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短編

バカな悪魔が僕を唆す

作者: ネコミケ

『なあ、もうちょっとだけ寝てようぜ~。』



「…おはよう、睡魔。」



『ダリい~』



僕の一日は、目覚まし時計の音の代わりに、神経を逆撫でしてくる声から始まる。







今日も今日とて大学である。



たくさんの人間が行きかう駅のホームで電車を待つ。



『なあ、このおっさん突き飛ばしちまおうぜ。キモチいいぜ、マジで。』



いや、やらんわ。グロすぎだろ、普通に。



『お前はこのキモチ良さを知らずに死んでいく。哀れだなぁ。』



そんなことでしか爽快感を得られないお前の方が哀れだよ。別にスマブラとかやってた方が楽しいって。





満員電車に揺られる。



立って電車に乗る時、普通のときよりも満員の方が若干楽な気がするのはなぜだろう。



『オイ、このJK可愛いぜ。ちょっとくらい触ったってバレねえって。』



やめておけ、というのも少し違うな。なんで触る前提で話が進んでいるんだ。



『ハア、つれねえな。』



まったく、油断も隙も無い。お前たちが人間そのものだったら、きっと一生檻の中だろうな。





『授業だるくね?バックレちまおうぜ。』



それを教室の中で言ってどうする。



『退屈だなー。寝ちまおうぜ。』



ベッドの中で寝るほうがよっぽど有意義だろ。



『こいつの背中にハナクソつけてやろうぜ。』



そんなんより平家物語の方がよっぽど面白いわ。



…おい待てよ、お前ら僕にハナクソつけて遊んでいたりしないだろうな?



『ハナクソ"は"つけてねえぜ。キシシ。』



僕からはクレームをつけさせてもらうよ。





今日の昼飯は何にしようかな。



お、メンチカツサンド。これにしよう。



『マジでバレねえって。盗んじまえよ。』



『万引き、キモチいいぜ。』



バイトした直後のファミチキの味を知らないなんてもったいないやつ。





『あーつまんねえ。おい、ここで叫んでみろよ。』



いくら叫んでも聞こえないんだから、お前が叫べばいいじゃないか。



『おれはほのかちゃんが好きだー!』



だる。





『屁こいてみろよ。』



唐突だな。エレベーターみたいな密閉空間で悪臭を放つのは、焼き鳥を勝手に串から外すのと並ぶくらいの大犯罪なんだぞ。



『ボタンって、見ると押したくなるよな。全部の階のボタン押せよ。』



上か下のボタンと開け閉めのボタンが押せればそれで満足だよ。



『じゃあ、非常ボタン押せ。どんな音が鳴るか、気になるだろ。』



どうせ不快な音がするだけだよ。それこそ、屁よりもずっと不快な。



いや、それはないか。





『飛び降りろよ、はやく。』



『待ちきれねえなあ、お前が飛び降りんの。』



べつに待ちきれなくはないかな。



『こっから飛び降りたらカッケエって、マジで。』









つまんねえな、僕の人生って。



何かに反発することでしか、生きていけない。



『だせえわ、飛び降りねえとか。』



『まだチャンスはある。電車行け。』



こいつらは、本当は僕の本音なんじゃないかって思っていた。



でも、こいつらのおかげで……いや、こいつらの所為で生きていられるような気もする。



「あ、レンくん。こんなところで何してるの?」



『告っちまえよ。』



『いや、ぶん殴れ。キモチいぞ。』



「パソコン買いに来た。」



「そうなの?もしよかったら、一緒に買い物行かない?レンくんって、パソコン詳しい?」



『おい、こいつもパソコン買うつもりだぞ。金奪って逃げろ。』



まあ、こいつらが僕の本音なんていうのはあり得ないな。



「うん、行こ。」



人生つまんねーけど、たまにはいいことあるじゃん。



『バカにされてんだよ、陰キャ。』



うるせえ、上等だよ。



『オタクの力の見せ所だぞ。存分にまくし立ててやれ。』



しっかりドン引きされるわ。



『ドン引きされることの、何がダメなんだ。キモチいぞ、好きなもののこと話すの。』



そんなんオタク友達とやっときゃいいんだよ。







「今日はありがとう、レンくん。またね!」



『見ろよ、絵にかいたようなビジネススマイルだ。』



可愛いからいいじゃねえか。



『中指立てろ。』



お前らにならいくらでも立てて見せてやるよ。



『あの車に石投げてみろよ。』



お前ら今日はやけに元気だな。



『お前が一番調子乗ってんだよ、陰キャ。』



じゃあ目に見えないお前らは何キャなんだよ。







『せっかく風呂なんだし、歌おうぜ。ありったけのでかい声でな。』



それは名案だな。ここが銭湯だということに目をつぶれば。





テレビでも見るか。



『テレビは殴るもんだ。今だ、ぶち破れ!』



テレビは見るもんだよ。



「○○駅で殺人か……」

「○○市のビルでまたしても飛び降り自殺が……」

「全国の万引き件数が過去最多……」

「迷惑行為を繰り返す動画配信者が逮捕……」

「○○線で痴漢行為……」



…やっぱり、悪魔にそそのかされて動くなんて、バカバカしい。



犯罪するような奴らには、悪魔の声が聞こえていないのか?



それとも、大人になったら、こいつらの声が聞こえなくなるのだろうか。



…そもそも、悪魔(こいつら)ってなんなんだよ。








人間とやってること変わんねえじゃん。








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こちらもよろしくお願いします。ファンタジーです。『TRAVELUMINA』
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