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邂逅 ~毅~

すっかり暮れた道を照らす車のへッドライトが眩しかった。気がつくと毅は自転車で道を走っていた。畑と畑の間を通る一本の道。毅は長い間この道を走っていなかった。


―何日ぶりだろう。


この道を走っていた頃の自分には、もう戻れない。自転車の篭に入ったバットを見た。打者のバットは武士の刀だ。そう功治に促されて自分のバットを買った時のことが、ふと思い出された。暮れ掛けの空から注がれる薄い光にぼんやりと光る銀色が、毅を見すえている。


喉が渇いて、何も声が出せそうにない。喉の奥から何かがせりあがってきて、ガマ蛙の鳴き声のような嗚咽が出た。


群青色に暮れていく丘の向こうでは、海風に薄い雲が滑るように流されていく。胃が捩れるように痛んで、思わず身を屈めた。


その拍子に、畑から強い横風が吹き付け、煽られた自転車は車道にふらりとはみ出した。


背後からの大きなクラクションが毅を責め立てた。危ういところで自転車を後ろかわして行った。毅の自転車はバランスを崩して畑の畝に乗り上げて、倒れた。


タイヤの空気が抜けていく音が聞こえる。毅は功治の乗っていた古い自転車を思い出した。あの自転車も今にも壊れそうな自転車だった。


毅は、校舎のある丘へ向かう道を歩き始めた。自転車の下敷きになった左足が痛んだ。


毅の頭をかすめるようにしてカラスが一匹、飛んで行った。湿り気を帯びた風が体を舐めるように掠めていく。毅は口に入った砂を噛んだ。血の味がした気がした。何度か唾を吐き出しても砂と血はしつこく口の中から無くならなかった。じゃりじゃりと砂を噛む音が毅の耳にこびり付いていた。


歩いてきた顔見知りの女子生徒とすれ違う。


「今日は何日」


毅は尋ねた。女子生徒は一瞬うろたえたが、見覚えのある毅に、十四日だと答えた。


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