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人形遊び、前編之上

あの頃、窓際の椅子にはずっと人形が置かれていた。


市松人形にしては髪が長くてよりほっそりとした近代的な美しい人形だった。


あたしにはそれがすこし不気味に写っていた。


なぜなら、あの人形の髪には本物のしっとりとした質感があって、目も本物のようにきらきらと意思をもって輝いていたから。


その謎を知るのは、あの人形の頬に赤みがさすのと同じで、少し後のことだった。




「おはようございます、汐凪(しおなぎ)


早良(さわら)…もっと起こしてよー。寝坊しちゃうところだったじゃん」


早良は冷たく笑う。けれどその顔には暖かさや慈しみが溢れていた。


「もういい加減一人で…」


早良が隣から生徒が来るのに気がついて黙った。


後ろを振り返ると莉絵(りえ)だった。


ツインテールにした髪は肩あたりまであって、目の吊り上がった気の強そうな子だ。実際気が強い。


「おはよう!」


「ええおはよう」


梨絵は家が学校と私たちの家を線で結んでさらに線を付け足したY字の位置にあるので、交差点で同じになって一緒に登校している。


「今日の式典は行きたくないなー。」


「そんなこと言わないの。年に一度の伝統ある式典よ。始まりの頃はまさかここまで続くとは思って…」


そこで失言したと気がついて即座に誤魔化す。


「なかったって、この式典の伝統を書いた本に載ってた」


危ない、危ない。


冷や汗をかいていると、校舎が見えてきてだんだん人が合流し始めた。


年に一度のこの式典は、昔ここにあった神社を壊して学校を作った時に現れた幽霊を鎮めるために行われた神事が始まりだ。生徒全員が祝詞を唱えたとことから、全校生徒出席必須の少し憂鬱な行事になっていて、この日だけは全校生徒の数が少し減る。面倒だかららしい。


そう思い返していて、ふと気がついた。


「人多くない?」


「今年は全員出席らしいよ」


そんな奇跡が起こるのか。そして梨絵の情報が早い。普段はむしろ噂には疎い方なのに…どうしてだろう。


「じゃあ、教室あっちだから」


「またねー」


早良と教室に向かう時に警告された。


「あの娘、気がつきますね」


わかっている。私たちの力は隠さなくてはいけない。たとえどれだけ危機迫ろうと、隠し通さなければならない。


「わかってるよ。」


案外人混みの中の移動中は密談に向いている。


通りすがりの人が何を話しているか気にしないし、すぐに忘れるし、周りの音にかき消されるからだ。


私は気持ちを引き締めるためにきりっとした顔をして、それから笑顔を作った。




「これより、第四十七回…」


式典の決まり文句を退屈に聞き流していると、右奥の方に見知った顔を見つけた。


あの頃は小さかったのに、もうこんなに大きくなっていたのか。もう私より大きいのではないか。


時が経つのは早いな。


後ろから物音がした。きっとあの子の兄だろう。


あのちいさな男の子が今では私よりも大きくなっている。


歩くのが遅くよく遅刻する。本人は時間にルーズなので余計に遅れると報告が上がっている。


前の祭壇では煌々と薪が燃やされて辺りを照らしている。


何回かボンと弾ける音がしていたが、気のせいだろう。


退屈だ。流石にこれは堪える。足が痛くなってきて、早く座りたい。


そう呑気に考えていた時、突然あたりが明るくなった。


と思うとすごい音と衝撃波と熱風がきて、多分普通の人間なら死んでしまうほどの爆発だと理解したのはその後だった。


私は慌てて私に結界を張り身の安全を確保した。他の人たちにまで張る余裕はなかった。出来はしたが、少し時間がいるしその間に死んでしまう。だからごめんなさい。


あなたたちを助けることはできない。


バキバキと音を立て、何かが崩れていく。


木造の校舎はあっという間に焼けて跡形もなくなっていくのがわかった。


それでも耐える。みんなの声、崩れる音を聞きながら。




「ん…」


「起きられましたか?」


上から早良が覗き込んでいる。普段の簪が取れて髪がぼさぼさだ。


「早良は無事?」


「うん。汐凪のおかげで。すぐにこの場を離れよう。生存者を見られる?」


念のため確認することにした。全体に結界を張り、生物の反応を見る。


「すこいね。やはり本家筋だとできるの?」


「お母さまが使ってるのは見たことがないなー。おばあさまはわからないけど」


そんなことを言いつつ操作していると、二人見つけた。


「多分、佑と結が生きてる。ちょっと行ってくるから待ってて。」


そう言って一目散に佑のところへ駆け寄った。


「佑、聞こえる?」


佑の反応はない。脈は弱くなる一方。多分だめだ。全身の火傷の割合が多すぎる。だから、私は決断した。


「佑、ごめんね」


佑の胸に手を当てて、私はある禁忌を犯した。


祐が望むかわからない。成功するかわからない。


それでも私は、祐を救いたい一心だった。


あの頃の幼い男の子。お姉ちゃんと追いかけてきてくれた。失いたくない。だから…


「ごめんなさい」




「結!」


「…だれ?」


不思議と結はその髪も燃えずにほぼ火傷がない状態だった。


いたって元気な、そんな感じ。


「久しぶり。私、汐凪よ」


結は驚いていた。


けがの具合を考えると爆心は結の逆と考えるのが自然だ。でもそうなるとほかの人がもう跡形も残っていないのは不自然…


ともかく結をつれて早良の元へ戻った。 




早良は結しか連れていないところに何か察したらしい。速やかに対応してくれた。


「お帰り。人が来始めたよ。移動しよう。」


「どこに行くの?」


後ろから声がした。


驚いて振り向くと梨絵が立っていた。髪も服も綺麗。そして、にっこり笑っている。


「梨絵もついてきて」


きっとこの子は放っておくと危ない。


多分、ああいう人はかぎつけてしまう。


何年生きていると思っているのか。それなりに修羅場はくぐっている。


なめないでほしい。私の能力はそういう系統ではないが、年の功というものだ。




「随分狭いですね」


「ごめんね、今まで二人で暮らしていたから…」


私たちは二人で過ごしている。だから家には二人分の用意しかない。早速結に文句を言われてしまった。


「私の家が近くにあるからそっちに一人来なよ!」


梨絵の提案に警戒はしたもののぐっぱで分かれて私が梨絵の家にお邪魔することになった。


さすがにこの家に四人は狭かったのもあるが、莉絵に関しては監視下に置かないと安心できない。


「ごめんね気を遣わせて」


「全然。」


早くこの世界から離れた方がいいな。次は目星がついているし。ここはもう危険。


「梨絵の親は?」


「んー、どっかにはいるんじゃない?ここにはいないから気楽にしていいよ。」


梨絵はそんなこと気にするなとでも言いたげに振る舞っていたので私も無視することにした。


「ねえ汐凪…瞳の一族だよね。私を仲間にして」


大丈夫、大丈夫。ばれていない。失言はしていない。


「瞳一族って、不老不死の?なわけないじゃん。梨絵、まだそんな絵物語信じてるの?」


梨絵は笑っていた。ずっと声を出してきゃらきゃらと笑っている。


「知ってるよー。汐凪は瞳の一族でしょう?ばらしてもいいの?ここにいられなくなっちゃうね、そうしたら。」


何度言っても無駄そうだ。


「なら、私と早良と結の中で私の仲間を当てて、私の役に立つ行動をしたら仲間にしてあげる」



あなたにそれができるのならね?


お母さまの話を聞いていたからわかる。


闇雲に仲間を増やしては、身を滅ぼすことになる。


もう二度と繰り返さない。


この瞳は守り通さないと。

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