パーティー分け
僕らが生徒会室で話ていると、ルドルフ王太子が入って来た。なんだか、少し強張った笑みを浮かべている。この人がこういう顔してるのは珍しいな。なんたって、絵に描いたような王子だ。穏やかなのに威圧的という、器用な表情をしてることが多いのに。
「やぁ。楽しそうだね」
グラン先輩が兄である王太子を見て微笑した。同じ王子でも、グラン先輩はルドルフ殿下より親しみやすい雰囲気を持ってる。長子と次男の差なのかもしれないけど、王太子より小柄で中性的な顔立ちのせいかもしれないな。いつも微笑んでるし。
ただ、僕としてはグラン先輩も少し怖いけどね——なんていうのか、微笑みの種類がここまで多い人って見た事ない。今だって、微笑んでるけど目の奥が笑ってない。
「そうでも無いけど? で、なんで引きつってるのかな。悪い知らせ?」
ルドルフ殿下がグラン先輩を見て眉を下げた。
「引きつって見えるか? まったく………お前には敵わないな。まあ、悪い話かどうかは取り様だけどね」
「前置きしたって時間の無駄だよ。なに?」
スパスパ言う弟を少し苦い顔で見た王太子は、諦めたように言った。
「今年の剣術大会は中止になった」
アル先輩が片眉を上げて、不服そうにルドルフ王太子を睨む。
「どういう事だよ。俺たちは、剣術大会に向けて訓練してんだぜ? 急に中止ってさー」
「すまないな。ただ、大会をしてる場合じゃなくなったんだ」
「んだよ。戦でも起こるのか?」
王太子は、整った顔に苦笑を滲ませて僕らを見る。
淡いブルーの瞳に軽い緊張が滲んで見えた。
「戦じゃない。討伐だ」
「討伐? 魔物か?」
「そう」
ジンが王太子を見上げて、不思議そうな顔をする。
「実戦ってことですよね? 俺たち一年もですか?」
「ああ」
生徒会長の椅子に座った王太子は、長い足を組んで溜息をつく。美形ってのは、何しても絵になって羨ましいよな。
「もちろん、遠征にはマルペーザの正規軍が向かう。魔法騎士も魔法機動部隊もいくつかの班に別れて討伐に出ることになってる。僕ら学生は手伝いのようなものだけど、実戦は実戦だ」
アル先輩が面白そうに腕を組んだ。
「へぇ……討伐か。久しぶりだな」
「嬉しそうにするなよ、アル」
「日頃の訓練は、こういう時の為だ。自分の成果を見られるんだ、少しは浮かれてもいいだろ?」
「不謹慎じゃないか。魔物が増えたせいで、困っていたり、怯えたりしている国民を思え」
窘められたアル先輩が軽く首を竦める。いつも実践を念頭において訓練してるのを知ってるから、アル先輩の気持ちも分かるけど、殿下の言いたいことも分かるよ。
僕はまだ魔物を見たことがないけど、身近に獣が出没するようなものだと思う。怖いだろうなって思うよ。よく、ニュースでも猪が出たとか、熊が出たとかやってたし。
ルドルフ殿下は、苦笑を浮かべながら続けた。
「僕たち学生は、村々の近くに出現した魔物を任されることになった。型としては小型だし、能力値もそこまで高いものは居ないはずだ。だが——実戦には変わりない。気を引き締めて任務に当たって欲しい」
村の近くに出てるって、けっこう面倒な事態になってる気がする。
遠征にも出るって行ってたよな。
そんなに魔物の数が増えてるってことか?
僕の疑問に答えるみたいに、困ったような笑いを浮かべてグラン先輩が言う。
「最近になって、魔物に村が襲われた案件がいくつかあるって聞いてたけど、随分と深刻な状態になってるんだね」
王太子は溜息をついて頷いた。
「この数週間で出現率が跳ね上がってる。魔法機動隊が調査に向かってるが、原因が掴めてない」
——原因。
僕は思わずジンへ視線を送っていた。
ゲームの進行状況が分からないけど、これの原因ってやっぱり魔王か?
ジンは僕の視線に気づいたけど、何も言わずに王太子に聞く。
「いきなり実戦ですか」
「そうだね。一年のメンバーには無理をさせてしまうが、上級生とチームを組むようにする。できる限りのフォローはするつもりだ。生徒会メンバーは二班に分けるつもりだ。僕と、ベーダ。それにジンとリューの班。ププラとアル、グランとミザリアの班に別れて他の生徒を交えたチームを作る」
軽い笑いを浮かべたグラン先輩は、まるで揶揄うような調子で聞いた。
「なんで、そういう組み分けになったの?」
「僕が使うのは火炎魔法だ。ベーダの風魔法と相性がいい。アルの土魔法は強力だがコントロールが難しい。実戦経験の多いププラ魔法使いについてもらえれば安心だろ? 一年生は、授業で組んでる相手と一緒の方がいいと思ったんだが?」
殿下の答えに、グラン先輩が含んだ笑みで兄を見る。
「違うよ。僕が聞いてるのは、なんでジンとリューのペアが兄さん達と組むのかってこと。正直に言うとね、僕やアルには実戦経験があるんだし、特急魔法使いのププラと組む必要はなくない? 実戦が初体験の二人こそ、ププラのチームに入れるべきじゃないの?」




