見守っててよ
ニコニコ笑うスパイクさんは、ヒョロッとした腕を組んで首を傾げた。
「……あれ? もしかして怖気付いてんすか?」
揶揄うような感じじゃなくて、本当に不思議に思ってるみたいなんだけど。
「い、いや。だって、スパイクさん。そういうのって、こう、確信っていうんですか? 絶対にそうだって思ってからじゃないですか? こう…伝えないではいられないっていうような、そういう気持ちになってから」
なんか、しどろもどろだな。
けど、そうだよな。
告白って——いろいろ、覚悟がいるだろ。
というか、その前にキスしちゃダメだよな。
もう、本当に、いろいろダメっぽい。
「なんですか? 自分の気持ちに自信がないって事ですか?」
「そりゃ、そうですよ。だって、僕は男だし、ジンも男なんですよ?」
「性別が気になるんですか?」
「そりゃ……恋愛感情って普通は異性に感じる気持ちでしょうし」
スパイクさんが、ふっと目を開いた。
普段が目を見せない人だから、見つめられるとギクッとする。
「普通ってなんすか? 普通って分かんないですけど、人が人を好きになるのは自然なことでしょう。在るものを無いことにする普通より、自然な感情を曲げて不自然にする方がいいですか? ダメでしょ」
——えっと。
僕が戸惑ってたら、スパイクさんは僕の手をガシッと握った。
「男なら、ドーンと行きましょ! 一回や二回、振られたってメゲるこたないです。伝えなきゃ伝わらんのですから、ジン・アイデンを落としましょう。それが世界を破滅から救うんですからね。大丈夫! 気持ち良くしてしまえばいいんっすから。もう、気持ち良くて、気持ち良くて、アンドリューさん無しで生きてけないようにするんです。分かりましたね!!」
……分かりましたねって。
「それとも、俺とそうなりますか?」
「……は?」
「俺の性的嗜好は異性ですけど、アンドリューさんならいける気がしてきました。気持ち良くしてあげましょうか? 俺から離れられないくらいに——」
「う、うわぁぁぁ!!」
スッと伸ばされた長い指が軽く首を撫でるから、ビックリして椅子ごと思い切り後ろに倒れてしまった。
スパイクさんが面白そうにケラケラ笑った。
——完全に揶揄われた。
「良い反応ですねー。大丈夫ですか?」
すでに糸目に戻ってて、彼が何を思ってるのか全く読めない。けど、僕を起こすのに伸ばされた手を握ると、体温が上がってるみたいで熱かった。
「クククッ。冗談ですよ。んなことしたら、王太子にブチ殺されます」
彼はそのまま茶器を片付け出す。
「着替えは衝立の裏に用意してますから、ご自分で着替えて寝て下さい。僕が着替えさせてもいいんですけど、自重しないと暴走しても困りますから。あなた、自分に自信を持って大丈夫ですよ。同性の目からだって、十分に魅力的に映りますから」
——ああ。
それが言いたかったのか。
勇気付けようとしてくれたって事かな。
普通に口で言ってくれれば良いのに。
マジでビックリした。
「アイデンもあなたに惹かれてると思いますよ。あとはタイミングでしょーね。逃げ道なくしますか」
「逃げ道って……スパイクさん。できれば、見守ってて頂けると」
——これ以上、距離ができたら僕が耐えられない。
「嫌だなー。無理強いなんかしませんよ。ククッ。んなことしなくても、二人は、そうなるでしょーし」
「なるとか、ならないじゃなく! み、見守ってて、頂けると!」
彼はニコッと笑って、茶器を乗せたお盆を持った。
「分かってます。では、おやすみなさい」
スパイクさんが扉から出て行って、椅子に座った僕はグッタリ脱力した。
なんか、煽られまくってる。
ただでさえ、感情に振り回されて疲れてんのにー。
というか、ジンに謝りたいと思ってるのにタイミングが全然わかんないし。
思い切り避けられてるし。
——好き。
好きかー。
僕はジンが好きか。
そう思った途端、今日一番の発熱が起こった。
自分で分かるくらい顔が熱い。
分かってたけど——。
自覚するのって思ってたより、くるもんだな。




