ルドルフ王太子
眉を吊り上げた貴族女子達を黙らせたのは、ルドルフ王太子だった。
ただ——さっきとは、少し雰囲気が違う。
何かに苛立っているような、剣呑な気配を纏ってる。
「彼が言っているのは正論だ。その意見に僕も賛成する」
貴族子女達が凄い顔で僕を睨む。
「お言葉ですが、ルドルフ殿下。私達はミザリア様に代わって意見させて頂いておりますのよ?」
ルドルフが貴族女子の後ろに立ってる、黒髪に灰色の瞳をした綺麗な女の子を見る。彼女は扇で顔半分を隠しているので、表情が分からない。
「そうなのか、ミザリア嬢」
「………」
「君がそんな考えの持ち主だというなら、僕も考えを改めなくてはな」
言葉の真意を測りかねてる貴族子女が、伺うような目で王太子とミザリアを見た。ここまで言われて真意を探ってるって察し悪いな。
「……席に戻ります」
消え入りそうな声のミザリアが踵を返すと、取り巻きの貴族子女は悔しそうに僕たちを見た。
「酷いですわ、王太子殿下。ご自分の婚約者より、男爵家の者を味方するんですの?」
「敵も味方もないね。先に彼らに絡んだのは君たちだ。しかも——子供のような理屈でね」
「!! どいういう意味ですの!」
「欲しいものが手に入らなかったからといって、手に入れた者をなじってる。そんな事をしても、君たちの評価や成績はあがらない。人の足を引っ張る前にやる事をやりたまえ」
貴族子女の顔が蒼白になってく。
席に戻っていたミザリアが、ふうっと溜息をついて立ち上がった。
「戻りなさい。マルガリータ。他の皆様も」
「で、ですが」
「戻りなさい」
静かで冷静な声だ。
王太子の婚約者は彼女なんだな。
突き刺さりそうな目で見ている貴族子女を他所に、ルドルフ王太子がよく通る声で言った。
「ここは学び舎だ。生まれも育ちも関係ない。上も下もないと思え。よく学ぶ、それが重要だ」
彼は人を魅了する笑みで教室を見回した。
殺気立ってた貴婦人達から、ギスギスした気配が消えてく。
——さすが、王太子。
人の上に立つ器ってことだよな。
僕は彼を侮ってたのかもしれない。
ルドルフ殿下は僕とジンを見ると、親しみを込めた微笑みを浮かべた。
「クライドくん。アイデンくん。入学試験で首席と次席だった優秀な二人を、生徒会へ誘いに来たんだけどね」
「……生徒会ですか?」
「ああ。詳しい話は、そうだな。明日にでもしよう。もうすぐHRも始まるだろ? 明日の放課後、生徒会室へ来てくれたまえ」
帰ろうとした王太子は、ふっと足を止めて僕を見つめた。
——なんだ?
その目。
背筋がゾクゾクするんだが?
「待ってるよ」
王太子はそう言って教室を出て行った——。
なんだったんだ?
立ち尽くしてると、ジンが僕の腕を軽く叩いた。
「教師が来る前に、とりあえず席につかないか?」
「あ? ああ。そうだね」
「で……リュー」
「ん?」
「さっきの、本気で言ってたか?」
「さっきの?」
「マルペーザマルモが能力主義ってヤツ」
あれ、新入生代表の選考とかから推測したんだけど、僕の認識って間違ってたか?
「………そう考えるけど」
「そうか」
ジンは綺麗な顔に意味深な笑顔を浮かべた。
「なら、お前はいったい誰なんだ?」




