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第21話:王都に忍び寄る影

剣術大会の熱気が冷めやらぬまま、アキラは控室のベンチにぐったりと座り込んでいた。上半身は汗と埃にまみれ、足元はもう感覚がない。


「……まさか、生きて帰ってこれるとは」


自嘲気味に呟いた瞬間、控室の扉が勢いよく開いた。


「アキラ!」


駆け込んできたのはリリスだった。その表情には明らかな安堵と心配の色が浮かんでいた。


「リリス様……なんとか……無事です」


「もう、ほんとに……あんな無茶して……!」


リリスは怒るような目でアキラを見つめたが、すぐに目を伏せて小さく呟いた。


「でも……ありがとう」


アキラは照れくさそうに笑った。


「いえ、教育係ですから……仕事、頑張っただけです」


リリスが口を開こうとしたそのとき——。


「失礼いたします、リリス様、アキラ様」


執事ハロルドが静かに現れた。整った端正な顔立ちに加え、薄茶の髪をきっちり撫でつけ、無駄のない動作と姿勢が常に洗練された印象を与えている。


だが、この時の彼は、いつになく表情や動きが固く、鋭い眼差しに緊張感が漂っていた。


「お伝えすべきことがございます。至急、執務室へお越しください」


「……執務室? 今からですか? リリス様の剣術大会はまだ終わってないですし……」


アキラは困惑した表情でリリスを見ると、彼女も眉をひそめながら口を開いた。


「今、王都にいるのよ? まさか、クラウゼル家の本邸に戻るってこと……?」


「いえ、そうではございません」


ハロルドは、焦りを抑えた低い声で答えた。


「王都にはクラウゼル家の支部がございます。その屋敷の執務室へご案内いたします。急ぎ、向かわなければなりません」


「そんな場所があったのね…」


アキラとリリスは顔を見合わせ、しぶしぶ立ち上がった。


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執務室に到着すると、すでにそこにはレオンが待っていた。金髪を綺麗に整え、優雅な佇まいのまま地図を広げていた。


「やあ、アキラ。黒狼傭兵団との試合、とても良かったよ」


「レオン!? ……なんでここに?」


「実はね……王都の街道で、クラウゼル家の商隊が襲われた」


「……!」


リリスとアキラの表情が一変する。


「ただの盗賊じゃない。動きが組織的で、武装も洗練されていたらしい。しかも、この件、クラウゼル家に対する明確な敵意があったとしか思えない」


「それって……つまり、リリス様を狙って……?」


ハロルドが静かに頷いた。


「王都の貴族の一部に、この動きと通じている者がいるとの噂もございます」


「……内部に敵がいるということですか?」


アキラの問いに、レオンは真剣な目でうなずいた。


「そして、これは噂だが……エリオット王子が、すでに何らかの動きを始めているという情報もある」


「王子が……?」


リリスの声がわずかに震えた。


(あのアホ王子、味方だと思ってたけど……まさか敵なのか!?)


アキラは冷や汗を流しながら、状況の変化に戸惑いを隠せなかった。


「まだ詳細は掴めていない。けれど、これはクラウゼル家にとって大きな転機になるかもしれない」


アキラはぐっと拳を握った。


「俺にできることがあれば、なんでもやります。リリス様を守るって、決めたんですから」


その言葉に、リリスは目を見開いたあと、そっと微笑んだ。


「じゃあ、覚悟してもらうわよ。アキラ、あなたにももっと深く、この貴族社会と向き合ってもらうから」


「え……また礼儀作法の特訓ですか?」


「それもあるけど……今回は、もっと危険よ?」


アキラは肩を落としながらも、やる気を込めて頷いた。

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