第6話:教育係、リリスの意外な一面を知る
「もう限界だ! 今日という今日は、はっきり言わせてもらう!」
アキラは、リリスの部屋の前で大きく息を吸い込んだ。
食事マナーの会から数日、彼はリリスの教育係?として奮闘していたが、成果はゼロどころかマイナスの域に達していた。
”教育係として”そろそろ成果を残さなければと、話しかければ『忙しいのよ!』とスルー、 本を渡せば『読む気分じゃないわ!』って拒否、 ちょっとでも忠告すれば『私の好きにさせて!』って逆ギレ……。
思い返すだけで胃が痛くなる。
「このままじゃ俺の胃が先にやられる……。」
深くため息をついたアキラだったが、今度こそしっかりリリスに向き合うと決意し、扉をノックした。
「リリス様、お話があります!」
すると、中からの返事はない。
「……おかしいな?」
不思議に思いながら扉を開けると、そこには意外な光景が広がっていた。
リリスは机に向かい、真剣な眼差しで絵を描いていたのだ。
「え……?」
普段の彼女からは想像もつかない静けさと集中力。
「リリス様……それ、絵?」
「……っ!」
リリスはハッとして絵を隠そうとしたが、アキラはそれを制した。
「ちょっと待ってください、見せてくれないですか?」
「ダメよ! 恥ずかしいもの!」
「リリス様が恥ずかしがるなんて、珍しいですね。」
「べ、別に珍しくなんてないわよ!」
頬を赤らめるリリスを見て、アキラは思わずクスっと笑った。
「少し見せてくれるだけでいいので…」
しぶしぶといった様子でリリスが見せたのは、驚くほど緻密で美しい一枚の風景画だった。
「……これ、本当にリリス様が描かれたのですか?」
「そうよ、悪い?」
「いや、すごいです…。リリス様、こんな才能があったのですね!」
リリスは少し気まずそうに視線を逸らした。
「……子供の頃から好きだったの。でも、貴族の令嬢がこんなものを描いてても意味がないって、母様に言われたのよ。」
「意味がないなんて、そんなこと…。」
アキラは感心しながら絵を見つめた。
「リリス様のこういう一面、もっと大事にされたほうがいいのではありませんか?」
「……そんなこと言われたの、初めてよ。」
小さく呟いたリリスの顔は、どこか寂しげだった。
アキラは、彼女の中にある“本当の姿”を少しだけ垣間見た気がした。
「よし! では今後は、絵を描く時間もきちんとスケジュールに組み込みましょう!」
「えぇ!? そんなの、教育に関係あるの?」
「もちろんです。リリス様の良いところを伸ばすのも、教育係としての大事な役目ですから。」
「……ほんと、変な教育係。」
リリスはふっと笑った。