添い寝
中天の城って言えばいいわけか?
魔王が僕を連れて来たのは、なんか雲の上で、羽の生えた白いちっちゃいのが行き交ってる。
『まあ、寛げ』
部屋は広いし、何もかもが豪華絢爛だ。毛足の長い絨毯に、装飾の細かい調度品、サテンのソファーカバーに芳しいお茶の香り。外が見渡す限り雲でなければ、ここがどこかも忘れそう。
ちっちゃい白いのが甲斐甲斐しくお茶を入れ、僕の前に運んでくれてる。
「……で、僕をどうする気なんだ?」
たっぷりした長い黒髪を払って、これでもかと大きいベッドに横になった魔王は首を竦める。
『どうもしない。というか、できないな。俺はまだ実体がない。もう少し眠らないとならない』
「なら、なんで連れて来たんだよ」
『あのままにしといたら、若いのと恋人になってたろ』
「あのな、魔王」
『ニグと呼べ。ローズはそう呼んでたろう?』
魔王は甘えるみたいに転がって笑った。
「……ニグ。僕を王宮に戻してよ。約束の時間まで、まだ間があるんだろ?」
『そんなに若いのがいいのか』
「いいとか、悪いとかじゃないし。だいたい、僕はローズじゃない」
『ふぅん。まあ、そのウチに思い出すだろ。ああ、今の名前は裕翔だったか? こっちに来い、裕翔』
長い爪の生えた指が、僕をクイっと呼ぶ。
なんだかなー。
「なんだよ」
そばに寄った僕の額に指を当てた魔王は、口の中で小さく呪文を唱えた。
——と、僕の体が熱くなり、震えだし。
「?!」
小さく欠伸をした魔王は、ニコニコっと笑って僕の頭を撫でた。
『鏡を見るか? ここへ来る前の姿に戻した。お前は気に入ってないみたいだが、その姿は、その姿でキュートだと思うぞ?』
白い小さいのが集まって、大きな姿見を運んで来た。
——ああ。
確かに、僕だ。
黒髪、黒目、マルペーザの国民に比べて小柄で華奢な日本人。
「……聞いていいか?」
『あん?』
「アンドリューって何処へ行ったの?」
『一緒にいるだろ。お前の一部だ』
「……そうなの?」
『でなかったら、お前がアンドリューの体で目覚めるわけがない』
「ゲーム内転移じゃないのか?」
『ゲーム? ああ、媒体の話か。うーん。なら、俺が寝てる間に見てみるか?』
僕の腕を引っ張ってベッドに引き込んだ魔王は、後ろから軽く抱いて頭を撫でた。途端に眠くなって、こんな危うい状況で眠っていいのかと抵抗する意識の中、ありありと自宅のリビングが浮かんで来る。
ソファーに転がった姉が、鼻歌交じりにゲーム機を操作してる。
——特典プレイはアンドリューで!
そう叫んでる姉の横に、白くて小さいのが行き交ってる。
姉には見えてないようだ。
ローテーブルの上で、けたたましく鳴ったスマホを掴んだ姉が立ち上がる。
——あー、まゆちゃん。元気ー? あたし? 元気だよー。なに、なに、どしたのー?
そのままリビングを出て行く。
白い小さいのがゲーム機に群がって、吸い込まれていく。
リビングに入って来た僕が、ゲーム機に気づいて手に取った。
点滅するゲーム機。
流れる乙女ゲームの挿入歌。
その瞬間、ゲーム機を中心に光の輪が広がってく。不可思議な文字が浮かび上がる光の輪は、僕を飲み込んで消えた。
リビングにはゲーム機が残されて、戻って来た姉が手に取って転がる。
——やるぞ、同時攻略!!
そのままゲームの続きを始めた。
始めたんだよ、普通に。
『ゲーム機もゲームも媒体に過ぎないからな』
ぼんやりした頭に魔王の声が聞こえた。
『お前を呼んだのは、俺だ。ずっと、会いたかったぞ。ローズ』
——ローズ。
魔王の腕の中、そのまま深い眠りに落ちてローズの夢を見た。
ブックマーク、ありがとうございます!
ちょっと書いてるウチに迷子になってしまって、いまだ出口見えない感じで、読んでくれてる人も迷子になってないか心配です。久しぶりにキツイーって思ってますが、なんとかエンドまで行きたいので頑張りますー。