表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/73

見つけた(続)

 僕とジンは同時に上を見上げ、天井で笑う魔王を見つめた。


「約束は、約束だ」


 回した腕に力を入れたジンは、静かに、けど、ハッキリと断言する。


「裕翔は俺の恋人だ。返してもらう」


 ——胸がギュッと痛くなる。


 アンドリューの姿じゃないのに、ジンは僕を恋人だって言ってくれる。探して、迎えに来てくれたし、僕の名前を呼んでくれた。


 思わず彼を掴んでる僕の手にも力が入る。


 ——ジン。


「ニグ。何度も言うよ。ジンが……今の僕の恋人」


 眉根を少し寄せ、宝石のような赤い瞳を細めたニグレータが僕らをジッと見て、少しして微笑んだ。


『お前は俺の庭の主役なんだがなー。今回は野に咲くことを選ぶか。まあ、仕方ない。小僧は間違えなかったしな。俺は——長い夢の続きでも見るか』


 綻んだ大きな赤い唇から、牙が少し覗いた。


『……お前の顔を拝めただけで、また、夢の続きが見られるよ』


 魔王の見せた笑顔は、身が竦むくらいの優しさを滲ませた笑顔で、僕の中のローズが震えるのが分かった。知らずに涙が溢れてきた。でも、それは僕の流したものじゃない。


 突然の浮遊感にジンの腕を強く掴む。ジンが僕を引き寄せて強く抱く。


『帰りは迷うなよ!』


 突き落とされる感覚、吹き上げる風、ジンが僕の目を覗き込んで唇を寄せる。柔らかく、湿った甘い息が僕の中に吹き込まれる。逆巻く風の中で交わす口づけで、震えたローズの気持ちごと熱くなってく。唇を離したジンは、あの、綺麗な笑顔で僕に笑いかけた。


 ——姿が戻ってる。


「マルグランダ殿下!」


 聖魔法の光が真っ直ぐに僕らを捕まえて、強く下へ引っ張られた。


 ☆


 床に落ちたと思ったら。


「やった! お帰りー!!」

「あぁぁぁ、リュー! どこもなんともありませんか? ご無事ですか?」

「おう、戻ったな。ジン、よくやった!」

「待つと言うのは辛いものですね。二人が心配で、生きた心地がしませんでした」


 マルグランだ殿下に抱きつかれ、涙でクシャクシャのミザリーに抱きすくめられ、アルゲント先輩に髪をクシャクシャにされ、ベーダ先輩にため息をつかれた。


 そんな僕らを一歩離れた所で、ププラ先生と王太子が安堵の息をつきながら見てる。


「お帰り、裕翔くん、ジンくん」


 ププラ先生が、僕たち全員を抱きかかえるようにして笑った。


「僕の大事な生徒が無事で良かった」


 王太子も僕の頭に軽く手を置いて、微笑んでくれた。


「お帰り。君たちは我が国の貴重な魔法使いだ。無事に戻ってくれて、本当に嬉しいよ」


 無事を歓迎されて、なんだか照れくさく感じたけど。


「……えーと。それで、ここ、どこですか?」


 見たこともない場所で、辺りをグルッと見回してしまう。


「ここはクリスタル・ローズ妃の廟なのですよ」

「え? お墓?」

「だそうですが、ここに御遺体があるのではないそうで」


 ププラ先生が後を続けて説明してくれた。


「慰霊祭だとか、豊穣祈願だとかね。儀式用の建物なんだよ」

「なるほど。それで、古代呪文がビッシリ」

「そう。君の帰還にはピッタリの場所だね」

「はは、そう…かな」


 ベーダ先輩が王太子を見て——。


「そろそろ外へ出ませんか? ジンもリューも戻ったことですし」

「ああ、そうだな。グラン。外へ出ようか」

「はーい」


 王太子殿下は、さり気なくミザリーの腕を取ってエスコートする構えだし、先輩たちは気にも留めずに歩き出した。


「行こう。裕翔」

「ジン。僕は——」

「いいだろ? ププラ先生も裕翔って呼んでたし、スパイクさんも知ってるんだし」


 ——まあ、んー。


「そうだね。学園でなら、いいのかな」

「いっそ、アンドリュー・裕翔・クライドに変名すれば?」

「冗談でしょ。本音を言えば」


 僕は少しだけ声を落とした。


「ジンだけに裕翔って呼んで欲しいんだし」


 ふっと足を止めて僕を覗き込んだジンの目が、深い青色をキラキラっと光らせる。それから、クスッと笑って僕の手を握って軽く引いて小声で囁いた。


「名前の由来を知ってるのは俺だけ。それで我慢だな」

「……分かったよ」


 繋いだ手が熱くなってきた。

 そんなふうに優しい声で囁かれると、やっぱり僕の心拍数は上がってく。


 ジンにだけ、熱が上がってく。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ