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高岡高九回の攻撃

 九回裏。八番村上、九番芝川と三振に倒れ、簡単に2アウト。見えない力に呑まれてしまう。夏の大会には魔物が住んでいる。それが真実なら、今まさにその魔物の喉元に入り込んでいるのは高岡高ナインとベンチかも知れなかった。


下馬評では優勝候補の一角を成し、甲子園出場の力ありとされた。自分たちが、まさか名もない相手に負けるとは。しかし、強いチームはいくつもの崖っぷちを乗り越えてさらに力を付けてゆくものだ。選手たちはそんなことも知っていた。


このチームなら、いつか、誰かがやってくれる。ベンチの控え選手達はそう思いながら、レギュラーの誰もこの重たく流れている相手チームに流れる勝負の流れを止めることができないことに歯がゆくて、仕方がなかった。


「ここで終わるチームじゃないぞ!」


 道端が声を張る。


『終わる』という言葉を聞いて、功治の腕には鳥肌が立った。


九回2アウト。キャプテン野村。飄々と、時には執着心を持ってチームを牽引してきた俊足好打の背番号6にベンチの全員が声をぶつける。応援スタンドからは、必死の野村コールが何度もかかる。


涼しい顔をして右バッターボックスに入った野村は、初球をプッシュバント。反応良く前進してきた柏木の右側を抜いて、二塁手の前へボールを転がした。二塁手が取ったものの、前へ出た一塁手はベースへ戻れず、野村は易々と誰もいない一塁ベースを駆け抜けた。


二番紺野。興奮気味の表情で柏木に睨みを利かせ、グリップをいつもより一握り短く持っている。三振のピンチをファウルで粘る。結局柏木に十球投げさせてフォアボールをもぎ取った。


2アウト、一・二塁。二点という点差を考えれば、清水南にはまだ余裕はある。しかし、高岡高の地力を知ってさえいれば、一気に浮き足立ってもおかしくはなかった。浮き足立った柏木を、一気呵成に攻め落としたいのは高岡高ベンチ。野村の起死回生のセーフティーバントを境に、一度は追い詰められた高岡高が、清水南に目に見えない圧力を加えながら、じりじりと押しやっている。

坂田が柏木の球数を訊いた。


「一一九球です」


 八回まで少なかった球数が、九回の高岡高の粘りにより一〇〇球を超えていた。

ストレートの球威が少し落ちている。緒戦の緊張と暑さが少しずつ柏木の体力をも奪っているのだ。もともとエースピッチャーではない。これまで先発して投げきった公式戦が何試合あるのか、定かではない。坂田は、柏木の経験値の低さに付け入る隙を見た。


「まだ、まだだ。勝負はここからだ!」


 指揮官の勝負を手繰り寄せるような力強い一言がベンチに響く。


カウント2ー1。三番村上には、ストレートが三球続いている。球威が落ちたことを自覚している柏木はコースに投げ分けようとしているが、それが微妙にストライクゾーンを外れる。思い切り良く投げ込んでいた八回までの球の切れもなくなっていた。優勝候補の一角と評された強豪を討ち取るという力みとプレッシャーも回をおうごとに強くなる。


俊足のランナー野村と紺野。二人がダブルスチールをかけ、二・三塁となれば、ヒット一本で逆転のチャンスを作ることもできる。ランナーに気を取られながら投げるその状況も柏木のピッチングの幅を狭めていた。


四球目。

アウトコース低めに投げたスライダーが、ワンバウンドして、キャッチャーのミットの下を抜け、バックネットまでボールは転がった。高岡高は何もせずにランナーを進める。3―1となったカウントに、バッテリーは村上を歩かせ、三打数無安打の四番との勝負を選んだ。


九回裏ツーアウト、満塁。


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