1球ごとにピッチャー交代
ギャグです。
スポ根とか、青春とか、感動とか、全くありません。
※作者の落ち度により、野球のルールが破綻しています。ご注意ください。
エンゲブラ様の感想まで読んでいただけると、正しい知識に修正出来るかと思います。(他力本願)
私は、三方野高校野球部マネージャー、間根山夏子
甲子園出場をかけた戦いも、いよいよ大詰めを迎えていた。
強豪、愛手学院に対して、9回まで0対0
弱小だった私達、三方野高校は、この夏、奇跡を起こし続けた。
万年1回戦負けだったのが、あれよあれよと言う間に、地区大会の決勝に進出した。
そして、9回表の愛手学院の攻撃を0点で抑え、9回裏の攻撃を迎えた。
「よし! みんな、ここで決着をつけよう! うちの先発投手の仙波は、もう限界だ。タイブレークを考えず、この回でサヨナラするぞ!」
「おう!!」
キャプテンの掛け声に、みんなは大きな声で応えた。
「愛手学院高校の選手の交代をお知らせいたします。ピッチャーの松崎くんに代わりまして、ピッチャー熊田くん」
(エースの松崎くんがベンチに下がったわ。でも、この場面で代えてくるということは、このピッチャーもすごいはず……)
高校野球では、ピッチャーが交代になると、投球練習を5球行うことができる。
バシッ
バシッ
(す、すごい…… おそらく、全力で投げていないようだけど、それでも150km/hは出ている……)
「バッター1番鈴木くん」
場内アナウンスが流れ、鈴木くんがバッターボックスに入った。
「受けてみよ……俺の全力投球を!」
熊田くんがそう言って、投球動作に入った。
ビュンッ
ズバーン
(う、嘘でしょ…… 全然、見えなかった……)
「す、ストライク?」
(いや、審判の方も見えてないじゃん! ヤバい、こんなの打てないよ……)
私がそう思いマウンドを見ると、熊田くんが右腕を押さえながら蹲っていた。
「く、やっちまったぜ……。俺のガラスの肘が壊れちまった……」
熊田くんがそう言い、マウンドを下りた。
パチパチパチパチ
会場から温かい拍手が送られた。
「愛手学院高校の選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー熊田くんに代わりまして、江皮くん」
バシッ
バシッ
(は、速い…… このピッチャーの球も速いわ……)
「プレイ!」
投球練習が終わり、主審の方から試合再開の合図が出された。
「俺の高速スライダーが打てるかな?」
江皮くんはそう言って、投球動作に入った。
ビュンッ
バシッ
「ストライ~ク!」
(え? 何……今の? スピードが変わらずにボールが直角に曲がったんだけど…… あ、あんなの打てないよ……)
私がそう思いマウンドを見ると、江皮くんが右肩を押さえながら蹲っていた。
「や、やっちまった…… 俺のアクリルの肩が壊れちまったようだ……」
(ん…… アクリル? アクリルだと壊れにくいのでは……)
パチパチパチパチ
江皮くんがマウンドを下りると、会場から温かい拍手が送られた。
「愛手学院高校の選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー江皮くんに代わりまして、稲毛くん」
バシッ
バシッ
(アンダースロー! スピードはそうでもないけど、これは打ちづらいわ。流石は甲子園常連校…… ピッチャーの層が厚い)
「プレイ!」
投球練習が終わり、主審の方から試合再開の合図が出された。
「俺のサブマリンボールが打てるかな?」
稲毛くんはそう言って、投球動作に入った。
ビュンッ
バシッ
「ボ、ボール……」
(な、何……今の!? 鈴木くんの手元でボールがポップした…… 鈴木くんも見極めたというよりも、手が出なかったという感じだったわ)
私がそう思いマウンドを見ると、稲毛くんがお腹を押さえながら蹲っていた。
「や、やっちまった…… 昨日のカキフライのせいで、俺のポリカーボネートの胃袋が壊れちまったようだ……」
(ポリカーボネート? 確か…… スマホケースやカーポートに使われる素材……。丈夫なんじゃないんだっけ?)
稲毛くんがマウンドを下りるとき、会場から拍手が送られた。
パチ……パチ……パチ……
(まばら…… 拍手がまばらになってきたわ。それはそうよね…… 試合よりも投球練習の方が長いんだから……)
「愛手学院高校の選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー稲毛くんに代わりまして、巻原くん」
バシッ
バシッ
(は、速い…… ていうか、何で投球練習はまともなのに、みんな試合が始まるとケガするの? 投球練習の感覚で投げれば良くない?)
「プレイ!」
投球練習が終わり、主審の方から試合再開の合図が出された。
「俺は他の奴らとは違う……。この試合は俺のフォークで勝利に導く」
巻原くんはそう言って、投球動作に入った。
ビュンッ
バシッ
「ボ、ボール……」
(な、何……今の落差!? 鈴木くんの顔の高さから急激に落ちてワンバウンドした……。あんなの打てないよ……)
私がそう思いマウンドを見ると、巻原くんが胸を押さえながら蹲っていた。
「や、やっちまった…… 推しのマンガが、昨日終わったことを思い出しちまった…… 俺のポリエチレンテレフタレートの心は粉々に砕け散ったぜ……」
(いや、分かるけど…… その心にぽっかり穴が空いたような喪失感……。でも、試合に集中してよ~。それに、ポリエチレンテレフタレートって、ペットボトルの素材だよね…… 粉々に砕け散るって、相当な労力じゃない?)
巻原くんがマウンドを下りるとき、会場から拍手が送られなかった。
…………
(無音…… ちょっと、変な雰囲気…… 私達への声援すら無くなってきた……)
「ピッチャー、別府くん」
「うぉ~ 俺のポリスチレンの膝が……」
「ピッチャー、ガルベスくん」
「ノォ~、オレノ塩化ビニール樹脂ノ親指ガ……」
「ピッチャー、小島くん」
「ハイ、オッパッピ~!」
「ピッチャー、大島くん」
「コジマだよ!!」
「ピッチャー、中二病くん」
「封印されし右腕を解き放つときが来たようだ……。我が暗黒の炎で貴様ら全員を焼き尽くしてくれる」
「ピッチャー、ひろ○きくん」
「なんだろう。嘘つくのやめてもらっていいですか。」
(か、カオス…… でも、これで2アウト満塁…… 相手のピッチャーも12人目だから、これが最後の勝負……)
「はぁ~ もう! 愛手学院高校の選手交代…… ピッチャーひろ○きに代わって、星!」
(『はぁ~ もう!』って、場内アナウンスの方も面倒くさくなっているじゃん……。そう言えば……球場内もなんか静か……)
私がそう思い観客席を見ると、誰もいなかった。
(え? 特に、規制してないのに無観客試合? うちの高校の応援団すら、いなくなっている……)
バシッ
バシッ
(は、速い…… こんな人が最後に出てくるなんて……)
星くんの投球練習が終わり、6番バッターの中畑くんが打席に入った。
(中畑くん、チーム1の努力家のあなたなら、必ず打てる!! 頑張って!)
「俺の消える魔球、打てるもんなら打ってみやがれ!」
星くんはそう言って、投球動作に入った。
ビュンッ
ブンッ
星くんの投げたボールは途中で消えてしまい、中畑くんは空振りをした。
(き、消えた…… 本当に、消えた…… こんなの打てるわけがない…… ん、あれ?)
しかし、愛手学院のキャッチャーもボールを見失っていた……。その隙に三塁ランナーの鈴木くんがホームインした。
(え? 勝った……? なんかよく分からないけど、勝った?)
私達は、強豪、愛手学院を1対0で下した……。
(な、なんかビミョー。勝ったけど…… 甲子園に行けるけど…… なんだろう……この変な気持ち……)
私のそんな思いをよそに、みんなは優勝した喜びを爆発させていた。
(まあ、いっか、甲子園に行けるんだし……。それにしても、あのボールはどこへ消えたんだろう……?)
そんな謎が残ったが、私達は閉会式を終え帰路に就いた。
数ヶ月後
星くんの投げたボールは火星で見つかったが、それはまた別のお話……
最後までお読みいただきありがとうございます。
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