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討伐訓練

 例えばゲーム内だと魔物だのモンスターだのと戦うのは割とライフメーター頼り。ステイタスと属性を考慮して必殺技や魔法を使ってメーターを削ってく。


 だから、魔物のライフメーターが出ないって、こんなに面倒なのかって思った。


「ベーダ! そっちのスライム追い込め!」

「気安く言いますね。追い込みますよ、殿下!」


 ベーダ先輩が魔法剣でトルネードを起こして、スライムの群れをルドルフ殿下の方へ追いやる。殿下は向かってくるスライムの群れを火炎魔法で焼き払ってる。で、スライム。けっこう厄介で、焼ききったり、潰しきったりしないと、増えてく。千切れた部分から再生してくんだよ。


「ジン、結界魔法!」

「了解」


 ジンが結界で閉じ込めたスライムを、アミュー先輩が土魔法で覆って、デミアンが水魔法で攻め殺し。なんか、エグイ連携だけどそうでもしないと増えるしな。


 で、僕ってのはあんまり役に立たない。


 聖魔法ってのは、もっぱら後方支援。疲弊してきたメンバーに回復魔法をかけるのが主な仕事。ポーション渡したり、異常状態の正常化なんかもする。


 スライムってのは、まだ分かりやすくて、数が減ってけば終わりが見えてくる。色なんかも微妙に変化してく。この訓練は学園の訓練場で行われてて、障害物も少ないから野外戦なんかよりずっと楽なはず。


 ——はず、だったんだけど。


「変異種が混ざってる!!」


 ベーダ先輩が鋭い声を出した。


 訓練場で戦ってるスライムは、訓練用に捕獲してきた奴で、学園で飼育されてるって聞いたんだけど。


 変異種。

 そいつは面倒だな。


 授業でも習ったけど、スライムの変異種には幾つかあって、硬質になるものや毒を出すもの、電撃や雹なんかを降らせるモノと多彩だ。まずは、特性を把握しないとならない。


 一人ずつ属性の違う魔法を放って——って、このスライム大きくなってく!


「ダメだ、魔法攻撃は吸収されて——ジン!」


 ジンが闇魔法を使うターンで、黒い槍を降らせたすぐ後だ、スライムの色が変化してジンに飛びかかって彼を包み込んでしまった。


「くそ! 魔法はダメだ、物理攻撃!」


 ルドルフ殿下がそう叫んだけど、ジンの体を攻撃する訳にいかない。皆んな躊躇してる。


 ジンが呼吸できずに苦しそうに膝をつく——。


「お、おい! リュー、待て!」


 それが誰の声だったか忘れた。

 僕を止めようとしたんだって事はわかってる。


 けど、ジンを見ろよ。

 あんなに苦しそうな顔してるじゃないか。


 僕は走って行って、スライムに手を突っ込んでジンの顔を引き寄せる。唇を寄せて口に息を吹き込み、同時に光魔法を放った。


 ええと、ほら、アレだ。

 溺れた人にやるヤツ。


 ああ、そう、人工呼吸。だって、ジンは自分で呼吸もままなら感じに苦しそうだったから。他の意図は全くないよ。本当だよ。スケベ心なんか湧く暇もなかったんだから——。


 光魔法は意図したものでは無かったんだ。単にジンの唇に自分の口を重ねてるところなんか、人に見られたくなかっただけ。


 僕が息を吹き込むと、ジンが苦しそうに咽せてから大きく息を吸い込んだ。


 変異種には魔法が効かないって訳じゃなかったらしい。本来なら暗闇を照らすだけの光魔法が、変異種には衝撃波のように効いてスライムが飛び散った。


 ——この魔法、効く。


 すぐにジンを離して、光魔法を広範囲に使う。スライムを残しておいちゃダメだ。復活して増えたら面倒にもほどがあるからな。


 僕を見つめるジンの瞳に、白く発光する自分が写り込んでた。


 スライムが蒸発するように消えたから、振り返ってジンを呼んだ。


「ジン! ジン! 大丈夫か、お前——」


 ——あれ?


「……俺は大丈夫だけど。お前、何をやったんだ?」


 先輩たちも、デミアンも呆気にとられた顔で僕を見てる。

 え? なんで?


「何って光魔法」

「そんなわけないだろ?」

「え? いや——だって、そう」


 ルドルフ殿下が僕の側に寄って来て、肩を抱いて僕の顔を覗き込んだ。

 ——淡いブルーの瞳に強張った僕が映り込む。


「君が使ったのは、広範囲の浄化魔法だ」

「え?」

「聖魔法使いでも、古代魔法を使う魔法使いにしか使えない」

「……え?」

「リュー。君は古き魔法使いなんだな」


 ——新しい設定が出て来た。


 古き魔法使いってなんだ?

 そんなの姉貴からも聞いたことがない。


「ええと、なんですか、それ?」

「……詳しい説明は帰ってからにしよう。ああ、君は王宮へ移ってもらう」

「は?」

「寄宿舎から王宮へ移ってもらうよ。古き魔法使いは王家に仕えることに決まってるから」

「は? あの、ちょっと、僕には意味が分かりませんが」


 ルドルフ王太子は肩を抱いてる手に力を入れた。


「うん。今は分からなくていい。訓練は終了だ。学園に戻る」

「あ…あの」

「うん?」

「離してもらえないでしょうか」


 王太子がニコッと笑った。


「残念だけど、離す訳にはいかない」


 ——え?





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