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他には誰もいない ~毅~

 初めから終わりまで、毅は充子の言うままだった。充子が毅の上に乗るいつもの格好で果てた。


 充子と逢う時、毅は身体に害がないと聞かされたた薬草を、心おきなく吸うことが出来た。そして、底なしの快楽に充子とともに落ちてゆく。その後決まって毅は眠りにつく。


自分はばらばらになりながら地底深くに沈んでゆき、長い時をかけて沈殿した自分の欠片がゆっくりと一つの自分になる。毅はその眠りに、自分の再生を意識した。


毅は物音で目が覚めた。深い眠りから急に引き上げられ毅は、重い瞼を押し開けて、目を見開いてもなお、しばらくの間ぼやけた視界で何が起きているのかは判らなかった。


ソファで馬乗りになって誰かを殴っている背中が見えた。


―自分の背中を何故自分が見ているのか?いや、古泉がいる。古泉が充子を犯している。


毅は悪夢の続きを見ているのだと思った。女の嗚咽も聞こえてきている。


毅は再び目を閉じた。閉ざされた暗い瞼の中で、酔いが醒めてゆくように、目が覚めてゆく。


―ああ、あれもこれは夢などではない。古泉に陥れられて俺はここまで来てしまったんだ。


―それはさておき古泉はどうやってこの部屋に侵入して来たんだ。


その答えに手を掛ける前に、壁に立て掛けておいた自分のバットケースからバットを取り出し、グリップを握った。柔らかいベッドの上から古泉の背中を見遣る。筋肉質の背中が黒いTシャツから分かる。嫌がる充子を無理矢理言うことを聞かせている。


毅は深く息を吸い込む、いっぱいになった空気は胸から吐き出されるのを待っている。全身にみなぎった怒りを、体の外に吐き出した。次の瞬間、毅は数歩駆けだして、ベットの上から飛び上がり、バットを古泉の背中に振り下ろした。


ベッドと二人がけのソファが詰まった小さな部屋に硬い音が響いた。骨を捉えた感触が毅の掌に伝わった。バットが汗で滑ってすっぽ抜けた。痺れが両手から両肩に伝う。背筋に悪寒が伝い、腰まで届く思いがした。毅は震える手で、床に落ちたバットを拾い上げ、うずくまる古泉の背中に、腰に、バットを振り下ろした。逃げ惑う充子の声が聞こえたが、もはや言葉として聞き取れない何かを叫んでいた。


 空気の抜けた風船のように毅はその場に座り込んだ。古泉は動かない。部屋を見渡すが毅と古泉の他には誰もいなかった。


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