魔王復活の兆し
僕は知らなかったんだけど、ルドルフ殿下やグラン先輩は学園の寄宿舎には入っていないんだそうだ。ソルティソ学園の規約には学徒はすべからく寮生活ってなってた気がするのに。
——まあ、二人は王族だからね。
目の前に座ってるルドルフ殿下とマルグランダ殿下を見て、僕は思わず溜息が漏れる。
金髪碧眼の王道王子、背は僕より頭一つ高くて手足も長い。ガシッとした肩幅に胸板、ハンサムってのを絵に描いたようなルドルフ王太子。
王太子よりは色の薄い金髪でクルクルの巻き毛、淡い茶色の瞳は少しだけ黄色味がかってて、不可思議な魅力を湛えた美少年。堕天使みたいなマルグランダ。
この美形兄弟を前にして、僕は居心地が悪いったらない。なんだって、マルペーザマルモの権力者達を相手にしなきゃならんのか——。
「兄さん。リューが古代語を学んでるのは知ってたでしょ? 古代魔法が発動したって変じゃない。それだけで、古き魔法使いとして王宮に囲うのはリューの尊厳を侵害してると思うけど?」
グランは僕の意思を尊重してくれてる。
はっきり言って、すごく有難い。
「グラン。お前だって古き魔法使いの希少性は知ってるはずだ。しかも、リューは聖魔法使いだからね。彼の身に危険が及ばないとも限らない」
対する王太子はなんでか僕を王宮に呼びたいらしくて、全く妥協してくれない。
「そこはソルティソ学園の威信にかけて学徒を守るべきでしょ? 違う? リューは寄宿舎で暮らしたいって言ってんだし学園に在籍してる間は規約通りにすべきだ。囲いたいっていうなら、卒業を待ちなよ」
僕は睨み合ってる兄弟を交互に見ながら、おずおずと手を挙げてみる。
「ん? どしたの、リュー?」
グランが笑って僕に首を傾げる。
ジンが居なかったら、君に陥落してたかもっていうくらい魅力的な表情だな。
「古き魔法使いというのは——何ですか?」
ルドルフ殿下が、ハッとしたような顔をして片手を自分の顔に当てた。
「あ、ああ。すまない。そうだな、君が知ってるという前提で話してしまった。王族でもないリューが知ってるわけはなかったのにな」
微笑んだ王太子の話によれば、古き魔法使いというのは古代魔法を操る魔法使いのことだそうだ。
「古代の魔法というのは、現在使われている魔法とは成り立ちが異なっている。現在の魔法は属性に寄っていて、相性の良い精霊の加護を受けているわけだが、古代には属性に関係なく精霊の加護を受ける魔法使いが存在していたんだよ」
古代魔法にはマルペーザマルモ王国の存続に関わる大きな力が動くのだそうだ。
「我が国は精霊との関わりが深い。精霊の加護無くしては現在の王国はなかったと言っていい。古代魔法が操れるということは精霊たちの加護を一心に受けるということだ。君は精霊に愛されてる」
——ええと。
それって、隠し設定的な?
ヒロインならではの能力ってことか?
「あ、でも——」
それだと、ジンも古き魔法使いって事にならないか?
だって、アイツも古代魔法が使える。
「でも?」
グランに微笑まれて、しまった、と思う。
言っていい事なのか、これ。
「リュー、隠し事はよくないよ?」
ああ、目が笑ってない。
グランの勘の鋭さは魔力なんかより怖いしな。
「……僕が古代魔法を使えてるのは、ジンに歌を教わったからです。祭り歌を教わって、それで、えっと」
「ああ、なるほどね。ジンも古代魔法を発動させたんだね?」
ルドルフ王太子がギョッとした顔でグランを見る。
「ジン・アイデンも?」
そんなに驚くような事なのか?
グランが軽く首をすくめて見せた。
「そういう顔をするかな。兄さん、よく考えてよ。ジンはアイデン家の人間だよ。古の魔法に深く関わる魔法使いの家系だよ。彼が古き魔法使いでも違和感はない。突発的ともいえるリューより納得いくけど?」
王太子がフッと息を吸い込んだ。
「同じ世代に古き魔法使いが二人もか?」
「……魔王の復活が近いならありえる」
グランが真顔で僕を見た。
「ねぇ……リュー。君は《クリスタル・ローズ》って魔法を知ってるかい?」
……ええ、まあ、知ってますけどね。




