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ニンジャウォーリアー・ブライ 序章・中

DDDコミックス・シネマティックユニバース・ノベライズシリーズ!


ヴィランスピンオフの第1弾

 夜のヘブンスシティには冷たい風が吹いていた。その古い建物は背徳の街の警察署だ。

 この時、取り調べ室には保護されたジャンキーの若い女が怯えて震えながら座っていた。

 違法麻薬対策課の中年のベテラン刑事、ブロンソンは困り果てていた。パトロール中の警察官たちによって裏路地で偶然保護されたというその若い女は、自分は殺人の目撃者だという。だがどこで誰が殺されたかも、誰がどのようにして殺したかも何も話さない。ただ何かに怯えて震えている娘は何を訊いても黙り込んでしまう。

(さて、どうしたものか)

 ブロンソンは薬物絡みということで取り調べを押し付けられたことを後悔していた。

(どうせジャンキーの妄言なんだろうが)

 留置場でしばらく勾留して、それから適当に処理することもできる。だが何かのトラブルに巻き込まれた可能性も捨てきれない。たまたま地元出身でこの街の事情に詳しい若い警官が彼女の顔を知っていたため、身元が違法営業の風俗の娼婦であることまではわかったが。店では名前はキャサリンと呼ばれているそうだ。本名かはわからない。

 キャサリンの所持品は財布の中身の僅かばかりの現金と古い懐中時計だけだった。

 長い金髪の髪を指先でいじりながら、焦点がさだまらない。薬物中毒者特有の落ち着きの無さがブロンソンを苛立たせた。

「何も話してくれないと何もわからないんだがね、キミ。このままじゃしばらく留置場に入ってもらうことになるよ?」

 キャサリンは黙ったままだ。こんなやり取りをもう何度続けているか。ブロンソンは若い警官に彼女を任せて一服することにした。

 たばこをくわえてライターの火を点けようとするがダメだ。

「クソッ、湿気ってやがる」

 ブロンソンは吐き捨てると憂鬱な気持ちで深いため息を吐いた。

(毎日同じようなグズを相手にする日々だ)

 若い頃はこの街の悪党共を検挙していつか街を平和にしてやると正義感に燃えていた。この街の市長、政治家、警察官、何処もかしこもマフィアとの汚職にまみれていた。毎日何処かで事件が起き、毎日何処かで誰かが死に、そして揉み消される。

 この街での暮らしには心底うんざりしていた。若い頃は家庭も持ったが夫婦生活は上手くいかなかった。今では薄給で子供の養育費の支払いに追われながら、チンピラ共を捕まえては麻薬を巻き上げて日々を浪費している。そんな日々がずっと続くのだと思っていた。

 パンッ!

 聞き覚えのある乾いた音が警察署内に響いた。銃声だった。続いて悲鳴が聞こえた。

(何かトラブルか?)

 上着から銃を抜いた。万が一の事態を考えた。音の鳴った方へと向かう。そう遠くはないはずだ。

 壁に隠れて様子を見た。取り調べ室へと続く廊下には男が一人立っていた。ブロンソンは銃を向けて背後から男に警告した。

「そこを動くな!」

 男が振り返る。背中には刀を差して日本の忍者のような格好をしていた。異様な姿だった。

「言葉がわからないのか? 動くなと言ってるんだ!」

 男が胸からサッと何かを抜くとそれを投げてきた。警告のつもりで構えていた銃だったが、ブロンソンは咄嗟に発砲した。弾は男には当たらなかったが、男が投げた何かは正確にブロンソンを首を貫いた。

 激痛が走った。

 生温かい血が吹き出る首を手で押さえながら床に倒れ込んだ。呼吸が苦しく意識が薄れる。退屈な日常に、脅威は何の前触れもなく現れて、そして無慈悲に奪っていく。忍者男は遠ざかっていく。ブロンソンはただそれを見ていることしかできなかった。

(死ぬのか?)

 最後にしてはいくらなんでも呆気ないと思った。そして彼は深い眠りについた。


 取り調べ室に黒ずくめの忍者男が入ってきた瞬間、キャサリンはこの男は自分を殺しに来たのだと直感した。キャサリンは激しく動揺し、我を忘れて部屋の隅に逃げた。

 取り調べ室で自分を見張っていた若い警官が何かを叫んでいたが、素早い動きで床に倒され、忍者男の容赦ない殴打に気絶してしまった。 

「お願い、殺さないで」

 か細い声でキャサリンが懇願した。忍者男はただ黙ってそれを見下ろしていた。忍者男が背中に差した刀を抜いた。キャサリンは死を覚悟した。

(なんであそこに居合わせたってだけで、私は殺されないといけないんだろう?)

 一緒にいた殺された娼婦はスーザンという。店では歳が近かったが、別に仲が良いわけではなかった。むしろ無駄話しが多くて性格も悪くて嫌いだった。口が災いして客を怒らせて殺されたのと自業自得だと思う。なのに、だ。

(なんで私まで殺されないといけないのだろう?)

 ろくな人生ではなかった。娼婦だった母親に借金の利息にはした金で今の店に売られた。大嫌いだった母親と同じように、自分も客にやらされてジャンキーに落ちるまでにはそう時間はかからなかった。

 どうせこの街ではゴミクズのような人生なのだ。

(生きたい。それが無理なら、せめて復讐したい)

 憎悪に満ちた眼で忍者男を睨んだ。忍者男は不思議そうに自分を見下ろした。直後強烈な胸の痛みに意識を失った。目の前の忍者男に底の分厚いブーツで蹴られたのだと気づく間もなかった。


<数時間後、ヘブンスシティの何処かで>

 薄暗い部屋の中で一人の若い女が倒れている。若い女は死体のように横たわり微動だにしない。

 その女を見下ろして忍者男が携帯電話で依頼人に連絡していた。

「私だ。仕事は片付いた。残りの金の引き渡しを頼む」

 しばらく話して忍者男は電話を切った。忍者男の手には若い女の所持品だった古い懐中時計が握られていた。

 

次回は結末

お楽しみに!

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