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人形シリーズ  作者: 古月 うい
一部 人形の一族

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13/88

大遠野国、招光帝国

「招光帝国は、川沿いに行けば都に着くよ。」


ただ、一国分あるので結構長い。迷いようはないけど、気が遠くなる。


「飛びません?」


「隠行の能力の人がいればよかったのだけど、流石に人が飛んでたらね。」


普通に巫女に会うより先に捕まりそうだ。もしくは瞳がよりバレてしまうか。どちらにしても歩いて行くしかない。


「もう少し行くと商人組合というところにつきます。そちらで都に向かう商人に乗せてもらえないか頼みましょう。」


いくら瞳とはいえ、一応女性なのだ。下手な輩がいないとも限らない。




「町です!人です!」


「結、恥ずかしいからそんなに騒がないで…」


佑がガクガク揺れている。気持ち悪そう。


「こちらですね。すみません、」


早良が交渉している間、結と佑は早速雑貨屋に入って行った。私は屋台でおやつを買って噴水の広場で食べる。


この国、木がないな。まあ、光がないから当たり前かもしれないけれど。どこか殺風景で、異様。


「巫女様が来てくださるのはいつだったかしら?」


「たしか、来週の中頃だな。」


その話を聞いて、早良の元に全力で走った。


「早良!」


「汐凪?どうかなさったのですか?」


「ここに、巫女が近いうちに来るらしい。それまで待とう」


息を切らせながらなんとかそれだけ伝えた。


早良は納得して宿探しに移った。


いきなり皇帝に会うより、巫女に会う方が確実だ。



「巫女様のお車だ!」


「結、乗り出さないの。落ちるよ」


祐が。祐が落ちる。


巫女はこの後神事を行う。それまでになんとか会えないものか……


「おばさん、巫女に会いたいのだけれど、方法はある?」


「あるわよ~。巫女様は私たちの話を聞いてくださるからね」


あ、意外と早く会えそうだ。よかった。



それから2日後に、光の巫女との面会が設けられた。


光の巫女はその名にふさわしい光り輝くような容姿だった。


少し色素の薄い髪、白と黄色の衣装。服はワンピーズの上から変な形の羽織を羽織っていて、その上から帯を結んでいた。


「お初にお目にかかります、執政官第六位及び第一位代理の汐凪と申します」


「同じく執政官第七位早良と申します」


「執政官第六位補佐、結です。これは兄の佑です」


結、佑の紹介をせずにはいられないのだな。たった一人の肉親だもの。仕方ない……


それはさておき、巫女が一切喋らないのだけれど、どうしたらいいのかな……


「巫女様?」


「朝日」


出会って一番目の台詞がそれだった。


「巫女名が、朝日であらせられるのですね。」


巫女…改めて朝日はこくりと頷いた。


「みるから、何預かっている?」


みる?誰?ここで出てくるとしたら、火の巫女の冬火かな。でもみるではないし。


「巫女名冬火。」


あ、冬火だった。


「はいあります。こちらを。」


差し出したのは、硝子玉の中に金の紐が光模様で入っている、鈴付きの簪。光の巫女ならこれだろうという勝手な推測だ。


朝日はしばらく眺めてぺこりとお辞儀をした。なんだか、冬火より年下な気がする。


「舞を見て」


「朝日の、舞を?」


朝日は頷いた。そういえば舞うとかいう話を聞いていたな。得意なのかな。


「はい、ぜひ見させていただきます」


朝日はそれっきり喋らず、私たちはコソコソと退出した。


「朝日、感じ悪いですね」


「結。」


結は佑の帯をいじりながら喋る。こちらを見ようとしない。


「だってそうじゃないですか。あんなのが巫女で…」


「黙りなさい、結」


結はそっぽを向いて部屋に引っ込んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


わたしはこの国の宰相の娘だ。


一人娘とか愛娘とかの枕詞はつかない。


わたしは妾の子だったらしい。


らしいというのは、二歳ごろに巫女として巫女殿に引き取られたからだ。


外に出ることなんか許されず、ただ巫女の教養を叩き込まれ、十歳ごろに巫女を引き継いだ。


わたしに戸籍は存在しない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「この地に光が宿ることを願って」


そう言って始まった朝日の舞は綺麗だった。


笑っていない。心がこもっているように見せかけているのが私にはわかる。


けれど、そういう心構えのものではなくてただ純粋にうまかった。


一つの動作をとってもどのぐらい手を開けるのが適切か理解していて、さらにそれ通りに動かせる体力、体幹、神経を持っていた。そういうものの集大成。それをよく表すものたった。


どれだけの鍛錬を積んだのだろう。


どれだけのものを犠牲にしたのだろう。



「朝日様、私たちを皇帝のもとに連れて行ってください。」


朝日はぼんやりとしばらく黙ってからうなずいた。


「いっしょに行こう、執政官様」


そうして、朝日とともに都に向かうことになった。



「わあ、都だ」


光がない国にふさわしく明るさのない都。けれど美しい。


馬車は少し中心から外れたところにある平屋のまえで停まった。


「皇帝陛下に会いに行く。よろしく」


朝日はそれだけ言って待っていた女の人が私たちに近づいてきた。


「遠路はるばるようこそおいでくださいました。執政官様。私は神殿の禰宜をしております、光花(こうか)と申します。」


禰宜……神官のことだろうか。初めて聞く役職だ。


「あなたは……」


「そうですね、朝日巫女様の姪にあたります。年は私の方が上ですけれど。朝日巫女さまには秘密です」


姪がこんなにしっかりしているのか。案内されたのは客間らしきところだった。


「このようなところでお見苦しい限りです」


「いきなり押し掛けたのはこちらですから、お気になさらないでください」


この地での巫女の立場の実態がわからないので、下手に述べることはできない。


今は寛容に徹しよう。



しばらく話していると馬車が神殿の前に停まるおとがした。朝日が帰ってきたのだろう。


「朝日巫女様、お帰りなさいませ」


禰宜はこちらの方が立場が上だと判断し出迎えはせず部屋で出迎えた。本当にできた側仕えだ。


「陛下から面会の許可を頂きました。明後日です」


そんなに急にあっていただけるものなのか。皇帝って4日後とかになるのではないの?


「それまではどちらに行かれますか?こちらか宰相殿下の屋敷かになりますが」


宰相殿下の屋敷がなぜここで選択肢に入るのかわからないけれどこちらにしたい旨を伝えて後の交渉は早良に任せる。


私よりよっぽど交渉にたけているから。適材適所。断じて私が会話が苦手というわけではない。




結論から言うと、面会はあっさり終わった。


皇帝と宰相に挨拶して終わった。執政官様はこの国での扱いは低いと。一個学んだ。


そして、巫女も。寒国では象徴として、結構慕われていたし政治にも参加していた。


でも招光帝国はまるでお人形に押し込めているみたい。


「華木皇国に今のように入るわけにはいかないので、あちらの巫女に紹介していただけませんか?」


「簪」


朝日の発言は短すぎてなにもわからない。


禰宜に助けを求める視線を送るとため息をつかれた。


「その簪は寒国の巫女様から頂いたものですよね。なら、それを見せるだけで国境も関所も皇居も自由に出入りできます」


なら今回遠回しに巫女に頼む必要なかったの……?無駄に苦労した気分。



出発になって、気になっていたことを聞くことにした。


「……朝日様、今いくつですか?」


「朝日巫女さまは15であらせられます。光の巫女の一つ年上にあたられます」


え、冬火より年上だったの。そして冬火があれで14歳なのか……


「水の巫女さまは光の巫女さまの2つ年上でいらっしゃいます」


水の巫女……どんな人だろう。楽しみだな。


「お世話になりました」

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