婚約者の王子様に「一発殴ってくれ」と言われたので
王子様の死に戻りのやり直しの話です。
ああ、どうしてこうなった。
原因はわかっている。
魅了に掛かっていたとは言え、彼女があんな事をしないと長年の付き合いで解っていたはずなのに。
元民子でその美貌からソーマ男爵家に引き取られたマーガレット令嬢。
人懐こさと、貴族令嬢にはない喜怒哀楽な性格に始めは物めずらさ、ただの言い訳に過ぎない。
ソーマ男爵令嬢の全ての言葉を肯定的に捉えて、婚約者のマリアの言葉に聞く耳を持たずに否定して、あのような事―――、大切な晴れ舞台で、思い出に残るはずの卒業パーティーの場で断罪をしてしまったのだ。
なんて愚かな事をしたのだろう。
今更後悔しても遅いが、出来るならもう一度やり直したい。
そんな事を思いながら生の幕を閉じるはずだった。
気づいたら2年前に戻っていた。
俺は魅了について調べはじめた。
魅了を回避する事はできないのか、あらゆる書房を調べて分かったらことが、衝撃を与えることで魅了が浄化することがある。
そうと解ればただ一つ。
「俺に何を言っても聞く耳を持たないとき、俺を一発殴って欲しい」
「―――はい?」
「頼む」
変なお願いをする俺に、マリアは険しそうに俺を見つめる。
それもそうだ。
いきなり殴って欲しいなど言えば、そのような不審な顔をするのも無理はない。
「俺のためだと思ってそうして欲しい」
「よく解りませんが、承知致しました」
それから例の男爵令嬢が転入して来た。
前回同様絡んでくる男爵令嬢を交わしていたが、またしても魅了に掛かってしまったようで、だがマリアが俺をぶん殴った事で正気を取り戻した。
「マリアさまぁ、酷いですぅ。いきなりアイオーンを殴るなんて」
「ソーマ男爵令嬢、俺は君に名前を呼ぶ事を許可した覚えはない(そのばす)」
「えー、そんな事より、マリアさまぁが睨んで怖いですぅ」
複数の男を連れ立って歩く男爵令嬢。
俺はこんな女に、魅了と言え末恐ろしく感じた。
それよりも、マリア――。
「もう少し手加減しても―――」
睨まれたで、その後に続くはずだった言葉を飲み込んだ。
何度か同じことを繰り返した俺の顔は、卒業パーティーの当日には満月のように腫れ上がっていた。
無事にとは言えないが、何も問題なく卒業ができた。
お陰で俺のあだ名に不名誉の名が裏で囁かれている"ドM男"と。
「そろそろ教えてくれませんか? 何故、あの様な事を申したのか」
俺は2度目の人生を歩んでいる事を話した。
魅了の解き方を含めて、前世、マリアに酷い仕打ちもした事も包む隠さずに全てを話した。
「こんな俺だけど、俺と結婚してくれますか?」
「仕方ないからしてあげるわ。浮気なんかしたら、そのついてるモノをもぎ取って差し上げますわ。―――なんたって私、狂犬嬢ですから」