世話焼き
気温も高くなって来て、眠ってると汗を掻く季節になってきた。軍服仕様の制服も上着を着ないことが増えて、シャツにズボンで過ごしてる。
こっちに飛ばされ、アンドリュー・クライドの中に入ってから三ヶ月くらいは経ったんだよな。
僕の欲求不満は限界に近かったと思う。
もう、ほんと——菓子が食いたい。
チョコとかチョコとかポテチとか。
そのせいだと思う。
僕は大量の菓子に囲まれ、食べても食べても減らないという素敵な夢を見てた。
——ああ、コーラも飲みたい。
というか、夢なのに味がするなんて、嬉しいけど残酷だ。
……マジ。
チョコ。
「……好きだ」
目を開くと、今朝もジンは鼻が接触しそうな距離で僕を見てたんだけど、物凄くビックリした顔で目を見開いて固まってた。思わず起き上がろうとして額と額をぶつけてしまった。
「痛って!」
「…………俺の方が痛い」
ジンは片手で額を押さえて僕を睨む。
「……ごめん。えっと、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
——え?
なんか、怒ってる?
ジンはギュッっと眉根を寄せ、僕から視線を逸らして投げ捨てるように言った。
「お前は、何だってそんなに起きないんだよ。毎朝、起こさなきゃいけない俺の身になれ」
——頼んではいない。
いないけど、言わないでおこう。
助かってるのは事実だし。
なんか、怒ってるし。
「……ごめん。朝、弱くて」
大きく息を吸ったジンは、口元を抑えて息を吐いた。
「……………お前、寝ぼけんのも大概にしとけよな」
なんだろうな。
ジンはもう一度、僕を睨みつけてた。
「起きたなら着替えろ。アル先輩が中庭で待ってんだから」
「……あ、うん」
そうだ。
朝稽古に行かなきゃな。
起き上がれば、少しは頭が回ってくる。けど、どうにも朝は苦手で、起きてすぐには体が動かない。ベッドに座ったまま俯いてボーッとしてたらジンに名前を呼ばれた。
「おい、リュー。寝るなよ」
ジンは朝が強いみたいだから、起き上がってすぐに動き出せるんだよな。きっと、僕がどれだけ朦朧としてるかとか、分かんないかもな。
「大丈夫……起きてるよ」
ベッドの上で夜着を脱いでシャツを探してたら、ジンが頭の上から僕のシャツを被せた。
「ちゃんと用意してから寝ろ。いつも探すんだから」
「……どーも」
なんとか着替え終わると、ジンがコップを差し出してくれる。
「水飲めよ。目が醒める」
——コイツって世話焼きっていうか、面倒見が良いっていうか。
「サンキュ」
コップを受け取ろうとして、そのままジンの手を掴んでしまったんだが、急に手を引っ込められて、カップが床に落っこちた。水が溢れて、僕の足を濡らす。
ああ、やってしまった。
「ごめん。ちゃんと掴めなくて——」
床からコップを拾って顔をあげたら、何でかジンが呆然とした顔で僕を見てた。
「ジン?」
「……あ、いや、うん。コップ」
言われるままに差し出すと、水差しから新しい水を汲んでくれて、ベッドサイドにある机の上に置いてくれた。しかも雑巾持ってきて濡れた床を拭いてくれる。
「手間数増やしちゃったな」
「いい。それより水を飲んどけ。暑くなってきたし、体を動かす前に飲んどいた方がいい」
「……うん」
ああ、なんか。
僕ってダメだな。
ジンを見てると、本当にそう思う。
自立してるっていうか、キチンとしてるっていうか。
「ジンってシッカリしてるよなー」
「はぁ?」
「同い年とは思えない」
「……人を老けてるみたいに言うなよ」
立ち上がった彼は、小さく息をついてから笑った。
「雑巾を洗ってくる。水飲んだら、中庭行くぞ。顔洗えよ」
「あ、うん」
なんか、本当に……世話されてるよなぁ。
これ、逆なんじゃないかな。
ジンに好いて欲しいんだから、世話すんの僕なんじゃないのかな。
けど……無理だな。
僕は朝は使い物にならない。