ほぼ恋人
討伐は明日なんだが、移動は前日からなので朝早く準備して出発。
そう聞いてたんだけど、僕は前夜に気が張って眠りに落ちるのが遅くなった。いろいろあったから何だけどさ。部屋の模様替えがあったり、変な影が出てきたり、スパイクさんには煽られまくってるし。
ブレスレットのイメージで、なんとか眠ったって感じだったから、朝はもう、朦朧としてた。
——リュー。
——おい、リュー。
——起きろ、裕翔!
ジンの声に目が覚めて、目を開いたら、彼は僕の頭の横に手を置いて見下ろしてた。
「……ジ…ン?」
「そうだよ。起きろよ。今日は出発が早い。準備しないとだろ」
うん。それは聞いてた。
聞いてたけど——なんで、こんな体制?
下から見上げるジンは、ちょっと、あれ過ぎて心臓がヤバイ感じなんだが?
「なんて顔してんの? そんなに強張るか?」
「……いや。起こし方が変じゃないか?」
「は? 起こし方に変も何もないだろ? ったく、このベッドは不必要に広くないか? お前が何処にいるのか探さなきゃなんなかった」
ギシッとスプリングを鳴らして体を退けたジンは、僕の頭の横で胡座をかく。
「なんだよ。俺が起こしたのが不満なのか? スパイクさんが良かったか?」
「いや、そういうんじゃないけど」
朦朧としながら上半身だけ起こしたら、ジンが軽く目を細める。
「寝癖すごいな」
腕を伸ばして僕の頭に触れたと思ったら、引き寄せられた。
「ジ……」
唇が重なったんだが?
ど、どういう?
僕が呆然としてたら、体を離したジンが軽く首を傾げた。
「おはよう。目が覚めたろ」
目は覚めたよ。
覚めたけど——。
項垂れて両手で顔を覆ってしまう。
心拍数が——。
「……だから、起こし方が変でしょ」
「変じゃ無い。お前が何もなかったみたいにしてるからだろ」
「………………は?」
ジンは少し顔を赤らめたまま、唇を尖らせた。
「俺は、けっこうな勇気を振り絞って中庭まで行った。ただの友達なら、キスなんかしないって分かっててさ」
——あー。
ええっと。
二度目のキスを思い出して、心拍数がさらに上昇してくる。
「お前って、本当に、俺をどう思ってるわけ? 一緒に風呂に入るのは困るって言ったから時間をズラしたのに、なんで他の男と仲良く話をしてるんだ?」
「仲良くって……えっと?」
ジンは胡乱な目で僕を見てから、自分の足先に目をやった。
「そりゃ、カーゴは剣が強いだろ。アイツが真面目に訓練してるのは、俺だって知ってる。けど、俺だって弱いつもりはないんだけど? アイツは、そりゃ、筋肉質のデカイ体してるし、頼り甲斐あるんだろうけど」
「………はい?」
「アイツなら、俺みたいな失敗はしないかもな。スライムくらい、ぶった切るの簡単なんだろ。けど、お前の相方は俺だから。今回は組み合わせ違うけど、ペアは俺だろ」
これ——もしかして、妬いてるのか?
う、うわぁ。
ちょ、ヤバイから。
「………何か言えよ」
「いや、悶え死にそう」
「は?」
「妬いてるのなんか、可愛い過ぎ」
少し俯いてる顔を覗いたらバシッと目があって、ジンが真っ赤になってくのが見れた。
いつも、割と冷静なイメージだから、綺麗な顔を真っ赤にして唇を尖らせてるとか、妬くとか、想像できないじゃないか。
「妬いてるわけじゃない。だいたい、俺が可愛いわけないだろ」
「……可愛いよ」
真っ赤な顔で目を瞬いて、拗ねたみたいに唇を噛む。
そんなコイツを誰が想像するよ。
スパイクさんに言われるまでもなく——押し倒したい。
もう、全力で。
けど、僕には理性があるからな。
今日は討伐場所に移動だし。
ジンはブレスレットに魔法を付与してくれた。
けど、僕は魔法付与できないし。
彼を遠くからは、守ってやることもできない。
——僕だって、相当の勇気を出して好きになっていいかって聞いたんだ。
ジンの首を引き寄せて、鎖骨に唇を寄せた。
離れてる間も側に居たい——。
「何? ゆ、裕翔?」
「他の奴の話しをたって、ジンにしか、こんなことしたいと思わないよ」
鎖骨に赤く僕の痕を残す。
思いだけでも、彼の側で彼を守れるといい。
そう思って……。
痕に気づいたジンが耳まで赤くしてく。
軽く潤んだ青い目が、困ったように瞬いて僕から視線を外した。
——何だよ、その反応は。
本当に可愛いすぎるんじゃないのか。
確かに——ジンの為に辛くて苦しいなら、幸せにも感じるのかもしれない。
体の中で疼く思いを押さえ込むのが大変だったけど、感情に任せちゃダメだよな。
だって、僕は彼を大事にしたい。
そう、思ってるんだけど。
「ごめん…………それ、隠れるかな?」
「隠せるけどさ」
「なら、もう一個つけたい。もう少し——下に」
「え? おい、ゆ、ちょ——」
「ジン。僕はジンが好きだよ」
「わ、分かったから、やめ。ちょ、ゆ」
「んー。止めない。ジンが悪い」
「な…ん」
痕は二つで済まなかったけど、まあ、うん。
ジンには怒られたけど、ま、うん。
滅多に見せない表情が見られたから、幸先の良い朝かな。
なんか、何かが吹っ切れた気がする。
成り行きだけど、ジンに好きって言えたし。
妬かれるのって、嬉しいもんなんだって思わなかった。
面倒臭いものだと思ってたよ。
なんだか、最近、知らない感情を経験してる。
振り回されるけど、それが——楽しいかもしれない。
イチャついたり、妬かれたり。
僕だってジンが親しくしてたら、他の奴に妬くんだろう。
なんかもう、これって、恋人じゃないのか?
そう思っちゃダメなのかな。




