宝探し2
魔法陣の真ん中に立って、先輩たちに囲まれて、マルグランダ王子が唱える古代語の魔法呪文を聞いてた。全身にビリビリと電気的な刺激が走り始め、何かがスパークしたと思ったら……。
——帰る時は、僕を呼んでね!
という、王子の声と共に空間に投げ出される。浮遊感のすぐ後に落下して衝撃を受けた。
「痛ってぇ…」
思いっきり腰を打って、摩りながら起き上がった場所は、黄色を基調にした客間のような場所だ。
「……ここが、城なのか?」
ふっと人影が動いた気がして、慌てて立ち上がった。
出入り口のすぐ前に後ろ向きに人が立ってる。
蜂蜜色の金髪、赤毛がの混ざった髪——。
「裕翔?!」
振り返ろうとした人影に、強い違和感を感じた。
——違う。
アイツが纏う雰囲気じゃない。
「……誰だ?」
振り返ったソレは、裕翔の姿でニヤッと嗤った。
『へぇ。一応、違いは分かるんだな?』
——この声。魔王か。
男にしては愛らしい、甘い顔を歪め、首を傾げたソレが言う。
『ここまで飛んで来たことは褒めてやる。だが、まー、当然だ。お前がアイツの恋人だってんならな。俺の城から見つけてみせろよ。アレは俺のたった一輪の花だからな。摘み取るってんなら、他の花と間違えんなよ? 一度でも間違ったら、返さないぞ』
——コイツ、何を言って。
「返すとか、返さないとかじゃない。アイツは俺のペアだ!」
馬鹿にしたような笑みを浮かべ、裕翔の姿をしたソイツが言う。
『ペアねぇ。ニコイチだってか? ムカつくな』
ムカつくのは俺の方だ。
——裕翔の顔して嘲笑うなんて許せない。
ソイツは、ポンッと音を立てて指を弾いた。
『お宝探しの時間だ。好きに移動して構わない。ああ、外には出ない方がいいぞ。地上まで真っ逆さまに落ちて、潰れるのが嫌ならな。ローズも室内にいる。お、れ、の、城にな』
——攫っといて、好きでここに居るみたいに言うな。
『健闘を祈ってやるよ』
そう言うと、搔き消すように消えた。
消えた——くらいで驚いてはいられない。
ここは魔王の城なんだから。
「くそっ。とにかく、裕翔を探さないと」
部屋を出て廊下に飛び出した俺は、目が回るかと思った——。
「あっ?」
裕翔だらけ。
「あー! ジン!」
「本当だ。ジンだー!」
「へぇ、これがジン?」
「はははは、動いてる」
——どういう?
「ねー、ジン。見分けつく?」
ニコニコ笑いながら、裕翔の集団が俺を囲んでる。
いや——裕翔じゃねぇ。
どれも、これも、姿形は裕翔に似てるけど。
アイツじゃない。
「見分けなんか、つかねーよ」
「え? じゃあ、僕のこと連れて帰る?」
「馬鹿言ってんなよ。お前らじゃねーのは分かる」
裕翔の一人が目をまん丸くした。
「ここには、居ないってこと?」
淡い黄緑の目が、幾つも幾つも俺に注がれてる。
けど——。
あの瞳は、ここにはない。
普段は気弱そうな感じのくせに、俺を見る時の、あの——。
あの、少し熱を持った目。
俺とは違う、先輩方とも違う、ミザリーからも感じない。
風に揺れても折れない草花みたいな、柔らかい強さが宿った瞳の色。
アイツは受け入れる強さを知ってて、それは、周りを傷つけたりしない強さで。
俺は焦がれるみたいに、その目に惹かれる。
ここで俺に注がれてる、好奇心と悪戯で煌めく目じゃない。
「ああ。ここには居ない。居場所を知ってるなら教えろ。そうじゃないなら、邪魔すんな」
ケラケラと騒めくように笑い出した裕翔達が、脇に避けて俺に道を開けた。
彼らには悪意は感じないし、嫌な感じもしない。
そう、本当に、ただ、ただ、好奇心と遊び。
そんな感じだ。
——これが、精霊なのか?
裕翔の一人がクスクス笑う。
「つまんなーい。もう少し迷っても良かったのに。上手く化けてるでしょ?」
「……そうだな。肝心な所以外はソックリかもな」
「肝心なとこ?」
「ああ」
「えー。どこ?」
込み上げてくる笑いを噛み潰して、苦笑いに変えながら答えた。
「真似できないところさ」
「ふぅん? オリジナル?」
「唯一無二だ」
「なに、それー」
「なんだろうな」
「ふふ、分かんない。僕にはオリジナルの意味が分かんないし」
「そら、残念だ」
俺はクスクス笑いをする裕翔達を残して、ほの明るい廊下を進んでく。
この先に、オリジナルが居ると信じてさ。