発動
僕の足を掴んでるジンを見下ろすと、風に巻かれた髪の間につむじが見えた。
——え?
つむじって……。
「うわっ!」
不思議に思った途端、巻き上げられるように浮上して天井に激突した。僕の足を掴んでるジンも、一緒に空中で揺れてる。
「う、浮いて…」
怖いと思ったら、浮遊感がプツッと途切れて落下した。床に落ちてく僕を抱き抱えたジンは、背中から床に叩きつけられた。
「ジ、ジン!」
慌ててジンの上から退けたけど、彼は顔を歪ませ、横に転がって痛みを堪えてる。
——僕のせいだ。
僕を庇ったから、ジンは二人分の衝撃を受けた。
「ご、ごめん。ジン」
「だ……い…じょうぶだ」
起き上がろうとするジンに手を貸すと、身体が細かく震えてるのが伝わってきた。
「大丈夫に見えない。なんで、僕を庇ったりするんだよ。一人なら落ちたって、ここまで強い衝撃は受けなかったろ」
ジンが、僕に背中を支えられながら眉を顰める。
「……反射だ……。お前のせいじゃない」
「反射って——僕の下敷きになって、ジンってバカ?」
「怪我してない。大丈夫だって。だから……泣くなよ」
ジンが、すごく困った顔で僕を見た。
「な? え…?」
自分の顔に手をやると、本当に涙が溢れててビックリした。
……なんだ、コレ。
「ビ……ビックリ…したんだよ」
ジンがハーッと息を吐いて、手を伸ばして僕の頭を撫でた。剣ダコのできた硬い手が、頭をワシャワシャと掻き混ぜる。
「落ち着け。大丈夫だって言ってるだろ」
「けど……」
天井を見上げたジンが、感心したような声で言う。
「まあ、俺もビックリしたけどな。まさか、本当に魔法が発動すると思ってなかった」
「……魔法?」
「魔法だろ。風魔法だ。お前が唱えた呪文で、風が起こって……」
ジンは面白そうに笑うと天井を指差す。
「巻き上げられた」
思わず僕も天井を——。
「!! なんだ、この部屋」
本や紙類が散らばり、布団も、ハンガーや衣類も、床に散乱してる。
「くっ、くく、ははははははは」
ジンが僕の顔を見て笑い出し、腹を抱えて転がった。
「くくっ、って、痛って、痛い。ははは」
「ジ、ジン?」
「お前の顔、この世の終わりみたいだな。はは、痛って」
「……痛いなら笑うなよ。なん、なの?」
「だって、お前、自分が起こした魔法だぜ?」
——そんなこと言われたって。
「は、初めて使った魔法なんだよ!」
「ええ? 授業でも使ったろ?」
「そういうんじゃなくて——」
なんて言えばいいんだ?
力を溜めるとか、どこかへ集中するとか、そういうんじゃなくて。僕は改めて部屋を見回す。
これを——僕が?
ジンはその場に胡座をかいて、優しい目で僕を見る。
「ああ……。現象が起こったの、初めてってことか。それなら、俺にも分かる。ちょっと感動するよな」
「……現象。う…ん。そう。たぶん、そういう事だ」
ニコッと綺麗に笑って。
「やるな、リュー」
ジンはそう言って、僕の腕をポンっと叩いた。何かが、ストンって腑に落ちて、ああ、これは僕がやったんだなって思えた。
思えたのは良いんだが——。
「ごめん、ジン。背中、本当に大丈夫か?」
「ん? ああ。このくらい何ともないよ。まあ…片付けが大変だけどな」
「マジ、ごめん。ジンの物……何も壊れてないと良いけど」
「平気だろ。俺は壊れ物なんか持ってないから。……あ」
「え?」
「ランプはダメだなー。寮長に言って、予備を借りて来ないと」
散乱した荷物の中に、壊れたガラスが見えた。思わず顔を覆って俯く。ああ、なんて説明すれば寮長に怒られないで済むんだろ。
「あー。本当に、ごめん」
「いいって、謝るなよ」
「けど」
「やってみろって言ったの俺だしな」
ジンは笑いながら立ち上がって、部屋を見回し、またウケてた。
ブックマ有難う御座います(^^)嬉しい!




