ププラ・ファントモ
メーザちゃんの光を追って廊下を歩きながら、ジンが苦笑まじりに言う。
「……まさか、別の教師に教わるとは思わなかったな」
「でも、お二方が御一緒で良かったです。自分が闇属性とは思いませんでしたが、リューやジンが同じクラスなら頑張れそうですわ」
僕たちを見たミザリーが、嬉しそうに微笑んでくれた。
——彼女が一緒で良かったな。
ストーリー展開にどう関わってのか分かんないけど、攻略対象ではないってだけで彼女といるのは気が楽だ。ジンに対する感情には流石に慣れてきたけど、やっぱり緊張するし。肩の力抜ける相手って、今だとミザリーちゃんくらいだ。
まあ、ジンに対して感じてる気持ちは、恋ってわけじゃないんだけど。何しろ、ひたすらドキドキするだけだからな。アイツが他の誰かと話してても何も感じないし、触りたいとか、もっと近くに寄りたいとか、ない。
——やっぱり、ゲーム的な仕様なんだろうな。面倒臭い。
メーザちゃんの光に案内された教室に入ると——あの人が立ってた。
「やあ、いらっしゃい。へぇ、今期は人数が多いね。去年はグランだけだったのにね?」
耳につく低い声。
満開の藤の中に立ってた男性だ。
紫の長い髪に赤い目で、ヤバイくらいのイケメン。
ただ、今日は着流しではなく、魔法使いが着るようなローブを着てる。彼の後ろに第二王子のマルグランダが座ってた。
彼らが並んでるとキラキラし過ぎないか?
——目が潰れそうだな。
「僕は特別教室の担当教師、ププラ・ファントモ。今日から君たちに属性魔法を教授する」
この人がププラか。
思わずジンを横目で見る。
ジンも興味深そうにププラを見てる。
その、ププラはといえば——。
「……君が来るとは思わなかったよ」
大人の色香で僕に微笑んだ。
「二人って知り合いなの?」
グラン殿下が不思議そうに僕とププラを見た。
「ふふ。彼はね、僕の秘密の花園に迷い込んで来たんだよ。可愛い迷子だよね」
「……可愛くはないけど」
思わず呟くと、耳ざとく聞いてたらしい、ププラが——。
「謙遜しなくていい。君は可愛いよ。ね、グラン?」
なんでか、グラン殿下に微笑んだ。
「そうだなぁー。面白いとは思うけどね」
前にも言ってたな。
何が面白いって言うんだろ。
「僕は会った時から、リューくんが聖属性なの分かったから。僕と同じだなって」
「グラン殿下も聖属性なんですか?」
「そうだよ。でも……」
グラン殿下は天使みたいな顔に不思議な笑みを浮かべる。
「君の方が魔力が強そうだね」
「……そういうの、分かるんですか?」
「まあ、訓練してるとね」
——まて。
彼も聖属性っていうことは、僕じゃなくてマルグランダがヒロインって線もあるか?
僕はマジマジと目の前の美少年を見つめた。
陶器のような白い肌、クルクル巻き毛の金髪、薄い茶の瞳に長い睫毛、花びらのような唇。
——うん。
絶対にこっちがヒロインのスペックだよな。
「なに? そんなに見られると照れるんだけど」
「いや……先輩って美人ですよね。すごく綺麗だなって」
ジンとミザリーがビックリしたように僕を見る。
——変なこと言ったかな?
グラン殿下がクスクスと笑った。
「それは初めて言われたな。女性を褒める時の言葉だよね?」
「え? あ、そうなんですか? いや、変な意味じゃないんですけど」
「……うん。嬉しいよ。ありがと」
——なんか、ジンが溜息ついてる。
ププラが口元だけでニッと笑った。
「先輩と後輩の仲が良くなるのはいい事だけどね。アンドリューはグランを贔屓しないで」
「へ? 贔屓ですか?」
「そうだよ。だって、君、他の人に綺麗とか言った?」
ミザリーが少し顔を赤くして俯く。
その様子を目にしたププラが、シュッと目を細めた。
「ふーん。ミザリアには言ったわけだね? そこの君、君は?」
ププラに話を振られたジンは、ゲッソリした顔で首を振った。
「言われてない。なるほど——」
「何なんですか?」
「僕も綺麗とか言われてないなと思ってね」
「思わなきゃ言いませんよ」
——あ。
対応を間違えたか?
ププラ先生の目から光が消えてる。
「えっと。そうですね。先生は綺麗と言うか……大人ですね」
「まんまだね」
「まあ、そうですけど。……あぁ、着物が似合うと思います」
——なに?
ププラはイキナリ、パァアアッと明るい笑みを浮かべた。
「ほんと? 似合ってた?」
「そう……思いますよ」
「よし! 次の授業は着物で来るね!」
——嬉しそうだな。
もしかして、日本贔屓設定なのか?
実際には彼が何を着てても、どうでもいいけど。
……言ったら面倒臭そうだから黙ってよ。