生徒会のお仕事
その日の授業を終えて、生徒会室に顔を出した僕らは、毎年夏に行われる剣技大会の予算を計算させられてる所だった。
マルグランダ・スヴェルガ。ビスクドールのように美人の第二王子は、軽く微笑みながらジンを見てる。
「ジン。言いたくないけど、その計算は間違ってるね」
「え? そうですか? どこでしょう……」
「まず、去年とは参加人数が違う。比べてみて? そうすると、用意しなきゃならない飲料水の数も違ってくるし、動員しなきゃいけない手伝いの数も足りなくなる」
ジンが去年のと今年のと企画書を確認しながら、あっと声を上げる。
「すみません」
「いや、気づいてくれればいいんだ。リュー、君も企画書を一緒に作ってるんだから、確認で気づかなきゃダメなんだよ?」
——うーん。
結構な無茶を言うよな。
企画書制作の時、去年の資料を渡してくれなかったじゃん。
「……すみません」
それでも、一応は謝ると、面白そうに笑った。
「くくっ、なに、その不満そうな顔」
「いえ…だって、去年の企画書を見たのは初めてなのに」
ジンが苦笑を浮かべた。
「リュー。たとえ、渡されたのが今日でも、確認のために渡してもらったんだから、比べて見るべきだったろ」
「そうだけどさ」
グラン先輩は嬉しそうな顔でジンを見た。
「うん。ジンは良いね。次の会計はジンに任せようか」
「嫌です」
「即答すんだね」
「俺は計算が好きじゃありません。ミザリーを推薦します」
当のミザリーは、貴族子女特有の責務であるところの——お茶会なるものに参加してる。本当は参加したくなかったらしく、ブツブツと文句を言ってたけどね。
「ジン。ミザリーは王太子妃候補だからね。立場的に次の生徒会長だよ」
「ならリューで良いんじゃないですか? 計算速いし」
グラン先輩が僕をチラッと見て、小さく首を竦める。
「リューでも良いけど、彼は生徒会長を補佐する副会長に向いてると思うけど」
「勘弁して下さい。僕は書記になります。ミザリーも僕も準役員なんですから」
「えー。そんなの、撤回すればいいでしょ?」
「嫌です」
生徒会室に入って来たアル先輩が、僕たちの所へ来て笑う。相変わらず、色香の漂う二枚目だなぁ。
「なに揉めてんだよ?」
「いや、次の会計にジンを推薦したら嫌がっててさ」
「あー。グランはジンが気に入ってるもんな」
——え。
そうなの?
その言葉に、少しだけモヤッとしたものを感じる。
グラン先輩がジンを見て綺麗な顔に微笑を浮かべた。その表情が余計にモヤつく。
「努力できる人間が好きなんだよ。リューもミザリーも気に入ってるさ」
「ふぅん。まあ、お前の評価は当てにできるからな。けど、俺としてはジンを会計にはしたくない。コイツの剣は真っ直ぐで強い。魔法騎士の方にスカウトしたいからな、あんまり生徒会で忙しい立場にしないでくれよ」
ジンが驚いた顔でアル先輩を見る。
「俺を——ですか?」
「ああ」
「リューではなく?」
「お前も知っての通り、リューは聖魔法使いだからな。魔法騎士には向かないだろ」
「あ、ああ。そうですけど——」
ジンが言葉を濁してるのは、僕が古代魔法を少しだけ使えるようになってるからだ。少しなら、攻撃魔法も使えるからね。でも、それは人に言わないでくれって約束してるし、実際、ジンだって古代魔法を使えるようになってきてる。
けど——それは、二人の秘密だ。
グラン先輩は、ニコニコっと笑う。
「ジンなら多少忙しくても、こなせるよ。僕だって魔法機動部隊に参加してるけど、会計をさせられてるんだし」
「お前なー。自分と他の人間が同じだと思うなよ? 二年の連中に、お前がなんて呼ばれてるか知ってるか?」
「マターだろ。知ってる」
「そう。オートマター。お前は一体じゃなく、三体くらい体を持ってるって噂だぞ?」
グラン先輩が上目遣いにアル先輩を見る。
「人を非人間扱いすんの止めてよ。まあ、その僕が断言する。ジンなら、こなせるよ」
——ジンが、その能力を高く評価されるのは嬉しい。
嬉しいけど、ジンが忙しくしなきゃいけないのは嫌だな。
当のジンは、溜息混じりに企画書の計算をしなおしてる。
こういう所が評価されるんだって分かるけどね。
忙しくしすぎて、疲れないといいなって思う。
ブックマも評価も、有難う(^^)
すごく嬉しいですー。二回上げしちゃう。




