仕方ない
メイザー先生から討伐へ向けて人選が発表された。討伐へは、一年全員が参加するわけじゃないらしい。
「人選は属性と組み合わせ、魔力量と技量で選ばせてもらったけど、今回の選抜に漏れたからって悲観しないで欲しいわ。実戦というのはチーム戦だってことを考慮して頂戴ね。現存する六属性のメンバーを揃えるのを優先したってことだから」
僕の所属するチームは、王太子を筆頭にベーダ先輩。一年からは、ジンと僕、水魔法使いのデミアン、あと三年の土魔法使いだと言うアミューさんという人が組むのだそうだ。
「討伐は来週の末になるそうだから、その前に顔合わせとチームでの訓練をする事になってるわ。詳しい日程はプリントで配るからね。討伐チームに選抜されなかった子達も課外授業に出るから予定してて。さて、今日はここまで。明日、明後日は貴重な休日よ。体を休めて来週に備えてちょーだい!」
学園の授業は週に五日、休日は二日。
普段の休日には古語の勉強したり、本を読んだりしてんだけど。
「リュー、顔が赤いですね?」
授業が終わってすぐ、ミザリーが僕の額に手を当てた。
「え? あ、ミザリー?」
「やっぱり。熱があると思います」
——熱。
「お風邪を召されたのではありませんか? 保健室へ行った方が良いです」
ジンも——。
「なら、ミザリーが連れてってくれ。生徒会の人達に話しておくから、リューは部屋に戻って休めよ」
「大丈夫だよ。そこまで体はキツくないから」
「休め。自分で気づいてないかもしれないけど、声も変だからな。人に移す気か?」
「………」
人に移すなとか言われてしまえば、大人しくしとくしかない。
ミザリーに連れられて、学園の保健室へ向かう時に聞いてみる。
「ミザリー。風邪くらい聖魔法で治んないかな」
「治せなくはないと思いますが、しない方が賢明です」
「そうなの?」
彼女は灰色の目で諭すように僕を見た。
「魔法を万能薬のように考えてはいけません。身体には身体の抵抗力や免疫機能が存在します。なんでもかんでも魔法に頼っていますと、身体の機能が低下してしまいます。どんな機能でも使わなければ衰えてしまうのですよ?」
あー。
免疫機能ね。
「ですので、保健室で薬をもらったら大人しく眠って下さい。宜しいですね? ご自分で魔法をかけて治してしまおうとかなさいませんように! ああ、そうだわ」
ポケットを探ったミザリーは飴を出した。
「差し上げますから、喉が痛いようでしたら舐めて下さい」
「え? いいの?」
「はい。ブルーベリー味なんですよ。美味しいですから」
彼女が笑ってくれたから、僕は少しホッとした。風邪なんか引いてる場合じゃないのに、迷惑だなって思われたら哀しいなって思ってたから。
「ありがとう。なんか、忙しくなりそうな時にこんなでゴメンね」
「何を仰います。本当に忙しくなるのは、来週からですしね。リューは討伐訓練のタイミングを計って体調を崩したんじゃないですか?」
「はは。まさかー」
少し上目遣いのミザリーは目を開いて覗くように僕の目を見る。
本当に?
そう聞かれてるようで、擽ったい。
「狙って体調を崩すとか、そんなに器用じゃないよ」
「なら良いのですけど。リューは気を使う方なので、無意識に周りの予定とか考えてそうです」
「買い被りすぎ」
「そうでしょうか? それなら、まあ良いのですけど。入学してから気を張っていたのかもしれませんしね。王都はリューの故郷からすると南ですし、気候も違うでしょうから」
——ああ。
そうだったな。
僕はアンドリュー・クライドなんだっけな。
こんな風に優しくされても、彼女の目に映ってるのは僕じゃない。
「ミザリーは優しいね」
彼女は不安そうな目をして僕を見た。
「リュー?」
「ん?」
「私は何か悪いことを言いましたか?」
「え? 言ってないでしょ?」
「そうですか? なんだか、寂しそうに見えましたが……」
変なとこで勘が良いんだね、ミザリー。