表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/73

添い寝

 中天の城って言えばいいわけか?

 魔王が僕を連れて来たのは、なんか雲の上で、羽の生えた白いちっちゃいのが行き交ってる。


『まあ、寛げ』


 部屋は広いし、何もかもが豪華絢爛だ。毛足の長い絨毯に、装飾の細かい調度品、サテンのソファーカバーに芳しいお茶の香り。外が見渡す限り雲でなければ、ここがどこかも忘れそう。


 ちっちゃい白いのが甲斐甲斐しくお茶を入れ、僕の前に運んでくれてる。


「……で、僕をどうする気なんだ?」


 たっぷりした長い黒髪を払って、これでもかと大きいベッドに横になった魔王は首を竦める。


『どうもしない。というか、できないな。俺はまだ実体がない。もう少し眠らないとならない』

「なら、なんで連れて来たんだよ」

『あのままにしといたら、若いのと恋人になってたろ』

「あのな、魔王」

『ニグと呼べ。ローズはそう呼んでたろう?』


 魔王は甘えるみたいに転がって笑った。


「……ニグ。僕を王宮に戻してよ。約束の時間まで、まだ間があるんだろ?」

『そんなに若いのがいいのか』

「いいとか、悪いとかじゃないし。だいたい、僕はローズじゃない」

『ふぅん。まあ、そのウチに思い出すだろ。ああ、今の名前は裕翔だったか? こっちに来い、裕翔』


 長い爪の生えた指が、僕をクイっと呼ぶ。

 なんだかなー。


「なんだよ」


 そばに寄った僕の額に指を当てた魔王は、口の中で小さく呪文を唱えた。

 ——と、僕の体が熱くなり、震えだし。


「?!」


 小さく欠伸をした魔王は、ニコニコっと笑って僕の頭を撫でた。


『鏡を見るか? ここへ来る前の姿に戻した。お前は気に入ってないみたいだが、その姿は、その姿でキュートだと思うぞ?』


 白い小さいのが集まって、大きな姿見を運んで来た。


 ——ああ。

 確かに、僕だ。


 黒髪、黒目、マルペーザの国民に比べて小柄で華奢な日本人。


「……聞いていいか?」

『あん?』

「アンドリューって何処へ行ったの?」

『一緒にいるだろ。お前の一部だ』

「……そうなの?」

『でなかったら、お前がアンドリューの体で目覚めるわけがない』

「ゲーム内転移じゃないのか?」

『ゲーム? ああ、媒体の話か。うーん。なら、俺が寝てる間に見てみるか?』


 僕の腕を引っ張ってベッドに引き込んだ魔王は、後ろから軽く抱いて頭を撫でた。途端に眠くなって、こんな危うい状況で眠っていいのかと抵抗する意識の中、ありありと自宅のリビングが浮かんで来る。


 ソファーに転がった姉が、鼻歌交じりにゲーム機を操作してる。


 ——特典プレイはアンドリューで!


 そう叫んでる姉の横に、白くて小さいのが行き交ってる。

 姉には見えてないようだ。


 ローテーブルの上で、けたたましく鳴ったスマホを掴んだ姉が立ち上がる。


 ——あー、まゆちゃん。元気ー? あたし? 元気だよー。なに、なに、どしたのー?


 そのままリビングを出て行く。

 白い小さいのがゲーム機に群がって、吸い込まれていく。


 リビングに入って来た僕が、ゲーム機に気づいて手に取った。


 点滅するゲーム機。

 流れる乙女ゲームの挿入歌。


 その瞬間、ゲーム機を中心に光の輪が広がってく。不可思議な文字が浮かび上がる光の輪は、僕を飲み込んで消えた。


 リビングにはゲーム機が残されて、戻って来た姉が手に取って転がる。


 ——やるぞ、同時攻略!!


 そのままゲームの続きを始めた。

 始めたんだよ、普通に。


『ゲーム機もゲームも媒体に過ぎないからな』


 ぼんやりした頭に魔王の声が聞こえた。


『お前を呼んだのは、俺だ。ずっと、会いたかったぞ。ローズ』


 ——ローズ。


 魔王の腕の中、そのまま深い眠りに落ちてローズの夢を見た。



ブックマーク、ありがとうございます!


ちょっと書いてるウチに迷子になってしまって、いまだ出口見えない感じで、読んでくれてる人も迷子になってないか心配です。久しぶりにキツイーって思ってますが、なんとかエンドまで行きたいので頑張りますー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ