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ローズの墓(ジン)

 ソルティソ学園というのは、王宮と隣接して建てられている。そして、マルグランダ王子は、俺に王宮の庭の奥まった所にひっそり建ってる廟へ行くと言った。


「王宮の庭に廟が建ってるなんて、初めて聞いたんだが」

「うん。それが、王家の秘話。クリスタル・ローズのお墓なんだよ」

「……墓があったんだ」


 ローズは魔王へ嫁いだんだから、マルペーザマルモに墓が残されてるとは思わなかった。


「初代国王っていうのはさ、ニグレータのことだからね。彼女はこの国で初の王妃だ。二人の間には、子を成すという概念は通用しなかったみたいで、権威を譲渡するって形で次の王を決めたけどね。僕たち王族のご先祖様は、クリスタル・ローズの弟なんだよ」


 それは、石造りの小さな塔で、石の表面は風雨に削られて丸くなり、苔むしていた。もし、ここがクリスタル・ローズの廟だと教えられなければ、景色に馴染みすぎて気づくことも出来なかったかもしれない。


「この廟は五百年前に建て直されたものだよ。魔王の目覚めに合わせて建て直されてくんだ」


 王子は建物の入り口に立つと、不思議な笑みを浮かべた。


「ここを使う日が来るとは思わなかったなぁ」

「……使う?」

「うん。この建物はね、魔王の城へアクセスできる唯一の場所なんだよ。建物自体が魔法陣のようなものなんだ。ローズは優秀な聖魔法使いだったからね。自分の家族達が緊急時に自分の元へ来られるようにって、建物の構造を考えたんだね。その設計図は、代々受け継がれてて、王家の宝物として秘匿されてる」


 何やら感慨深そうなマルグランダ王子を見つめて居たら、後ろから軽い足音と共にミザリーの声がした。


「ジン! グラン殿下!」

「ミザリー」


 顎に合わせたラインでパッツリ髪を切りそろえた彼女は、中性的な魅力を備えるようになった。長い黒髪を結い上げていた時も綺麗な女の子だったけど、俺は今の方がずっと好ましく感じてる。


 それは——王太子も同じらしくて。


「ミザリー。走ったら危ないよ」

「私はこのぐらいで転んだりしませんわ、殿下」

「けど……万が一はある。僕からあまり離れないでくれないか」


 最近の王太子はミザリーに過保護で、生徒間でも軽く噂になるくらいだ。彼女は王太子の心配を他所に、俺に走り寄って来ると灰色の目で見上げた。


「リューが攫われてしまったと聞きました。ジンは大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だよ」


 彼女は俺の腕に軽く触れて瞬きする。


「そう? 私も聞いた時は心臓が跳ね上がったので、ジンも心配で無理してないかと思いましたの」

「……うん。心配は、すごく、心配だけど」

「そうですわよね。……でも、今から救出に向かうと聞きました。私も微力ながら尽力致します」

「心強い。頼む」

「お任せ下さい」


 ミザリーの横に立って、彼女の肩に手を置いた王太子も俺を見て頷く。


「私もできる限りの事をするよ。仕切りはグランだな?」


 マルグランダ王子がニコニコっと笑う。


「そうだよ。ここに残ってる聖魔法使いは僕だけだからね。兄さんには悪いけど、しばらくミザリーを貸してもらうよ。彼女は僕の魔法ペアでもあるからね」

「そんなのは断らなくていい」


 そう言いながら、少し不服そうに口元に力を入れた。


「やあ、集まってるんだね」


 ププラ先生がベーダ先輩とアルゲント先輩を連れて歩いて来る。今日は始めてあった藤の園に居た時と同じ、雅な着物を身につけている。


「国に異変が起こってから実体化までが早すぎますね。まだ、魔王は安定した状態ではないでしょう。取り戻すなら、今ですね」

「お前に言われなくたって、グランはそう踏んで、俺たちを集めたんだろ? 先輩風を吹かせてないで、指示に従えよ。グラン、俺たちで役に立つなら存分に使え」


 マルグランダ王子が穏やかに笑った。


「もちろん。指示役は僕で問題ないよね、ププラ」

「無論だ。ここの鍵が外せるのは君だけだろ、マルグランダ」

「いやー、方法が分かればジンにも外せるよ」

「方法が分かればだろ?」


 王子は小さく頷く。


「これから披露する魔法は、王家に秘匿されるものだからさ。ここで見たこと、聞いたことは、他言無用でお願い。さて、では——行こうか。ジン」


 重そうな石造りの扉に手を当て、マルグランダ王子が何か呟くと、ギシギシと軋みながら扉が勝手に開いてく。その内部はポッカリと暗く、黄泉へ続く入り口のように思えた。






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