表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/73

押して来ましょう 

 その日の僕は、グッタリ疲れて部屋に戻った。


 討伐場所の説明やら、討伐訓練の事とか、あんまり頭に残ってない。ジンに反応しないようにするだけで必死だったんだよ。 


 一緒に行動するけど、ジンは全く目を合わせてくれなかった。


 僕は聖魔法使いだから、攻撃魔法を使えない。面倒なことに防御魔法も無理なんだ。だから、ジンと組んで攻撃や防御の担当と回復担当に別れる。パーティーメンバーとして、他のメンバー達にも回復魔法を使う。


 古代魔法は極力使うなってププラ先生に言われてる。アレはイレギュラーだし、僕やジンの体にどのくらいの負担がかかるかとか、魔力切れのタイミングとかが分かってないからって。


 魔法を使ってる時は特に無防備になるから、ペアになったジンが僕の安全に気を配ってくれる。タイミングを測る為に、ジンは僕の腕や背中に軽く触れて魔力の流れを確認する。


 触れられれば、そこだけ熱を持ったように熱いし、近寄ればアイツの体臭を感じる。これ以上は嫌われたく無いのに——心臓はバクバクするし、顔に出そうで。


 ああ。

 もう……しんどい。


 きっと、態度がおかしかったんだよな。

 ミザリーに心配された。


「リュー。どうかされましたか? ジンと喧嘩でもしたんですか? ずっと眉間にシワが寄ってましたけど」

「え? ああ、いや。喧嘩はしてないよ。大丈夫」

「お二人とも目を合わせませんし。本当に、喧嘩とかじゃないんですか?」


 目を合わせたら、赤面しちゃいそうだっただけだ。

 まさか、本当のことも言えないし。


「うん。大した事じゃないんだよ。大丈夫」

「……そうなんですか? なら、どこか具合が悪いとかですか?」

「いや、ぜんぜん。ぜんぜん大丈夫だから」


 彼女はキュッと唇を噛んで。


「リュー。私では頼りないのかもしれませんが、何か悩みがあるなら相談して頂きたいです。私はリューのお友達のつもりなのですけど……」


 目を軽く伏せる。 

 そんな淋しそうな顔しないで欲しいな。


「え、あーいや。ほら。ま、魔王? 魔王の復活とか考えてたらさ」


 少し巻いた黒髪を軽く揺らし、ミザリーはホゥッと小さく息を吐く。


「……魔王ですか。そうですね、そのことを考えると不安になるのは分かります。ルドルフ殿下も他の皆さんも、少し様子が変でしたし、緊張しますよね」


 息をついたミザリアが、僕を伺うように見て、迷ったように呟く。


「リュー。リューには好きな人がいますか?」

「へ?」

「あ、立ち入ったことを聞いてごめんなさい。ただ……聞いたことがあるのです。魔王を倒せるのは、古代魔法の使える聖魔法使いだけだと」


 ——そうか。

 ミザリーも知ってるのか。


 そうだよな。

 王太子妃候補なんだもんな。


「それで……」

「君も僕に恋をしろって?」


 ミザリーが目をまん丸にして僕を見る。


「あ、あの」

「そうなー。恋なー。ねえ、ミザリー、恋ってどんなの?」

「ど、どんなの、ですか?」


 僕はヤケ気味で頷く。


「心臓がバクバクすること? その人を見たら赤面すること?」

「ひ、人によって違うんだとは思いますが……わ、私は」


 ——私は?

 え?


 彼女は一度下を向いて、それから顔を上げて僕を見上げた。その表情は見たことないくらい可愛くて、目がキラキラと輝いて見えた。


「辛くて、苦しくて、でも——幸せなもの、だと思います」


 言い終わった彼女はパァッと頬を染めて、照れ臭そうに笑った。


 ああ、こんな表情、誰がさせてんだろうな。


「ミザリーには、好きな人が居るんだね」

「……はい」


 それは——誰?

 聞こうと思ってやめた。


 だって、それが王太子以外だったらキツイ話だからさ。

 彼女はルドルフ王太子の許嫁なんだから。


「……で、あの、リューは?」

「ああ、僕か」


 辛くて、苦しくて——。

 もう、溜息しか出ないな。


「どうだろうね。よく、分からない」

「そうですか。それでは、これから会えると良いですね」

「そうだね」


 部屋に戻ってボーッと立ったまま、ミザリーとそんな会話をした事を思い出してた。


 ——と。


「お疲れっすね、リューさん。でも、まあ、分かりました」


 スパイクさんが僕を椅子に座らせて、ニコニコと飲み物を用意しだした。


「分かったって何がですか?」

「アンドリューさんの好きな奴ですよ。よく見てりゃ、一目瞭然でしたね。王太子には諦めてもらいましょう」

「……は?」


 スパークリングしてる冷たそうな飲み物をテーブルへ置くと、スパイクさんは糸目を開いて僕の前に座った。スパイクさんの瞳って焦がしたキャラメルみたいな色をしてる。その瞳に、今はちゃんと感情が見えた。


 父親が息子でも見てるみたいな、優しい感情。

 見守ってるっていうのか?


 ——けど、口から出て来た言葉は。


「あなたが好きな男は、ジン・アイデンなんっすね。分かります。アイツ、良い奴そうですし」

「……は、はぁ?」

「あれ? 隠してるつもりですか? 本人だって気づいてますでしょ?」

「え? ジ、ジンが?」

「そう思いますよ。その事をどう思ってるかは分かりませんが」


 ——まあ、バレるか。

 あんな事をしたんだし。


 知ってて、あの態度か……。

 キツイなぁ。


 スパイクさんはニッと口元で笑った。


「初々しいなぁ。いいでしょう。押していきますよ」

「え? 押す?」

「無論でしょ。僕の見た所、押せば落ちます」

「は? や、え? 押すって……」


 糸目に戻ったスパイクは、手を伸ばして僕の頬に触れた。


「そっすね。男なら、押し倒したら?」

「は! な、な、なに、言ってんの!」

「はははは、冗談ですよ」


 パッと両手を挙げ、彼はニコニコっと笑って言う。


「好きだって伝えるのが先ですね」

「………」

「告白ってヤツです」


 ——軽く言うなよ。

 僕は目も合わせてもらえないんだぞ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ