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移動

 討伐隊は三つの馬車に別れて乗り込み、クリムゾン村を目指すことになった。まー、討伐チームに王子が二人も参加してるから、仰々しい感じ。


 王太子と第二王子の乗ってる馬車の周りは、騎馬兵が護衛してるっていうね。

 討伐に向かうのに護衛がついてるって不思議な感じ。

 まあ、仕方ないんだけど。


 僕はジンとミザリーとデミアンという、一年生ばっかりの馬車に乗った。実際、クラスメイトばっかりって気が楽だよ。デミアンっていうのは、マルペーザマルモでは一般的だという焦げ茶の髪と瞳で、少しソバカスの散った男前だ。体躯は細身で背が高い。


 印象だけならスパイクさんが近い。彼は騎馬兵に混ざって馬で同行してくれてる。


「少し緊張しますね」


 紅一点のミザリーが、落ちつかない様子で扇を弄んでる。


「そうだね。そう言えば、魔物の種類とか聞いてる?」

「グラン殿下のお話ですと、魔犬が主になるのではないかと」


 デミアンが小さく頷く。


「俺もそう聞いてる。訓練場で戦った感じだと、やっぱり群れのリーダーを抑えるのが早いかな」


 ジンが外を見ながら少し目を細めた。


「クリムゾンって周りが森だろ? 障害物がちょっと厄介だよな」

「うん。闇属性のサーチ魔法が威力を持ってきそうだね」


 僕がそう言うとジンが少し口元を綻ばせた。


「チーム別れるけど、最終的に合流するみたいだからな。ミザリーとも連携が取れるかもな」

「期待してます。ジンと一緒に使うと、魔法の威力も倍増しますから」

「ああ。リューをよろしく頼むよ」

「お任せ下さい。ジンもグラン殿下のカバーをお願いしますね」

「もちろんだ」


 デミアンがクスッと小さく笑った。


「あんたらって、本当に仲良いな」

「そうか?」

「ああ。チーム組んで実感した。ププラはペア替えさせたけど、俺はジンとリューのペアがチームにいると安心だよ。ミザリアが不安ってわけじゃない。でも、やっぱり、ミザリアはマルグランダ殿下との方が連携良いと思う」


 ミザリーがデミアンに微笑む。

 最近、彼女の表情は柔らかいような気がする。


「リューは魔力が強いのです。グラン殿下は私の魔力量に合わせて下さいますから」

「あー。ごめんね、ミザリー。僕、その辺りの調整が下手で」

「いいえ。強い魔法が使えるのは良いことです。その点、ジンはリューに魔力負けしないので、やはり、二人がペアなのですよね」


 ジンは少し瞬きしただけだ。

 けど、喜んでくれてるんだなって分かった。

 お前のペアは俺だろって、今朝も言ってたしね。


「向こうについたら、どうするんだっけ?」

「私が聞いて居るのは、宿泊施設に落ち着いたらミーティングがあるということだけです」

「俺もそんな感じで聞いてる」


 デミアンが軽く頷いて、自分の指にハマってる指輪を弄った。右手の中指にハマってる指輪は、シルバーの太いもので複雑な植物が刻まれ、小さな緑の宝石がついてる。


「デミアンの指輪って、魔法杖的なヤツ?」

「ん? あぁ、そうだよ。はは、緊張してるのかな。緊張すると触っちゃうんだよな」


 ミザリーが彼の指輪を見て感心したような声を上げた。


「その意匠はマルモの葉ですね? 恋人がいらっしゃる?」

「さすが女子は目ざといなぁ。うん。恋人いるよ。ペアリングなんだ」


 照れたみたいなデミアンの笑みに、なんだか胸のあたりがホッコリした。


「みんな、けっこう相手がいるんだね。カーゴも、これから行く村に許嫁が待ってるって言ってたし」

「………そうなのか?」


 ジンが少し驚いたような顔で僕を見た。

 言ってなかったかー。


「そう。クリムゾンは彼の故郷で家族も居るけど、幼馴染の許嫁もいるんだって。だから、討伐隊には期待してる。よろしく頼むって言ってたよ」


 ミザリーが大きく頷き、デミアンも微笑む。


「選抜された時には、能力が評価されて嬉しいとしか思ってなかった。けど、準備を始めて訓練してるウチに、責任重いなーって感じたよ。けど……それで助かる人たちもいるんだしな。頑張ろうって思う」


 デミアンは、もう一度だけ自分の指輪に触れた。

 真面目な奴なんだな。


「そう言えば、リューの腕輪は贈り物なのか?」

「え? これ?」


 デミアンが微笑んで頷く。


「ミザリーのは祖母の形見って聞いたし、ジンの指輪も祖父の贈り物だって聞いたから」

「そうだね。大切な人から贈られたものだよ」


 僕がそう答えて笑ったら、ミザリーが僕のブレスレットを褒めてくれる。


「鳥の意匠はリューのイメージによく似合いますね。細くて軽い作りも腕に馴染んでて素敵ですよ」

「ありがとう」


 ——と。

 ジンがフイッと外に視線を外した。


 ああ、照れてる。

 耳が赤くなってるもんな。


 デミアンが気づいたみたいで、ククッって笑った。


「皆んな、大切な人に助けてもらってるんだね」

「そうですわね。一人ではないって、心強いですね」


 ミザリーは自分の黒い扇に触れて、懐かしむように微笑んだ。

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