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好敵手

 僕がアルゲント先輩とベーダ先輩に挟まれて困惑してると、後ろから声が聞こえた。


「何してるんだ?」


 聞き覚えのある、呆れたような声だ。


「ルドルフ殿下」


 アルゲント先輩とベーダ先輩が同じタイミングで僕の肩から手を離す。


「古語の辞書をあげたんです。歴史を勉強したいっていう頼もしい後輩なので」

「俺は剣技の訓練の予定を話してた。コイツは見所のある後輩だからな」


 二人が僕の頭の上で視線を交わらせる。

 ほんと、何なんだ?


「彼がアルの言ってた後輩だってのは驚きだけどね」

「俺も驚いたぜ? リューが古代史を勉強したいとはな」


 ルドルフ殿下が疲れた声を出した。


「クライドくん。用事が終わったなら、僕が外へ送ろう」


 ……なんだか、よく分からんが助かる。


「明日の朝も待ってるぞ、リュー!」

「疑問があったら、いつでもおいで、リュー」


 二人に頭を下げて、殿下に連れられ歩き出す。

 なんか、良いタイミングで来てくれて良かったな。


「助かりました。ルドルフ殿下」

「ああ。あの二人は仲がいいくせに、すぐ張り合うからな」

「ははは」


 張り合ってたのか。

 なるほど。


「気持ちは少し分かるけどね」

「好敵手ってヤツですね」

「いや、そっちじゃない」

「え?」

「君を取り合ってしまう方だ」


 ——いや。


 その目つきは止めて欲しいな。

 ちょっと、首筋がゾクッとする。


「不思議な子だな」


 いや、いやいや。

 子いうほど年離れてないだろ。


 王太子はフッと表情を和らげたと思ったら、僕の頭をポンポンと叩いた。


「君が生徒会を辞退したのは残念だけど、特例で参加してくれて良かった。立場は違っても役員には違いない。いつでも、好きな時に生徒会室においで」


 それから、不思議な目で見る。


 何を伝えようとしてんのか、今ひとつ分からない目だよな。嫌な感情ではないみたいだが、わかりやすい感情でもない。


 ああ——色かな。

 目の色が少し変化して見えるんだな。


 ジッと目の色を見てたからか、ルドルフ殿下が僕から目を逸らす。口元に手をやって、困ったように何度か瞬きを繰り返した。


 すみません、見過ぎましたね。


「……君は、古代史を勉強したかったんだな」

「あ、はい。国の歴史に興味があるもので」

「ありがとう」

「え?」


 ルドルフ殿下は改めて僕を見ると、ジンより少し淡い青い瞳を細めた。


「国のことに関心を持ってくれてて嬉しいんだ」

「……一応、国民ですし」


 彼は小さく微笑んで、僕を覗き込むように首を前に出した。背が高いってのは羨ましいな、男の顔を見るのにも少し前かがみになるもんな。


 僕が女子なら、これで胸がキュンとするんだろうか。


「国のことにまで関心を持つ人間は少ないよ。他人事に考えてる人間の方が多い。この国を作ってるのは、ここに住む一人一人なんだけどね。だから——嬉しいんだよ。君はマルペーザマルモは能力主義だって言ってくれた。それを理解してくれる人間は少ない」


 ……ええと。


「良い国というのは、個人の力で作れるようなものじゃない。君みたいに、ちゃんと国のことに関心を持ってくれてる若者がいると、僕もすごく心強い。君みたいな子に一緒に国を動かしていって欲しいよ」


 ——僕を若者って、殿下の歳は幾つだっての。


 なんか、新入生代表の時も思ったけどさ。

 王太子って立場のせいか、ヤケに年上目線なんだよな。


 まあ、この人の立場だと、そうなるのか?


 足元をすくわれないように、頑張ってんのかもしれないな。


 気苦労の多そうな人だ——。


「聞きたいことがあったら、僕にも遠慮なく聞いて欲しい。君は僕にとっても大事な後輩だ。いつでも、おいで、リュー」

「………ありがとうございます。あの、それじゃ、また」


 ——あれ?


 何気にルドルフ殿下まで、僕を愛称で呼んだな。

 まあ……いいけど。


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