HR
——誰なんだ?
ジンの問いかけに背中を冷やっとしたモノが這い上がる。
なんで——。
——と、すぐに。
「ヘロー、お子様たち、元気かしらぁ」
チャイムと共にクラスへ入って来たのは……やっぱ、担任なんだよな。
タイミング良くて助かったけど。
——派手だ。目がチカチカする。
刈り込んだ髪は、真ん中から、ショッキングピンクとレモンイエローの二色に分かれてる。染めてんのか、地毛なのかは不明だ。
白塗りの化粧に赤い口紅、アイメイクもバシバシで、胸が大きく開いたローズピンクのブラウスに白いタイトスカート。網タイツも白だ。
なんちゅーか。
ゴッツイ女装男だな。
そいつは教壇に座って足を組む。足元は白いピンヒール。
サイズデカイ。
「まずは、コングラチレーション! お子様達。あんた達は無事にソルティソ魔法学園に入学したわけだわ。ここから先はあたしと楽しい魔法の時間よ。あたしの名前はメーザ・アンビグア。メーザちゃんって呼ぶのよぉ!」
ウィンク、アンド、投げキッス。
あー。
貴族男子が引きまくってる。
そのわりに貴族子女は好意的目線だ。
なんでか、この手のキャラって女子受けが良いんだよな。
「本格的な授業を始める前に、やらなきゃいけない事が二つあるわ。一つはあんた達の適正審査。だーいじょうぶ! 心配ないわよ、痛くないから。次が、各自にあった魔法杖の選択。杖じゃなくてもいいのよー。あたしは、ふふふ、コレ」
メーザちゃんは、耳たぶにブラ下がってるキラキラしたピアスに触れた。
「あたしの魔法発現を手助けしてくれる、重要アイテムですもの。美しい物に限るわよね? そう、アクセサリーでもOKなの。と、いうわけで、明日の適正審査に向けた説明を始めるわよー!」
——適正審査。
マルペーザマルモの魔法設定はエレメントを使ってるらしい。四大元素と呼ばれたりするアレだ。火、水、風、土。そこに光属性の聖魔法、闇属性の黒魔法が加わる。全部で六つの適正に分けていくらしい。
んでもって、各エレメントごとに対応する精霊が存在してて、その精霊とコンタクトする道具が魔法杖、あるいは準じる物。まあ、定番過ぎるくらい定番の魔法設定を使ってる。
本来はヒロインが聖魔法使いになる。
そう考えれば、適正検査で聖属性になった人間がヒロイン——でいいのかもな。
「適正審査が終わったら、各自で魔法杖を決めて欲しいの。身につけやすい物がいいわよ? 思い入れがある品の方が魔法の発現が楽になったりするわ。そこんとこ、ジックリと吟味して、一週間で決めてちょうだい」
そんな感じで、初回の授業はHRみたいなもので終わった。入学から一週間は、午前中で授業が終わるという、楽勝モード。
チュートリアルを兼ねてるのかもしれない。
——さて、寄宿舎に戻ろうかと思ったら、ジンにガシッと肩を掴まれた。
コイツ——手、デカイな。
だから、すぐに人の体に触んなよ。
心臓が爆発すんだろ。
「リュー。俺の質問は覚えてるか?」
「ジン……。僕はアンドリュー・クライドだろ」
「朝はそう思ってなかったな?」
「……寝ぼけてたんだよ」
「お前、なんで古代魔法の名前なんか知ってるんだ?」
「だから、何かで読んだんだって、手を離せ」
顔を近づけるな。
近い、近い!
「本当の事を言えよ? 俺たちは、これから三年間は同室なんだぜ?」
あー、もう。
これ、絶対にゲームの仕様だろ。
じゃなきゃ、会ってすぐの男に、こんな感じになるのオカシイもんな。
くそ……なんで、綺麗な男なんだよ。
もっと、なんか、こう、あんだろ?
イケメンって言ったって、魅力の出し方が色々さあ。
目が——見られないじゃないか。
「………ここでは無理」
「分かった。部屋に戻ったら話せ」
………参ったな。