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討伐

 クリムゾンの村について宿屋に入り、王太子とププラ先生が村長から詳しい話を聞いて、対策を相談してた。結果として、当初の予定通り二つのチームは別れて村の周囲の森を偵察、討伐していく方針は変わらないそうだ。


 クリムゾン村というのは、王都とは趣が違ってる。牛や鶏、畑や水車小屋、自給自足って言葉が浮かんでくる。村の周りは聞いてた通り森に囲まれてて、主に針葉樹が生えている。気配だけだけど、確かに魔物が近くにいるって感じる。


 ピリピリした空気感っていうのか、村人の表情も暗いし、疲れて見える。王都の兵士ほど立派ではないけど、男性たちは剣を腰に刺し、帷子のベストを着込んでいた。


 王太子の指示で、僕たちは南東側を回る。それは事前に聞いてた通り、ジン達は北西側を巡って村の反対側で合流することになってる。


「魔犬の群れが近くにいるそうだ。家畜がいくらか被害を受けている。魔犬への対応は訓練と同じだが、障害物も多い。決して仲間から離れないように注意して欲しい」


 ミザリーが緊張気味に僕の腕に触れる。


「掴んでて宜しいですか?」

「もちろん」


 彼女の手を軽く叩いて、笑って見せたけど、僕もそれなりに緊張してきてる。


 足跡や体毛なんかを確認しながら、魔犬の行動範囲を探りつつ進む。森は道らしい道もなく、足元が悪い。夏草も盛大に伸びてて、魔物達の痕跡を隠してしまってる。


 僕らが魔犬の群れに遭遇したのは、探索に出て一時間ほど経過した頃、訓練通りの陣形を組んでアミュー先輩が大まかな範囲に土壁を作り出した。


 木々が邪魔して訓練場のような強固な壁は作れない、それでも、各自が攻撃を開始する。基本は自分の属性魔法を付与した剣での攻撃になる。


「ミザリア。サーチ」

「はい」


 王太子の指令で、ミザリーが群れをサーチする。薄い闇が魔犬達を包んで気配に魔犬が吠えまくってる。


「リーダーは先頭の魔犬です。額に傷があります」

「了解だ!」


 走り出た王太子をベーダ先輩が追う。デミアンが霧を作り出して魔犬を翻弄してる。ミザリーも槍型の攻撃魔法で魔犬を攻撃してく。


 魔犬の面倒な所は牙だ。噛まれると痺れを起こして行動が制限される。止まれば群れで襲ってくるから、とにかく噛まれないように——。


「リュー! ベーダが噛まれた!」

「異常解除、解毒します!」


 ベーダ先輩に魔法を放つ。先輩は足を噛まれてしまったようで、片足を引きずってる。ミザリーが僕の後ろから防御魔法を使ってくれる。薄い闇の中でベーダ先輩の足が動き出すのを確認。


「先輩、ポーション投げます。受け取って」

「ありがとう!」


 いつもなら、王太子殿下の火炎にベーダ先輩の風魔法が方向性を与えるんだけど、ベーダ先輩が負傷してたもんだから、殿下の火炎魔法が針葉樹に引火してしまった。


「消します、下がって!」


 アミューが水魔法で炎を消火しようと魔法を放ってくれた。けど、一瞬、動揺した王太子の隙をついて魔犬のリーダが王太子に飛びかかる。


「!! 殿下!」


 ミザリーが走り込んで王太子の前に防御を張った。張ったんだけど、一瞬遅かった。ミザリーの肩に魔犬がガッツリ噛みついてる。


「ミザリア!」


 王太子の剣が魔犬の首を刎ねるのが見えた。僕は駆け寄ってミザリーに回復、異常解除の魔法を発動する。気づいたアミュー先輩が、僕らの周りに土の壁を作って防御してくれた。


「大丈夫、ミザリー」

「…はい。ああ、ビックリした」


 彼女は僕の顔を見ると、少し青い顔で笑った。早かったから解毒はすぐ終わったけど、傷の回復は間に合わない。出血は止められたけど、彼女の肩口に噛み跡が生々しく残ってる。


「ポーション飲んで」

「はい」


 腰の袋からポーションを取り出そうと、彼女から手を離したら、王太子がミザリーを引き寄せて抱きしめた。


「無茶するな!」

「!!」


 しばらくミザリーを抱きしめた王太子は、すごく困った顔で彼女を見る。


「すまない。髪が——」


 彼女の髪の一部が、王太子の剣でバッサリと短く切られてしまっていた。気づいたミザリーは、その髪に触れて僕が見た、あのキラキラと可愛い笑顔で笑った。


「あぁ。髪ならまた伸びます。それより、殿下はご無事ですか?」


 王太子の表情が、みるみる変化してく。

 見たことないような表情だ。


 ——まあ、そうだよな。

 あの笑顔を自分がさせてるって気づいたら、そりゃ、なぁ。


 けど、今は討伐中だ。


「ミザリー。ポーション」


 僕がそう言って彼女に小瓶を渡すと、王太子殿下は気遣うように彼女を離した。


 ベーダ先輩の声が聞こえる。

「殿下。リーダーを失った今が契機です! 群れを殲滅しますよ!」


 王太子は僕らに背を向けて走り出した。

「アミュー、陥没させてってくれ、デミアン、陥没に落ちた魔犬を水攻めだ」


 ポーションを飲んで、ポケットに小瓶を戻したミザリーが扇を握り直す。


「行きましょうか、リュー」

「怪我は? 大丈夫?」

「ふふ、こんなの、かすり傷ですよ」


 高揚した表情のミザリーを見て、ああ、彼女なら立派な王妃になるだろうなって思った。こんなに、可愛くて、真摯な女の子なんだから——。



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