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二人の秘密

 属性検査の後の顔合わせを終えて部屋へ戻り、寄宿舎に戻ってベッドに腰掛けたら、なんだか脱力してしまった。


 適性検査で、こういった結果が出ると思ってなかったな。

 これから、僕は聖魔法の訓練が始まるのか……。


 ジンは上着を脱いでベッドに腰掛けると、なんだか意味深な目で僕を見た。


 ——なんだよ。


「……不在だったヒロインってお前の事なんだな」

「え? いや、僕は……マルグランダ殿下だと思うけど?」


 ——溜息つくかな。


「お前の話だと、ゲームは入学の春に始まるんだろ? マルグランダ殿下は二年だけど?」

「………」

「俺に新入生代表の挨拶は、庶民出の女の子じゃないのかって聞いたよな?」

「……」

「それってヒロインが新入生代表の挨拶するって事だったんじゃないのか?」

「…」


 そうだけどさ。


「裕翔、お前は攻略対象と恋を——」

「しない! 絶対にない! 男と恋仲はない!」

「……けど、それだと古代魔法が使えないんじゃないのか?」

「なんか、方法はあるだろ。調べるよ。僕がここに居るだけでイレギュラーなんだし」


 絶対に見つける。

 男と恋仲なんか、ありえない。

 たとえ、そういう仕様のゲームだったとしてもだ。


 ジンがフゥッと息を吐いた。


「裕翔」

「なんだよ」


 おもむろに立ち上がったジンが僕の前に立って、圧の強い目で見下ろす。


 ——止めて欲しい。

 心臓に悪い。


「他に方法が無かったらどうする気だ」

「……そ、それは。どうにかするさ」

「俺は——魔王が復活するなら、絶対に倒さなきゃならない。お前を攻略対象と恋仲にすれば魔王が倒せるっていうなら、それを全力で勧めるからな」


 全力で勧めるって、どういうことだよ。


「そんなこと言ったって、男に恋愛感情なんか持てないし。それに、変だろ。それとも、マルペーザマルモは同性のカップルが当然だとでもいうの?」

「……いや。当然ではないっていうか、珍しいだろうな。居ないわけじゃないけど」

「で、それをお推し進めるって? ハードル高すぎ。他の方法を考えろよ」


 ジンがクスッと笑った。

 なぜ笑う。


「すげー引きつってるな」

「……引きつってない」

「引きつってる」

「当然だろ。お前、僕に身売りしろって言ってるようなもんだぞ」


 何で僕がヒロインなんだっての。


「けど……世界の滅亡が掛かってる」


 ………重いなぁ。


「んなこと言われたって……そういう感情なんか、そんな簡単に芽生えない」

「そうなのか?」

「そうでしょ? 君は、恋人とか、そういうのいるの?」

「いないけど」

「いたことあるわけ?」

「……ない」


 少し戸惑ったようなジンを軽く睨む。


「なんだ、要するにジンも分からないってことじゃないか。それで、よく僕を攻略対象と恋仲にするとか言えるね」

「必要ならそうするってだけだ」

「言っとくけど、君も攻略対象だからね」

「え? いや、俺は………外せ」

「それって狡くない?」

「………」

「どうしてもって言うなら、ジンが僕を口説け」

「いや………それは……」

「なら黙ってろ」


 僕も上着を脱いで椅子にかけ、少し暮れてきた窓の外に目をやる。学園の周りに植えられた木々の影が濃くなってて、ザワッと風に揺らいだ。


「とにかく……僕は古語を勉強する。僕だって、この世界が滅亡したら困るんだし。なんとかして、違う形で魔術の習得方法を見つけるから心配しなくていい。それに、魔王が復活するって決まったわけじゃないだろ」


 ジンが軽く首を竦める。


「…………そうだな。できることを先にやるべきだな」

「うん。ああ、そうだ。ジン。裕翔って呼ぶのは二人の時だけにして欲しいな。一応、僕はアンドリュー・クライドなんだし」

「分かってるよ。ゲームの話を他の人間にする気はないんだろ?」

「ない。君みたいに、皆んなが信じてくれるわけじゃないと思うし」


 フッと柔らかく笑ったジンは、なんだか擽ったくなるような声で言った。


「分かった。二人だけの秘密だな」


 また心拍数が上がってくる。

 本当に勘弁して欲しい。


 

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