第5話:教育係、貴族の食事マナーに挑戦
アキラの貴族教育はまだ始まったばかりだった。
「次の課題は食事のマナーよ。」
執務室で礼儀作法を学んだ後、アキラはリリスに連れられて城の豪華な食堂にやってきた。白いテーブルクロスが敷かれ、目の前には何十種類もの食器が並んでいる。
「……あの、フォークとナイフ、多すぎません?」
「当然よ。貴族の食事は格式がすべて。どの料理にどのカトラリーを使うか、一つ間違えれば笑い者になるわ。」
「えっ、そんなプレッシャーのかかる食事、楽しめなくないですか?」
リリスがため息をつきながら言った。
「これだから庶民は……。いい? これから基本の食事マナーを叩き込んであげるわ。」
アキラは半ば強制的に席に着かされ、リリスとレオンの見守る中、優雅な貴族の食事に挑むことになった。
「では、最初の料理よ。これは前菜のサラダね。」
給仕が銀のトレイに乗せた美しいサラダを運んできた。アキラはちらりとリリスを見る。
「えっと、この場合は……たぶん、一番外側のフォーク?」
「正解よ。まあ、初歩の初歩だけどね。」
アキラはホッとしながらサラダを口に運んだ。だが、次の瞬間——。
「うぐっ!?」
彼の口の中に広がったのは、まるで火を吹きそうな激辛ドレッシングだった。
「こ、これ……辛っ!?」(うがああぁあ!舌が燃えてる…!)
「ふふ、なかなか良いリアクションね。」
「ちょ、ちょっと待って、これ絶対わざとですよね!?」
リリスが扇子で口元を隠しながら笑う。
「貴族の世界では、どんな料理が出ても優雅に対応するのが基本よ。まさかこんなことで取り乱したりしないでしょう?」
「いやいや、これは想定外すぎる!」
レオンも苦笑しながら言った。
「まあ、気持ちはわかるけどね。でも、貴族の宴席では驚きを顔に出すのはタブーだよ。」
「それならせめて、辛いものが出るって事前に言ってくれれば……!」
そんな調子で、アキラの試練は続いた。
——そして。
「次はメインディッシュよ。ステーキを食べてもらうわ。」
「よし、これは大丈夫なはず……!」
アキラは意気込んでナイフを手に取った。しかし、ここで問題が発生する。
「……硬っ!?全然切れないんですけど!」
「ふふ、腕の力で切ろうとしてるわね。ナイフの使い方にもコツがあるのよ。」
「なるほど…?」
「角度を工夫して、刃を滑らせるように切るのよ。」
アキラはリリスの手本を見ながら慎重にナイフを動かし、ようやく一口大のステーキを切り分けることに成功した。
「……やった!」
「ステーキを切れたぐらいでそんなに喜ぶのか?」レオンが呆れたようにツッコミを入れる。
「合格ね。まあ、50点といったところかしら。」
「結構頑張ったのに50点かぁ……。」
こうして、アキラの貴族教育はまだまだ続くのだった。