生徒会3
部屋を出る時、マルグランダ第二王子にお礼を言わなきゃと思って足を止めた。彼が特例を持ち出してくれたから、話がスムーズに決まったんだし。
「あの、提案をありがとうございました。スヴェルガ殿下」
綺麗な顔に微笑を浮かべたマルグランダ・スヴェルガは。
「気にしないで。君って面白そうだと思っただけだし。僕のことはグランって呼んでよ。同じ歳なんだしさ」
「そうなんですか? えっと、じゃあ、また。グラン殿下」
彼は笑いながら、ヒラヒラと手を振った。
部屋を出て、ちょっと考える。
同い年なら同級のはずだが、あんな美形がクラスに居た覚えはない。それに、王太子は二年のメンバーだって紹介してたよな? けど、弟とも言ってた。
「どうかしましたか?」
足を止めてると、ミザリア嬢が尋ねてきた。
「え、あ。いや。グラン殿下って同じ歳だっていうわりに、クラスに居なかったなって」
「そうですね。彼はジュニアクラスの時に飛び級した二年生ですから」
「飛び級?」
「はい。とても優秀な魔法使いなんです」
——この学園、飛び級があるのか。
しかもジュニアクラス?
あるんだな、そういうのが。
「クライド様」
「リューでいいよ、ミザリア嬢。ジンもそう呼ぶし」
「では、私のこともミザリーとお呼びください」
彼女はニコッと笑って深く頭を下げた。その笑顔が綺麗だったのもあるけど、頭を下げられてビックリだ。
「え? ちょ、どうしたの。ミザリー」
「リューのお陰で私も話を切り出しやすくなりました。有難うございます」
「いや、礼を言われるような事じゃないだろ。辞退したのは僕の都合だし」
「それでもです。私の立場ですと、切り出し難かったので」
ジンが、少し抑えめな声を出す。
コイツの声って、なんか、甘いよな。
耳が擽ったいっていうか……。
「良かったのか?」
「何がでしょう?」
「生徒会活動に身を入れなくてさ。君は……ルドルフ殿下の許嫁なんだろう?」
彼女は小さく苦笑を浮かべた
「婚約は親同士が決めたことですから。なんと言いましょう。私の立場では、好きに振る舞えるのは学生である間だけです。その時間を有効に使いたいと思っていたので、準役員で済んだのは有難かったのですよ」
そういうもんなのか?
「良い所のお嬢様ってのも大変だな」
——と。
彼女は弾けるように笑った。
へぇぇ、こんな感じに笑うんだな。
綺麗な娘だし、年相応に愛らしいじゃないか。
「そんな風に言われたのは初めてです。貴方だって、男爵家の嫡男ではないですか。後々には妻を娶るでしょう?」
「あ、ああ、そうだったかな?」
僕を見て、ミザリーがクスクス笑う。
けっこう、表情が豊かなんだな。
「笑ってしまって申し訳ありません。お二人には謝罪しなければと思っておりましたのに」
「ええ? なんかあった?」
「はい。マルガリータ達が失礼をした時の謝罪を」
彼女は少し申し訳なさそうに目を伏せる。
「止められずに申し訳ありませんでした。本来なら、私が止めるべきでしたのに。力及ばす、あのような事態になりました。本当に、申し訳ありません」
ジンは良い奴だし、そんなに恐縮しなくて大丈夫なのにな。
「気にしなくて良いよ」
「…いえ、私が至らないばかりに」
もう一度、頭を下げられて僕は慌てまくる。
「謝る必要ないってば。君が絡んだんじゃないんだし」
「ですが——」
「それより、準役員とはいえ生徒会のメンバーになったんだし、一緒に頑張ろう」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、こんなに聡明で綺麗な女の子と生徒会の仕事ができて嬉しいよ」
「……あ…あの」
——と。
彼女はミルミル赤くなった。
あれ? こんな感じの褒め言葉は、聴き慣れてんじゃないのかな? 王太子の許嫁なんだし。お嬢様なんだし。
「そ、そうでしょうか?」
「もちろん」
彼女は、もう一度だけニコッと笑うと。
「ありがとうございます。お話できて良かったです。では、私はこれで」
そう言って去って行った。
ジンが軽く溜息をついて僕を見る。
どういう目つきだ?
「……お前って」
「なに?」
「けっこうな危険人物だな」
「は?」
「王太子の許嫁を、息するように口説くなよ」
「く、口説いてなんかいないだろ!」
「自覚ないってのは、なお厄介だな」
なんだよ——心外だな。
僕に言わせれば、危険人物は君の方だけどね。




