アルゲルト・パイソン2
——せめて一太刀、相手の体に当てられればいい。
僕が剣を横へ出そうとアルゲルト先輩を見た時、彼とハッキリ目が合った。その瞳に浮かんでたのは、愉悦の色だ。なんか、楽しんでるらしい。
——カキッン!
気づけば剣を弾き飛ばされてた。
やっぱ無理あったか。
アルゲルト先輩が、僕を見てニッと笑った。
彫りの深い焼けた肌、銀の瞳に掛かる銀の髪、口元に浮かぶ白い歯。少し顎を引いた先輩はゾクッとするくらい魅惑的に見えた。
低めの太い声が、笑いを含んで言う。
「トリッキーな剣術を使うんだな」
「あ、いえ。正攻法では……相手にならないと思って」
「実践向きの剣術だ」
「まさか。実践は経験がないです」
飛ばされた剣を拾ってきたジンも、面白そうに僕を見た。
「お前、剣技は得意じゃないって、よく言うよな。結局はアルゲルト先輩に剣を抜かせたじゃないか」
「……いや、稽古だし、抜くだろ?」
「俺が剣を抜いてもらえたのは、今朝になってからだ。昨日のアルゲルト先輩は自分の剣に指一本、触ってなかったよ」
——え?
アルゲント先輩を見ると、なぜか優しい目で俺を見て笑う。
「剣を抜かなくて済むなら、抜かない主義なんだ。動きだけでも訓練になるからな」
「………すみません」
「なんで謝る? 面白かったぜ。お前らは俺をアルって呼べ」
ジンが少し目を見開いた。
「お前ら、明日もこの時間に来いよ。朝稽古してやるから」
自分の剣を鞘に収めた、アルゲント先輩は僕達を真っ直ぐに見て言った。
「必ず来いよ」
「え、あ、はい」
そのまま立ち去るアルゲント先輩の背中を見ながら、ジンが……。
「あの人は、気に入った奴にしかアルって呼ばせないらしい。見込まない奴には稽古もつけないって聞いてる。気に入られたな、裕翔」
「え? なに言ってんの? 先に気に入られたのジンだろ。僕なんか、たまたま……」
ジンが僕の言葉を切った。
「違う。剣に、たまたまなんか無い。どんな一太刀も、そいつの努力の結果だ」
——ええと。
今まで見せたことない表情をしてるな。
僕はコイツの対等な友人って感じに成れてるのかな?
まあ、僕の手柄っていうよりは、アンドリューが真面目に稽古してたって事だけど。
「……そうなのかな」
「そうだよ」
ジンは掴んでた剣を鞘に収めると、また、あの綺麗な笑顔で笑った。
「裕翔。今度は俺とも手合わせしてくれないか」
「いいけど……手加減しろよ?」
「それは無理だな」
「なんでだよー」
「稽古にならないだろ」
僕たちは並んで歩きだし、そのまま普通に朝食を食べに食堂へ行った。
起き抜けに食べた御飯なんか、とっくに消化したらしい。
朝から体を動かしてたからなぁ。
同じ話なので、連続であげます。