいだから、侵入はされてないみたいね」


少し埃っぽかったので4人で掃除した。もちろん祐も。こういうときには動いてもらわないと。


外は少しだけ木が大きくなっていた。でもそれ以外はここが霊山だということも変わっていなかった。


「神社は建て替えたと聞きました。あとで見に行かれますか?」


「そうね……結はどうしたい?」


結に水を向けるとすごくキラキラした目を向けられたので行くことになった。


「わー川が少し深くなっています!」


こんな季節なのに、結は祐を容赦なく水につけている。


「まったく。あ、タオルもらえますか?」


二人を眺めながら私は水をすくった。


「昔より、汚くなっているわね。」


少しだけ、前の透明さはなくなっている。前のような美しさはなくなっている。


「たった5年で、世界は変る。」


「悲しんでおられるのですか?」


ううん。そうじゃない。


「私は幸せ。隣にはずーっと早良がいたから。早良は、私から離れて行かなかった。それだけでいい。」


早良はしばらく固まった。


川はずっと流れて、ざあざあいっている。

ーーーーーーーーー早良ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「早良は、私のそばから離れて行かないよね」


はじめてそういわれたのはいつだったか。お母さまが死んだ時かもしれないし、その時にはすでに覚えていることだった気もする。覚えていないほど昔のことだ。


どんな流れだったのかは覚えていないのに、その時すがってきた汐凪の瞳の暖かさだけを鮮明に覚えている。


思い出すたびにあたたかさに切り刻まれるような心地がする。


大切な思い出なのに、忘れてしまえばいいと思ってしまう。



「お前は汐凪(しおなぎ)様に仕えるのです。」


お母さまは、私をそういってしつけた。


お母さまは私たちより圧倒的に生きる期間が短い。だから、お母さまは私にできるだけのことを叩き込んだ。


お母さまには時間がなかった。何をするにも。


「汐凪様が、あなたの存在理由です。」


そう言うことで、汐凪を一人にしないように必死だった。それは理解できた。でも、それと私の感情は別だった。


「汐凪様には決して気づかれないように」


心が砕けて、いつも泣いていた。


誉め言葉さえ、汐凪中心だった。


「さすが私が育てたむすめ(汐凪の付き人)です」


褒められるたび、私は叫びたくなった。


いや、いつもいつも心の中で叫んでいた。「私は何」と。


何も知らず従者として接してくる汐凪も、それに満足するお母さまも、嫌いだった。



でも、お母さまに反抗したって、結局私には汐凪しかいなかった。一緒にいたい。でも逃げたい。


離れることなんて初めからできやしなかったのに。



「早良の目、きれいな金色だね」


そう言われて、慌てて目をおさえて逃げ出した。あれはいつのころだったか。まだ汐凪に無邪気さがあって、お母さまが死んだ後だった。


私の本来の目の色は、限りなく黄色に近い金色だ。おおよそ普通の人々にはありえない目の色。


それがわかったころから、お母さまに色を隠すよう言われてきた。


「瞳に仕えるものが瞳であってはなりません」


それからはいつも茶色にしていた。


汐凪には敬語を使うこと、でも特別感のあるしゃべり方をすること、汐凪を立てること、けっして裏切らないこと。


お母さまはもういないのに、その言葉だけが呪縛となって残っている。


海辺でしゃがむと、手をついたところにあった貝殻の破片で手を切った。考える間もなく瞳の力で傷が治っていく。


瞳一族から逃げたいのに、瞳一族の力に頼っている。


私は腕に顔をうずめた。


ふと、隣に気配を感じた。見なくてもわかる、汐凪だ。


「私が憎い?」


思わず顔を上げた。にくいとのどまででて、その瞳のやさしさに、微笑み汐凪に言葉がひっこんだ。


「憎めない」


どうせなら、無邪気な悪人でいてほしかった。なぜ汐凪はこんなにやさしいのか。憎めないじゃないか。


泣いていると、汐凪が包み込んだ。


「大丈夫、いつまでも一緒にいるから」


嫌で嫌で仕方がなかった言葉に、どうしようもなく救われたのだ。


無邪気は一番腹黒だと、誰かが言った。誰しも十になるころには邪気を知る。


それでも無邪気なのは、誰よりも邪だからだ、と。

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