ベーダ・レオントード
——と。
先輩は、僕の片腕をガシッと捕まえて、感極まった表情でまくし立てた。
「君もそう思うかい? そうなんだ。何事にも始まりがあり、理由があり、意義がある。事の起こりを知らなければ、その後の流れが正しく理解できるわけはない。それには、国の創生を知ることが重要で、魔法の成り立ちや、他国との関わり、妖精たちとの交流の歴史を知っておくことは、とても有意義なことだと僕は思うんだ」
なんか、スイッチ入れちゃったらしい。
少し困って眉を下げたら、イケメンはハッとした顔で腕を離した。
「あ…すまない。つい」
「いいえ。先輩の意見には賛同します。頑張って古語を習得したいです」
彼は嬉しそうに笑って、少し頬を染めた。
なんか照れてるらしい。
「歴史は面白いものだよ。先人の知恵には感服させられるしね。君も歴史の面白さに気づいてくれるといいな」
この人、そういうのが本当に好きなのかもな。
「ああ、自己紹介もしてなかったね。僕はベーダ。ベーダ・レオントードっていうんだ」
——ベーダ。彼が六人目の攻略対象か。
なるほどな。
確か、彼は準生徒会役員の二年生だよな。
「ええと。生徒会書記の方ですよね」
「なんで知ってるんだい?」
「いや、実は僕も生徒会に誘われまして——」
生徒会室での出来事を話すと、彼は非常に親近感を持ってくれたらしい。
「君とは気が合うな。生徒会を辞退した理由まで同じだ」
「先輩が特例を作ってくれたお陰で、話がスムーズで助かりました」
「役に立ったなら嬉しいな。ゴネた甲斐があったよ。ああ、それで、君の名前は?」
「アンドリュー・クライドです」
「アンドリューくんか。準役員とはいえ、顔を合わせることも多いだろうから、よろしく頼むよ」
「こちらこそ」
二年の寄宿舎ってのは、僕たちが使ってる一年の寄宿舎の隣だった。作りもほぼ一緒で、平家の長い建物だ。
「ここが僕の使ってる部屋なんだ。少し待っててくれるかい?」
「はい」
すぐには聞き難いけど、もしかしたらベーダ先輩は《クリスタル・ローズ》について知識があるかもしれない。もう少し距離が縮まったら聞いてみようか……。
そんなことを考えてたら。
「リュー。お前、ここで何してんだ?」
「アルゲント先輩」
「アルで良いって言ったろ? 俺に用事でもあるのか?」
「え?」
「なんで驚く。そこは俺が使ってる部屋だぜ?」
その部屋から出て来たベーダ先輩が、アルゲント先輩を見て首を傾げる。
「アル。剣技の訓練は終わったのか?」
「今日は生徒会で休みだったんだよ。お前こそ、研究はいいのか?」
ベーダ先輩が僕を見て微笑んだ。
「本を借りに行ったら、可愛い後輩に会ってね。はい、アンドリューくん。お古で悪いけど」
「いえ、本当にありがとうございます」
——と、アルゲント先輩が僕の肩に手を乗せて引いた。少し不機嫌そうに片眉を上げてる。
「リュー。図書館へ行ってたのか?」
「え? あ、はい」
「リューは勉強熱心なんだな」
「いえ」
「ところで、リュー。明日の朝のことだけどな?」
なんだ?
「剣を二本持ってみないか?」
「い、いや、それは、まだ無理なんじゃないかな」
「無理ってこたない。お前なら出来る」
なんだ、急に——と、思ってたら、ベーダさんが反対の肩に手を乗せた。
「君の愛称はリューっていうんだね。僕もそう呼んでいいかい?」
「え? もちろんです」
片眼鏡を長い指でクッと上げたベーダ先輩は、僕に微笑んで首を傾ぐ。
「リュー。古語を読み解く時、取っ掛かりが難しいかもしれない。分からないことがあったら、いつでも聞きにおいで。僕はたいがい図書館か部屋にいるから」
「やった! すごく助かります」
アルゲント先輩の手に力が入って、体が引き寄せられる。
「そう来るのか、レオン」
と、ベーダさんがその体を引き戻す。
「そう、とは?」
僕を挟んで睨み合ってる。
——本当に、なんなんだ?




