溜息
スパイクさんの起こし方はジンとは全然違った。
力づくで起き上がらせられ、僕が半分くらい眠っててもお構いなし。布団を剥がされ、夜着を剥がされる。
「しっかりして下さいよ。アイデンさんに聞いてましたけど、、思ってたより酷いですね。あなた、血圧が低いんじゃないですか?」
「……え…血圧?」
「口開けて下さい」
「……へ? うぐっ、く。な、何ですか?」
「カフェインと糖分です。目が覚めますよ」
甘くて苦い塊を口に放り込まれ、人形のように着替えさせられ、手荒に熱いタオルで顔を拭かれる。
「食事は食堂でって、自分で言ったんですからね。覚えてますか?」
「……え?」
スパイクさんが身を屈めて僕の顔を覗き込む。糸のように細められた目から、ほんの少し覗く瞳は感情が読めなくて怖い。両脇に腕を差し込まれ、勢いよく立ち上がらせられて背中をパンッと叩かれた。
「シャキッとしなさい。男でしょーが」
——あ。
目が覚めて来た。
「起きました。ええと、凄いですね、カフェイン」
「最終手段です。今日は私が侍従になって初日なんでね。遅刻なんかさせられませんから。さ、行きますよ?」
「え? どこに」
「食堂です」
背中を押されて部屋を出て、ハッと思い出す。
——食堂に行ったらジンに合うんじゃないかな。
自分が衝動的にしてしまった行為を思い出し、頭に血が上ってくる。
うわぁ、顔が合わせづらい。
なんか、もう。
「どうしました?」
「え?」
「茹で蛸みたいになってます。カフェイン、効き過ぎた?」
「だ、大丈夫です」
不思議そうなスパイクさんの横を早足で過ぎる。赤い顔なんか、いつまでも見せてられない。彼は何も言わずに僕の後ろをついて来た。
食堂に入ってすぐ、僕の足はピタッと止まった。
ジンが居る……。
普通にトレーに朝食を載せてるだけなんだけど。
どうしよう。
「アンドリューさん?」
スパイクさんが不思議そうに僕の名前を呼んだ。こんな所で怖気付いてる場合じゃない。
心臓がバクバク言って耳鳴りがしそうだけど——。
挨拶、あいさつをしなければ。
そ、それで、あー。
アレを誤った方がいい?
と、とにかく、挨拶。
普通に、さりげなく、なんでもない感じで。
「お、おはよ、ジン」
——ジンの肩がビクッと強張った。
「……おはよう」
そのまま、僕の方を振り返らないでサッサと席へ移動してく。
僕、嫌われたのか?
なんか——泣きそうかもしれない。
だけどな、考えてみればそうだよな。
ジンは自分を攻略対象から外せって言ってたんだし。
きっと、普通に女の子が好きなんだろ。
なのに、突然、良いも悪いもなく。
唇を奪われたわけだ。
警戒されて当然で、嫌われたって変じゃない。
……落ち込む。
ヘコむなぁ。
ジンとは逆の廊下から近い席に座って、一人で納豆飯を掻き込む。
「どうかされたんですか?」
「……別に。スパイクさんは食べないんですか」
「いやぁ、僕はアンドリューさんの侍従で、生徒じゃないですからね。王宮の食堂で食べます」
「はぁ。なら、もう食べに行ってもいいですよ」
「あなたが教室に入ったら行きます。……それ、美味いっすか?」
スパイクさんが興味深そうに納豆飯を見る。
「僕は好きです。ププラ先生の同期なら、食べた事ないですか?」
「アイツはゲテモノ好きですからねー。っと、失礼」
「いいですよ。まあ、好き嫌いの分けれる食べ物ですから」
彼がクスッと笑った。
「?」
「アンドリューさんは、美味しそうに食べますね」
「……好きですから」
卵焼きに浅漬け、魚の干物。僕的にはアジの干物に思えるんだけど、ここ、海が遠いみたいだし、なんの魚なんかな。まあ、美味しいから、なんでもいいけど。
スパイクさんにニコニコと見守られ、食事をしてたけど、食べ終わる頃にはジンが居なくなってた。先に教室に行ったんだろうな。
このまま、気不味くなったら嫌だな。
仕方ないけどさ。
なんで、あんな事をしたかなー。
「アンドリューさん」
「はい?」
「溜息、多いっすね」
「……はぁ、まあ」
スパイクさんは、いつも細めてる目をさらに細めた。
「訓練中は気を散らさないで下さいよ? 怪我しますから」
「……頑張ります」
彼は立ち上がってお茶を持って来てくれた。
しかも、ふーふーと吹き冷ましてくれてる。
「スパイクさん?」
「アンドリューさん、猫舌なんでしょ? アイデンさんに聞きましたよ」
「あ…そう…ですか。どうも、有難うございます」
なんでだろ。
少しだけ気が楽になったな。
——お茶、美味い。
評価を有難うございます。
嬉しい(^^)
けど、書くほうが間に合ってない……。
なんとか、なんとか、一日、一話、頑張ります。




