いらん装飾
訓練を終えて、寄宿舎の端の部屋へジンと二人で戻ったら、巨大なベッドが設置されてた。
そう言えばスパイクさんは、魔法省の一員として動くって明言したププラ先生と友人だったね。
そのうえ、僕がジンを好きだって看破して、逃げ道無くすって言ってたよね。
うん……言ってた。
「スパイクさん。昨日まではベッドが二つありましたよね?」
「いいえ」
「けど、ジンと僕は別のベッドで寝てました」
「あー。ダブルベッドが間に合わなかったんで、ジンさんには簡易ベッドを使ってもらってました」
「要するにベッド、二つあったってことですよね」
何を考えたらダブルベッドになるんだよ。
僕もジンも学生だぞ。
そんで、ここは学生寮だろーが。
「簡易ベッドを戻して下さい」
「えー。なんでですか」
「僕が使うからです」
「ダブルベッドが有るんだから良いじゃないですか。キングサイズですよ? 広いんですから」
「そういう問題じゃありません」
ジンは部屋に運び込まれたビッグサイズのダブルベッドを見て、ただ、ただ、苦笑を浮かべてるだけだ。
「スパイクさん。僕に睡眠を取らせたくないんですか?」
「まさかー。アンドリューさんには、グッスリ眠って頂きたいですよ。健やかな睡眠は魔力安定にもつながりますしね。主の体調管理は侍従の仕事でもありますから」
思わずギロっと睨んでしまった。
「なら、簡易ベッドを戻して下さい。僕がジンと同じベッドで安眠できるわけないでしょ!!」
「ええ? 逆でしょう? 二人で寝た方が安眠できますでしょ?」
「できるか!!」
思わず叫んだら、スパイクさんがケラケラ笑った。
「ヤダなー。ただ寝るだけじゃなっすか」
「スパイクさん。実践は明後日なんですよ? 慣れない環境で寝不足なんて、死にます。あなた、僕を殺したいんですか?」
「我が儘だなー。分かりました。そこのソファが簡易ベッドになりますから、そう目くじらを立てんで下さいよ」
……有るんじゃないか。
というか、この部屋、どういう趣旨で飾り付けてんだよ。
まるで安いラブホじゃねーか。
ベッドの上にミラーボールとかセンス古すぎだろ。
行った事なんか無いけどさ!
「拗ねないで下さいよ。アンドリューさんが、どうしてもって言うから、部屋の中央に衝立を作ったでしょ?」
すげー簡単な衝立で、二メートル無いけどな。
「いつでも浴槽が使えるように、簡易の風呂場も作ったんですよ?」
ぜんぜん頼んでないけどな。
「ププラが愛の巣には必要だって言うから、アルコール抜きのカウンターバーだって作ったのに」
アルコール抜きの意味が分からんよ。
愛の巣ってなんだ!!
ここは寄宿舎だっての!
「……スパイクさん。見守るって言いましたよね」
「はいはい。言いましたよ。僕はアンドリューさんの侍従ですし、当座はジンさんの侍従も兼ねます。お二人の、おはようからおやすみまで、生暖かい目で観察……もとい、見守らせて頂きますよー」
ジンは運び込まれた新しい机に自分の荷物をしまいながら、僕にスペースの確認をしてきた。
「衝立のこっち側が俺のスペースでいいの?」
「うん」
「リューの方が窓が小さくなるけど」
「いいよ。ダブルベッドもジンが使って」
「……できれば簡易ベッドの方が落ち着くんだけど」
「だよな……分かった。ソファーの位置を変えよう」
そりゃな、スケスケの天蓋にミラーボールとか、有りえない装飾のベッドだし。シーツが赤って気が違ってないか? 俺もジンも男だが?
「二人とも、僕の見立てがそんなに気に入りませんか? ベッドに薔薇が散らしてないからですか? ププラは推してたんだけど、僕はないかなーって思ったんです」
——ちょ、待ってくれ。
真っ赤なシーツのダブルベッドで、真紅の薔薇に埋もれたププラが浮かんで来ちゃったじゃないか。
というか、若葉姉がここに居たら聞きたい。
マルペーザマルモのゲームには、そういうシーンがあるんかい!
乙女ゲームだよな?
十八禁じゃねーよなー!!
「……スパイクさん」
「はい?」
「僕らは学生です。学業が本分なんで、貴方がたと一緒くたにされると困ります」
「ヤダなー。これでも不要な装飾は削ったんですよ? 手錠とか、鎖とか、蝋燭とか——大人の玩具類は流石にないかなって思いましてね」
「あなた、僕らに何をさせたいんですか」
片付け終わったらしいジンが、側に来て僕の腕を叩く。
「リュー。遊ばれてないで飯に行くぞ。今日は浴室も使える日なんだし、早く飯を食って、風呂に入って寝る」
「あ……うん」
スパイクさんが、少し剥れてジンを見る。
「ジンさんも遊ばれていいんっすよ? 浴室は部屋にも作ったって言いましたでしょ?」
「大浴場は使いっ放しでいいから楽なんですよ。級友とも親交が深まるし」
「ふぅん? けど、アンドリューさんの体を他人に見られるんですよ?」
ジンが面白そうにスパイクさんを見る。
「そういう目で見られてんじゃなきゃ平気でしょ」
「分からんですよ?」
「まあ、それならそれで、指くわえて見てろって感じだし」
——なに、その発言。
そういう目って——お前は、僕をそういう目で見るのかよ。
そう思った途端に、自分の顔が上気してくるのが分かった。
真っ赤になった僕を、スパイクさんがポカンとした顔で見る。
「あ、あー、そうですか。無用の心配でしたね。もう、大浴場でも小浴場でも、好きに使って下さい」
ジンがニコッと笑って、行くよって僕の腕を引っ張った。
頼もしいんだか、なんなんだかな。




